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カルーソー

ビーフィーター ジン 47度 2/4
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ルジェ グリーンミント 1/4
ステア/カクテルグラス

ファビアンとダルラの歌声に知る

オペラ史上、偉大なテノール歌手のひとりエンリコ・カルーソー(1873−1921/伊語発音はカルーゾ)の名にたどりつくまでに随分と時間がかかった。今回は要した時間の通り、遠回しに話をすすめていくことにする。

きっかけをくれたのはオペラ界で活躍している人ではない。シャンソン、カンツォーネをはじめさまざまなジャンルの曲調を自分の世界へ見事に昇華させてしまうヴォーカリスト、ララ・ファビアンの歌声だった。わたしは20年以上、彼女の歌声に魅了されている。圧倒的な歌唱力はもちろん、とても魅力的な女性で、劇的ともいえる表現力に身体が電磁波を浴びたかのような感覚に包まれる。

何よりも素晴らしいのは、彼女自身が歌う悦びに満ちていることだ。聴く者の血を震わせるほどの情感にあふれ、それが悦びとして伝わってくる。

ファビアンは1970年、ベルギーに生まれた。父がベルギー人で、母はイタリア人。フランスを中心にヨーロッパやカナダではスーパースターでありアメリカでも人気があるのに、残念ながら日本ではあまり知られていない。未だ来日公演もなく、フランスとの関わりが深い知人にプレゼントされた数枚のCDやDVDで満たされるしかない。

誰かにファビアンの話をすると、おすすめの曲はとよく聞かれる。彼女の代表曲ともいえる『Je T’aime』をまず伝える。他には、と返されると、カバー曲である『Je Suis Malade』『Adagio』『Caruso』などを挙げる。

1990年代後半、『Caruso』を何度も聴くうちに、このカンツォーネの名曲は誰がつくったんだ、カルーソーってなんなんだ、と気になってしまう。

いまのように検索サイトが充実していなかったから、ファビアンのCDをプレゼントしてくれた知人にイタリア語の歌詞の内容を教えてもらうしかなかった。そして1986年にルチオ・ダルラ(1943−2012/ルーチョ・ダッラ)が作詞、作曲したものだと知る。

ダルラが、ナポリ生まれで48歳の若さで逝った偉大なエンリコ・カルーソーを偲んでつくり上げた、とても幻想的な詞である。

しばらくしてダルラの歌う『Caruso』を聴く。作者ならではの説得力と男ならではの渋さがあった。男女の違いはあるにしてもダルラ、ファビアンとも情感にあふれ、切なく語るように歌い上げている。どちらも圧巻だ。

面白いことに、ルチアーノ・パヴァロッティ(1935−2007)も『Caruso』を歌っていた。残念ながらダルラ、パヴァロッティともすでにこの世にいない。

ダルラの想いをカクテルとともに味わう

さて、エンリコ・カルーソー。1895年にミラノで大成功をおさめ、20回ものレコード録音をおこなった。パリ、ロンドンでも観客を魅了し、1903年にはアメリカのニューヨークに渡ってメトロポリタン歌劇場で人気を高めるとともに、ビクター社と契約して数多くの曲をレコーディングする。

レコード録音を盛んにおこなった最初の大物歌手であり、彼の美しい声と声量が蓄音機の普及に大いに貢献したといわれている。あのデッカいラッパ型の蓄音機である。彼はオペラの曲だけでなく、ポピュラーから民謡まで歌った。ナポリ民謡『オー・ソレ・ミオ』を世界中に広めたのはカルーソーの歌声をおさめたレコードである。

世界的名声を得たカルーソーだが、1920年、メトロポリタンの舞台で喀血。生まれ故郷ナポリに戻り、療養生活に入る。最期を迎えたのはイル・グランドホテル・ヴェスヴィオだった。彼はこのホテルを「ナポリの我が家」と呼んで愛した。

1882年開業のホテルだが、第2次世界大戦の爆撃により破壊され、1950年に再開している。ホテル眼前はカプリをはじめとした島々を結ぶ船が出る港、そしてナポリ湾、遠くにヴェスヴィオ山が望める。ヘンテコリンな名、卵城ことカステロ・デル・オーボの石づくりの要塞も間近にある。

ホテルのルーフガーデンレストランの名は『エンリコ・カルーソー』。わたしはこのレストランで彼の名を冠したカクテル「カルーソー」を飲んでみたい。

カクテル「カルーソー」はマティーニにミントリキュールを加えたものだ。いつ、誰がつくったのかは知らない。行きつけのバーで飲んだとしても、おそらく多くの人がミントキャンディみたいな味わい、と言っておしまいとなり、深い感慨をもたらすまでには至らないだろう。なかには、なんでオペラ史上偉大なテノール歌手の名がついているのか、と疑問に思う人もいるはずだ。

しかしながらいろいろ遠回りしたわたしには、緑色したミントキャンディ味であっても、格別な想いがあるのだ。

曲の『Caruso』には、海のような緑の眼をした若い女、といった歌詞がある。ダルラが表現した緑の海とは、最期を迎えたカルーソーが眺めたナポリ湾である。そんな歌詞に想いを寄せながら飲めば味わいはまた違ったものになる。抱いたイメージに、シーンや空気感がミックスされれば味わいは深まる。もしそこにダルラやファビアンの歌声が流れてきたならばより物語的な、より感動的な味わいとなるに違いない。

ファビアンの歌声をライブで聴きたいと願うと同じように、カクテル「カルーソー」もナポリのホテルレストランで飲みたい。もうひとついえば、ダルラのライブにも行ってみたかった。こちらは叶わないから、歌のように切ない。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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