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研究助成

成果報告

2004年度

外へ向かう中国とインド
― 中間層の比較研究

中央大学文学部教授
園田 茂人

 中国とインドは、1990年代になって外資導入に向かって本格的な規制緩和を進めていった点で共通点をもつ。華僑や印僑が海外に多く存在し、これが自国の経済発展に大きく関与している点でも似た特徴をもっているが、本プロジェクトは、こうした共通の素地をもつ中国とインドで現在、急速に成長している中間層(本プロジェクトでは、管理職や専門職、技術職といったホワイトカラー的職業、すなわち「新中間層」に限定している)が、どのような特徴を有しているかといった点に比較分析のメスを入れることを目的としている。
 本プロジェクトと同時に立ち上がった科学研究費プロジェクト「外へ向かう中国とインド:内的発展とアジアへのインパクト」(代表:天児慧)とメンバーを一部重複させていることから、共同の研究会を7度実施し(ただし本研究プロジェクトに直接関連する研究会は3度)、中間層のみならず、政治体制や経済システム、社会発展などの側面から広く両国の特徴を比較するとともに、調査の実施に当たっての予備的な作業(アジア・バロメーター2003年データの入手と、そこで得られている知見の整理)を進めてきた。
 そこで明らかになった中国とインドの中間層に見られる違いには、以下の諸点がある。
 第一に、両国における外資の役割が異なることもあって、その経済的感覚に違いが見られる。具体的には、中国の方で能力主義への肯定や格差是認といった新自由主義的価値観が強く見られ、子どもを競争圧力に耐えられるよう教育しようとする姿勢が見られる。
 第二に、民主主義的政治制度がインドに定着しているためであろう、中国の方で自国の民主主義の現状に対する満足度や政治的有効性感覚、政府への信頼といった点で高く評価されるなど、政治的同調性が強く表出される傾向にある。
 第三に、母親のあり方や女性の生き方など、ジェンダー規範に関しては中国の方で「開放」的で、新中間層に占める女性の割合という点でも、中国の方が高くなっている。また、宗教が果たす役割に対する認識でも両国では大きな違いが見られ、総じて、インドにおける伝統的規範の強さが目立つ。
 他方で、比較的学歴が高く、子どもの教育に対して熱心である点、他の階層に比べて物質的に恵まれており、一種の既得権益層となっている点などで共通点をもつ。
 以上の知見を、特に労働者との対比を明確にするため、現在、日系企業で働く中間層と労働者層をターゲットに質問票調査をするための作業を行っている。というのも、アジア・バロメーターの場合、政治意識を多く質問しているのに対して、中間層の特徴は、その経済的観念にあると思われるため、調査のコストと調査実施の容易さを考え、日系企業の協力を仰ぎながら調査を実施する計画を立てたからである。この点では、研究助成申請書を書いた時点と異なっている。
 実際、(株)インドビジネスセンターの紹介により、トヨタ自動車やホンダ、スズキなど、中国とインドの両国に現地子会社をもっている日系自動車メーカーを中心に協力を仰ぎ、質問票による調査を実施することになっている。すでに質問票案は完成しているため、これを現地で配布して回収する作業を進めている。一部調査はすすんでいるが、8月末にインド、10月末に中国の調査協力企業をそれぞれ訪問し、中間層を対象にフォーカスグループインタビューを行い、データ解釈のための基礎資料を得る予定となっている。


(敬称略)

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