連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2020年6月17日 プリムール本来の姿への回帰

前報にて、3月16日に発動された外出制限直後の遅霜との格闘、プリムール延期について報告しました。今回はその後2カ月の現地の奮闘と、プリムールの話題をお伝えします。

3月末〜4月頭の一週間にわたる遅霜との格闘が一段落した矢先、今度はまさかの雹が4月18日にサン・ジュリアンを襲いました。パチンコ玉程度の雹が降り、枝と展葉したばかりの葉に多くの傷がつき、病害リスクが一気に高まりました。一刻の猶予もない状況で、スタッフは週末にも関わらず降雹の翌日から直ちに薬剤散布に取りかかり、病害の蔓延を未然に防いでくれました。4、5月は平年を2℃上回る暖かさに加え、降水量も平年の1.5倍もあり、この機敏な対応がなければ惨事となった可能性が高かったと思います。今年は有機栽培区画を30haに増やす計画でしたが、例年の10haに縮小せざるを得ないほど、病害リスクが高い状況でした。外出制限下に襲ってきた厳しい自然との闘いでしたが、遅霜対策に続いてのスタッフみんなの頑張りで、現時点では健全な生育を確保できています。

ただ、今回の降雹で気になることがあります。雹が降るエリアは、地形と気候条件で「雹の通り道」と呼ばれる特定のエリアに集中し、これまでラグランジュ周辺では、サン・ジュリアンの南のキュサックの、更に南部が通り道のひとつだと言われており、サン・ジュリアンは外れていると考えられていました。たまたまズレた降雹なら良いですが、仮に温暖化の影響で通り道そのものが北上し、サン・ジュリアンがエリアに入るとすれば、事は深刻です。隣のグリュオー・ラローズは、万一の降雹に備え、20年ほど前から雹害対策のカノン(大砲)を設置しています。ラグランジュでもカノン設置の検討が必要とならないことを祈ります。

ぶどうの開花は、平年より10日も早い5月24日にピークを迎えました。開花期は天候に恵まれましたが、6月に入ってから雨がちの天候が続き、病害リスクは継続していますので、収穫まで気を抜かずに畑の管理を徹底していきたいと思います。

醸造工程では、遅れていたフィエフと白の瓶詰が、5月中下旬に行われました。外出制限中は木箱生産者の活動が認められず、解除となる5月11日まで木箱が供給されなかった為です。瓶詰は異物混入を防ぐため密閉空間で行われますので、「三密を防ぐ」為に配置する要員数を減らし、作業員はフェイスシールドで安全を確保しながら、平年より時間をかけてようやく終了しました。6月末からは、シャトーものの瓶詰が始まります。

さて、実施が危ぶまれたプリムール販売ですが、5月最終週より、オファーが順次開始されています。プリムール実施の要となる①クルチエ、ネゴシアンによる試飲、②世界の主要ジャーナリストによる試飲、③バイヤーなど顧客の試飲、は、外出制限が解かれた5月11日以降、ユニオン・デ・グランクリュの手配で、ボルドーおよび世界の主要都市にて「三密回避」を遵守した分散試飲会が実施され、プリムール開始の条件が揃ったためです。4月にはイギリス、アメリカのインポーターの有志が共同でサインして、今年のプリムールを秋以降に延期要請するレターがユニオン・デ・グランクリュに送られましたが、プリムールでの前金に依存する中小の生産者、およびネゴシアンにとっては死活問題ですので、実施に漕ぎ着けた事を素直に喜びたいと思います。

「先行きの見通せない状況下で、誰が買うのか?」との指摘には一理あります。生産者としての私の返答は、「だからこそ、今年のプリムールは本来あるべき姿を取り戻すので、絶対に買い」です。もしコロナ禍が無ければ、間違いなく2016年ヴィンテージに匹敵する値付けがされたであろう2019年ヴィンテージです。投機的なリスクマネーが相場を吊り上げる可能性がありました。そんなヴィンテージが、前年を20%程度低い価格でオファーされますので、生産者が前金を受け取って生産を継続でき、かつ買い手も瓶詰前にメリットある価格で入手出来るという、本来のプリムールのシステムが機能するという事です。

リーマンショック直後の2008年ヴィンテージのプリムールがバーゲンと言われ、プリムールで買ったお客様は本来以上のメリットを享受出来ました。品質と価格を考えますと、2019年ヴィンテージこそが、後世に大バーゲンと言われる事になると思います。最近はフランスのみならず、世界中で、ネット販売業者経由で一般の方もプリムール購入が出来るようになってきています。私も今年はラグランジュ、フィエフともに買うつもりです。皆様もこの機会にプリムール購入を体験されては如何でしょう。

写真1:4月18日に降ったパチンコ大の雹。
写真1:4月18日に降ったパチンコ大の雹。
写真2:雹で傷ついた枝と葉。傷口が病原菌の入り口になりやすい。
写真2:雹で傷ついた枝と葉。傷口が病原菌の入り口になりやすい。
写真3:木箱へのワイン詰めも、フェイスシールド+作業者を隔てるアクリル板を併用して実施。
写真3:木箱へのワイン詰めも、フェイスシールド+作業者を隔てるアクリル板を併用して実施。
写真4:単独作業の木箱パレット積みでも、フェイスシールドを着用。
写真4:単独作業の木箱パレット積みでも、フェイスシールドを着用。
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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