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サントリー地域文化賞

活動詳細

和歌山県

和歌山県 和歌山市 2023年受賞

和歌祭保存会
多様な芸能の復興を通して伝統の祭の活性化に取り組む

代表:和中 美喜夫 氏

2023年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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和歌祭保存会

 和歌山県北部に位置する和歌浦は、万葉集にも詠われた風光明媚な地として知られる。紀州徳川家初代当主・徳川頼宣は、ここに父・家康を祀る東照宮を1621年に創建。翌1622年に和歌祭を創始した。祭では約1,000人もの民衆が神輿を担ぎ、山車を引き、40種目以上の芸能を披露しながら街中を練り歩く。それぞれの芸能は城下町民による「株」という組織が担い、明治以降も旧藩士らが出資して和歌村の人たちがその技芸を代々継承してきた。しかし徳川家というパトロンを失って以降資金面で苦慮することになり、太平洋戦争中、祭は完全に途絶えた。

 1948年、和歌山市の商工会議所の尽力により商工祭の中で祭が再開されたが、パレード行進を中心とした内容で、道中での芸能披露の機会が減少。その後、費用などの問題もあって1984年を最後に祭は再度中断した。

 こうした中、和歌浦の住民を中心に1985年に和歌祭保存会が結成された。当時10程度存続していた株の名簿を作成して株同士が連携できる体制を整え、1990年に祭を再開。1999年には保存会の若手有志が青年部(現在の実行委員会)を結成した。若手ら自身は祭の歴史や芸能について知らないことが多く、存続していた株の親方に教えを請いながらあらためて祭について学び直すと同時に、祭の活性化を目指して芸能の復興に取り組むことになった。

 芸能の復興は、和歌山大学の協力を仰ぎつつ、地域住民が主体となって持続できる形を目指した。例えば、2010年「唐船」という種目で歌われていた「御舟歌」を復興した際は、今後の担い手を考慮して女性も一緒に歌える音程に変更したほか、担い手確保のために和歌浦地区でワークショップも開催した。

 御舟歌復興の反響は大きく、他の株からも自分たちの芸能も復興させ歴史的価値を高めたいという相談が保存会に寄せられるようになり、2012年には「餅搗踊」のお囃子が復興、2017年には和歌山大学の研究プロジェクトの一環として352年ぶりに「唐人」が復興した。唐人は当時日本に来た外国人を模した種目で、装束の考証から和歌山大学の留学生が関わった。その後も唐人の株は和歌山大学が継承し、学生が入れ変わっても毎年株を維持している。2021年にはさらに3種目が復興、この3種目の新たな株は地元企業や小学校の運動部が引き受け、祭の担い手の輪は着実に広がっている。

 芸能の復興を通じて祭を活性化させた原動力は、祭を続けたいと願う地域の人たちの思いだ。祭の永続に向けて、先人たちの思いをつなぎ、地域内外の力を合わせる役割が、保存会にはますます期待されている。

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