サントリー文化財団

menu

サントリー文化財団トップ > 研究助成 > 助成先・報告一覧 > 紛争解決と「信頼」に関する政治学的研究

研究助成

成果報告

2004年度

紛争解決と「信頼」に関する政治学的研究

早稲田大学政治経済学部教授
久米 郁男

 本研究は、政治的な紛争が解決される際に紛争当事者間の「信頼」がどのような役割を果たすかに注目して、異なる政策課題を取り上げて仮説発見的な検討を行うことを目指した。
 「信頼」の役割に関する政治学的関心は、近年内外の政治学者の間で高まってきた。そこで、我々研究プロジェクトでは最初に、アメリカ政治学会からこの問題に関心を持って先端的な研究を行っているイアン・シャピロ教授(エール大学)とマーガレット・レビ教授(ワシントン大学)を招き下記の報告をお願いし、藤原帰一(東京大学)と河野勝(早稲田大学)の両教授にコメンテーターをお願いしての研究会を久米の司会の下に持った。シャピロ教授は、“Problems and Prospects for Democratic Settlements: South Africa as a model for the Middle East and Northern Ireland?”と題する報告で、南アフリカ、中東、北アイルランドの民主的和解のプロセスを比較した。そこでは、解決過程における偶然性の要素が重要であると同時に、紛争解決に向けての当事者間のコミットメント問題の解決と正統性の要素が和解の成立に重要であることが指摘された。レビ教授は社会アクター間の信頼を補完する政府の役割を理論的に検討する論文“How Governments Affect Civic Engagement”を報告し、コメンテーターを交えて活発な討論が行われた。
 この第1回研究会を受ける形で、第2回は国際紛争解決に焦点を当てた研究会を第3回は国内紛争解決に関する研究会を持った。第2回研究会では、石田淳教授(東京大学)を招き「国際安全保障の空間的ガヴァナンス:境界と秩序の間の両義的関係」と題する報告をお願いし、コメンテーターには伊藤孝之教授(早稲田大学)を招き、討論を行った。報告は、少数派・多数派間の内戦をめぐるゲーム理論的分析であり、そこでもシャピロ教授が指摘したコミットメント問題の重要性が強調された。第3回研究会は、国内紛争として、年金問題をめぐる世代間利害対立を取り上げて、田中愛治教授(早稲田大学)に世論調査データ分析に基づき対立の構造の分析を報告していただいた。そこでは、レビ教授も提起した政府による信頼醸成の重要性が強く指摘された。
 以上の研究会を受けて、最終研究会では、T.J.ペンペル教授(カリフォルニア大学バークレー校)を招き、小泉外交と日本の政治変化についての報告をお願いした。小泉外交とアジアにおける信頼醸成の課題、小泉外交の国内的基盤などにつき、村松岐夫教授(学習院大学)をコメンテーターとして交えて活発な議論がなされた。
 以上のように、本プロジェクトでは、多様な政治領域を取り上げつつ、それぞれの政策領域における紛争解決のあり方と信頼の関係につき、仮説発見的な有意義な検討が行われた。今後、さらなる理論的な検討を行いつつ、紛争解決と信頼の関係に関する実証的な研究を完成させたいと考えている。

(敬称略)

サントリー文化財団