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研究助成

成果報告

2004年度

ポスト共産主義時代のロシア東欧文化

東京大学大学院人文社会系研究科教授
沼野 充義

 ロシア東欧圏では、1990年代以降、社会主義イデオロギーの呪縛から解放され欧米を志向しながらも、独自の民族的アイデンティティを目指すという複雑な現代文化創造のプロセスが進行している。本グループでは、ロシア東欧地域の様々な国・言語・ジャンルの専門家の参加を得て、この全体をできるだけ広く総合的にとらえるインンターディシプリナリーな共同研究を目指している。
 研究の進め方は、各共同研究者がそれぞれ自分の専門地域に関する研究を進めたうえで、研究会合に持ち寄り、議論して情報・意見の交換をはかる、という方式である。グループにとって基本的な活動として位置づけられる研究会合(共同研究者は都合のつく限り、できるだけ全員参加)はこれまで3回行われた。
 プログラムの詳細はホームページに譲るが、この3回の会合を通じて、計16名の専門家が報告を行った。テーマ的に内訳を見ると、ロシア関係が8名(うち2名は対論者として)を占め、それ以外は旧ユーゴスラヴィア圏、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ポーランド、ウクライナ、グルジアが各1名となっている。共同研究員以外にも、若手の研究者も積極的にゲストとして招き、報告を行っていただいている(3回で計5名)。若手研究者の養成も、この研究会の重要な課題と考えるからである。また報告者の中には、モスクワ大学から招聘したメシチェリャコフ教授、また北大の招きで来日したジュネーヴ大学のメイラフ教授といった、外国の著名な研究者も含まれている。
 この3回の基本的な研究会以外にも、様々な形で、シンポジウム、講演会などを積極的に組織し、研究の展望を拡げるようにつとめた。それらの活動を通じて取り上げられてきた地域とテーマを整理すると、以下のようになる。

ロシア関係――政治と文化、現代美術、バフチンの思想と現代詩、現代映画、民族問題と文学、ロシアアヴァンギャルドと現代、現代小説
旧ユーゴスラビア(文化状況全般)、チェコ(文化状況全般)、スロヴァキア(スロヴァキア語の動向)、ハンガリー(EU加盟と民族問題)、ポーランド(現代詩)、ウクライナ(現代ウクライナ語とロシア語の関係)、グルジア(文化状況全般)、リトアニア(文化・音楽)
現代ロシア東欧におけるユダヤ人問題

 この一覧を見ただけでもわかるとおり、非常に多様で広い地域が視野に入っているため、まだ総花的に上っ面を撫でたに過ぎないという面があることは否定できないが、これらの様々な地域の専門家が一堂に会して意見を交換し、議論する場を提供できたことの意味は大きいと自己評価している。研究会・シンポジウムなどはすべて一般にも公開し、共同研究者以外にも多くの聴講者を集めている。
 こういった研究活動の成果の一部は、現在論文集にまとめるべく、編集作業中である(年内刊行を目指す)。ただし、いまはまだ、この多様な内容を総合して明確な結論をとりまとめられるような段階ではない。幸い、次年度も助成金をいただけることになったので、継続して研究を続け、内容を掘り下げるとともに全体像を浮き彫りにしていきたいと考えている。その際重要な要素となるのが、各国のナショナリズムと、西欧およびロシアとの関係であり、それらの要素の複雑な相互作用から現在の文化プロセスの複雑さと多様性が生じているものと考えられる。(2005年8月31日 記)

(敬称略)

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