連載

ワイナリー便り:シャトーラグランジュ便り
2019年8月4日 <異常気候の常態化>も確信へ

遅い梅雨が明け、日本もようやく本格的な暑さが始まったと聞きました。暑中お見舞い申し上げます。フランスでは一足早く、熱波の波状攻撃を受けています。暑い夏の話の前に、春先からの気候を簡単にまとめたいと思います。

前号では暖冬、特に記録的な2月の暖かさに触れました。4月の気温は平年並みでしたが、雨が多く、降水量は平年の1.5倍を記録しました。5月は、降水量は逆に平年の半分と少なかったものの、気温は平年を1.3℃下回る肌寒い5月でした。暖冬で生育が進んでいた分、霜害の懸念から天気予報とにらめっこの日が5月半ばまで続きます。案の定4月13日の早朝には−0.4℃、5月6日早朝にも0℃を記録し、藁を燃やして霜害対策を取る必要に迫られました。サンジュリアンでは幸い、一部の低地の区画以外ほとんど被害はありませんでしたが、オー・メドックの低地区画では残念ながら被害が見られました。オー・メドックが、サンジュリアンに比べ気候面でハンディを背負っているという現実を突きつけられます。

6月は前半と後半で大きく気候が変わりました。前半は平年を3℃下回り、6月4日から14日まで、9日を除いて連日の雨でした。今年の開花期は6月前半だった為、開花がこの時期に重なった区画では、一部花振るい(受粉が上手くいかず実が落ちてしまう事)やミルランダージュ(同じく受粉不良で小さな種無果となる事)が多く見られます。品質には大きな影響はないものの、収量は減る可能性が高まります。一昨年の霜害、昨年のベト病に続き、今年も若干、数量減となるかもしれません。6月後半は対照的に快晴に恵まれ、気温も平年を4℃上回り、特に26、27日と38℃の酷暑が一気に襲ってきました。

そして7月には、中長期予報通り歴史的な暑さに見舞われます。まず7月前半は連日30℃越え、特に4、5日と35℃を超える第二波が来襲し、第三波の7月23日には41.2℃というボルドー観測史上最高気温を記録しました。翌24日も38.5℃、その前後も36℃と厳しい熱波の到来です。7月の月間平均気温は、平年より+2.5℃高い23℃となりました。ちなみにパリでも7月25日に42.6℃と、1947年の40.4℃の記録が塗り替えられています。

7月の降水量は26.5mmと平年比39%減の乾燥した7月でした。日差しの強い南向き、西向きの摘葉を抑えた事も有り、大規模な日焼けの被害は避けられましたが、それでも南西向きの直射日光が当たった果房では、まるでバーナーで炙られたかのような日焼け跡が残っています。気温が42℃であれば、直射日光が当たる場所では50℃を超えると言われますので、無理もない話でしょう。日焼けが更なる収量減に繋がらないと良いのですが・・・

さて、今回は少し経済に目を向けてみましょう。隣の英国ではブレクジット推進派の首相が誕生し、10月末の期限に向け、ハードランディングの可能性も否定できなくなってきました。既に為替はリスクを織り込む動きに入っており、中国の減速と併せ、ボルドーワイン業界にとっては逆風が強まってきています。そこへ加わった新たな頭痛の種は、トランプ大統領がツイートした、フランスワイン輸入に対する関税(20%)の導入検討です。これは、フランスがGAFAに対して検討している課税への報復措置で、単なる交渉カードでなくなる可能性が十分にあります。ボルドーワインにとって、アメリカは中国、香港に次いで3番目の輸出国です。中国の減速と米国の関税が重なれば、上位3か国への輸出に大きなブレーキがかかる事は避けられないでしょう。リーマンショックは中国の爆買いで乗り越えたボルドーも、今回ばかりは深刻な状況に陥るリスクも高まってきました。ボルドーの暑い夏に、冷や水を掛ける結果にならない事を祈るばかりです。

写真1:熱波でベレーゾン(着色)も平年より早い7月末に開始
写真1:熱波でベレーゾン(着色)も平年より早い7月末に開始
写真2:根の浅い若い補植株(写真手前)では高温と乾燥で黄葉・落葉も
写真2:根の浅い若い補植株(写真手前)では高温と乾燥で黄葉・落葉も
写真3:41.2℃の記録的な熱波で日焼けを起こした果房
写真3:41.2℃の記録的な熱波で日焼けを起こした果房
シャトー ラグランジュ
椎名敬一

葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。

 
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