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研究助成

成果報告

2004年度

中国四川省との文物保護をめぐる共同研究

京都造形芸術大学芸術学部教授
岡田 文男

1. 研究の経緯
 1999年10月から岡田を代表とする「中国四川省との文物保護をめぐる共同研究」チームは四川省文物考古研究所と共同で、同省綿陽市に所在する永興山2号墓から出土した前漢時代の漆塗り木製馬の保存処理実験を進めている。
 この保存処理実験には岡田らが1990年代初頭に開発した高級アルコール法を用いており、2002年度には四川省文物考古研究所内に出土木製品を保存処理するための含浸装置を設置し、第1回目の実験を行った。2003年の前半には中国国内で新型肺炎が流行したため、研究の停滞を余儀なくされたが、後半には木製人形や漆塗り木製馬をあわせて40点処理し、成果を国際学術研究集会において共同発表し、中国国内の専門家から高い評価を得た。その研究成果が認められ、2004年1月には成都市考古研究所と成都市内にある商業街遺跡から出土した戦国時代前期の木棺や漆塗り木製品について、四川省考古研究所と同様の研究形態で保存処理実験を進める運びとなり、中国国家文物局の批准を得た。その結果、現在岡田らは四川省文物考古研究所並びに成都市考古研究所の両者と、文物保護のための共同研究を進めている。

2.国際共同研究の進捗状況
(1)四川省文物考古研究所
 四川省文物考古研究所との共同研究は、2004年度を最終年度と位置づけている。3年目となる2004年度には木製人形(木俑)10点と、漆塗り木製馬2点の保存処理実験を行った。共同実験が3年目に入ったことから、日常の実験(濃度管理)は中国側共同研究者にすべて任せ、岡田らは数ヶ月に一度現地を訪れ、実験の進捗状況を確認し、必要な指示を行った。
(2)成都市考古研究所
 2004年度には四川省文物考古研究所における保存処理実験と併行して、成都市考古研究所内に長さ4m×幅0.7m×高さ0.8mの樹脂含浸装置を設置し、木棺の下に敷かれていた枕木(長さ3.8m×直径0.4mのクスノキ材)を用いた保存処理実験を行った。実験開始当初、成都市の技術者が実験方法について未経験だったこともあり、脱水を何度か失敗し、アルコールを浪費したが、最終的に2004年12月に含浸濃度を100%にし、第1回目の含浸実験を終了することができた。実験終了後、実験結果を日中双方で検討し、実験の成功を確認した。
 第2回目の実験として、2005年3月から2005年8月にかけて、成都市内にある金沙遺跡から出土した中国最古級である約3000年前の木製鋤の保存処理実験を行った。第2回目の実験では日常の管理をできるだけ現地の技術者に任せ、実験の要所のみ日本側が指示を行った。その結果、2005年8月に木製鋤の保存処理を終了し、中国側・日本側とも非常に満足のいく結果を得ることができた。この結果についてまだ中国側の公式な発表は行われていないが、年内には発表される予定である。

3.今後の展開
 四川省内から出土した文化財を保存するための国際協力をはじめて3年が経過し、実験結果が蓄積される中で、中国国家文物局副局長が今回の実験結果を視察した。そのほか、中国各地の文化財関係者の間でも少しずつ今回の共同実験の成果が知られつつある。
 そこで2005年度中に、2004年度までに行った実験の成果を総括し、四川省文物考古研究所において国際研究集会を開催する予定である。
 今回の国際共同研究とは別に、2005年8月になって長安の都がおかれた西安市文物考古保護所から岡田らに、文化財保存の国際共同研究の正式な申し込みがあった。このことは、岡田らの文物保護をめぐる日中共同研究が中国国内において着実に評価され始めたことを示している。

参考文献
岡田文男 『中国四川省綿陽市永興山2号墓から出土した漆塗り木製馬の保存処理実験』平成16年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2) 研究成果報告書 2005年3月)
岡田文男 「四川省綿陽市永興双包山二号漢墓から出土した漆塗り木馬の保存処理実験」『GENESIS』(京都造形芸術大学紀要第9号)2005年6月


(敬称略)

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