今回のレシピは、サーモンのムニエルです。ムニエルは、フランス料理の伝統的な技法のひとつです。魚の切り身に塩と胡椒とで下味を付け、小麦粉をまぶしてバターでこんがりと焼く調理方法です。ムニエル:meunièreはムニエ: meunierの女性形ですので、粉屋のおばさん、と言った意味です。ムニエはワイン好きの方々には、ぶどう品種の名前として親しみがありますよね。AOPシャンパーニュで認定されている3つの品種の一つです。ぶどう品種のムニエは、ぶどうの葉の裏や表面に粉に見える産毛が沢山生えているのでムニエと呼ばれました。料理を作る時に、高価なバターをふんだんに使いだしたのは、ルイ14世の治世(1661〜1715年)のグラン・シエクル(偉大なる世紀)である、とされています。なのでムニエルは17世紀頃からつくられ始めていると推測されます。ムニエルに良く使われる魚としては、舌平目や鱒でした。今回のムニエルはサーモンです。サーモンは英語ではsalmonで、日本では鮭と呼ばれます。古い字体では魚扁に生と表記し、生臭い魚の意味だったそうです。室町時代には、既に鮭の文字に変わっていて、読みは「サケ」だったようです。鮭は日本人にはとても馴染み深い魚です。日本の関東以北の川には産卵の為に多くの鮭が遡上しました。川では、海に居る時よりも捕まえるのが簡単なので、大事な食糧だったのです。古来の日本人にとって鮭は、サケ科サケ属のサケOncorhynchus ketaという種だけを指していましたが。その後いろいろな種のサケ属の魚が流通するようになって鮭はサケ属全般のみならず、属を飛び越えたサケ科サルモ属のアトランティックサーモンも広義の鮭に含むようになりました。皆さんが刺身で食べるサーモンの多くはアトランティックサーモンです。産地はノルウェーやチリで、日本のサケからは、少し遠い親戚です。アトランティックサーモンよりも近い親戚は、サケ属に属しているギンザケ、キングサーモンと呼ばれるマスノスケやベニサケです。ギンザケは日本の河川には、基本的に遡上しないと言われています。日本において養殖技術が確立し、チリにも導入されました。現在日本では宮城県志津川湾で多く養殖されています。キングサーモンは日本でも僅かに漁獲されます。キングサーモンのキングの名前の通り、非常に高価で、滅茶苦茶美味しいです。ベニザケは、塩焼きとかで、良く口にする魚ではありますが、日本周辺では、ほぼ漁獲されません。主にカナダやアメリカから輸入されています。まとめると、かつての日本人が日本国内で目にする鮭は、ほとんど総てがサケOncorhynchus ketaだったのです。流通が発達するようになって上記の広義の鮭が沢山入ってくるようになってしまったので本家のサケは市場ではシロサケと呼ばれています。サケは川を遡上し産卵し受精します。その後、稚魚は海に下り、最初は汽水域で生活します。その後、北の海へと移動します。そこで3年から5年程、栄養を蓄えて、生まれた川へと帰ってくるのです。この生まれた川に戻る事を母川回帰と呼び、サケは母川回帰率が高いとされていました。川を遡上し始めたサケを捕まえ人口孵化させて川で放流する放流事業は、このサケの母川回帰率が高い習性を利用しています。放流事業の歴史は古く、初めて放流事業を行ったのは250年前に、新潟県の三面川で青砥武平治という先駆者が、世界で初めて鮭の天然産卵を保護する種川制度を取り入れたのです。長年の放流事業の継続と広がりで日本では、鮭は沢山漁獲出来ていたのですが、近年は、不漁が続いています。もともとサケの母川回帰率は北のエリアが高く、南に行くと下がる傾向がある事が報告されています。近年の利根川の放流事業の母川回帰率は、なんと0.1%を切っています。もしかすると近年のサケの不漁は、温暖化の影響があるのかもしれません。ちなみにサケ(シロサケ)は、日本に帰ってくるタイミングの違いで呼び名が変わります。通常のタイミングである秋に成熟魚として戻ってくるサケ(シロサケ)は秋サケ、未成熟の3歳程度で帰ってきたサケ(シロサケ)は鮭児(ケイジ)と呼ばれます。鮭児は体全体にふっくらと脂が乗っていて絶品です。1万匹に1匹くらいしかいないこともあり、とても高価です。トキシラズは通常のタイミングではない、春から初夏にかけて日本に接近してくる未成熟のサケです。未成熟ですから普通のサケだと卵や白子に行く栄養が身にとどまっていますので、とても美味しく、著しく高価です。
今年のサケの漁獲予想は、今までの最悪の不漁と言われた2025年よりも、更に半減位の漁獲になりそうだ、との事です。この予測は、地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 さけます・内水面水産試験場 さけます資源部から発表されています。なので、今年のサケ(シロサケ)は、かなり高価になりそうです。そうなると比較的価格が安定している養殖を試してみるのも良いのかもしれません。ノルウェー産のアトランティックサーモンやチリ産のギンザケやアトランティックサーモンの価格は安定しています。国内の陸上で養殖されている銘柄サーモンも良い品質の物があります。長野県の信州サーモンや山梨県の富士の介などはレストランなどでも良く目にします。現在日本ではご当地サーモンが100以上あるそうです。今回のマリアージュ実験では山梨県の頂純サーモンを使用しました。頂純サーモンは陸上の人工海水の水槽で養殖したニジマスです。
サーモンに胡椒を軽くふり、小麦粉をまんべんなくまぶします。フライパンにオリーブオイルを入れて中火で熱し、サーモンの皮目を下にして並べます。弱めの中火で、皮がパリッとするまで5分ほど焼きます。上下を返し、バターを加えます。溶けたバターとオイルをスプーンでサーモンにかけながら、さらに2分ほど焼いてから取り出します。残ったオイルに白ワインを加えて、よく混ぜながら少しとろりとするまで煮詰めたら出来上がりです。
さて、このサーモンのムニエルにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 高山村 シャルドネでした。長野県の北信エリアにある高山村の栽培農家さんに育てていただいたシャルドネで醸したワインです。高山村は信州高山村観光協会のHPに拠ると「星とワインとゆ(湯)の村」だそうです。長野市の中心部から東北東に、およそ20kmの距離にあります。東西約18 km、南北11km、東に行くほど標高が高くなります。村の約85%が森林・原野です。ぶどう畑は、村の西の扇状地にあります。標高の高い畑は約700m、低い所は400m程度なので、同じ高山村でもニュアンスの異なるシャルドネを得る事が出来るのです。マリアージュ実験に使ったのは、2025年ヴィンテージです。2025年は、一言で言うと少雨で高温続きの良いヴィンテージでした。9月20日頃までは夜温も高い傾向で降水量は少なかったです。収穫時期に少しあった雨の影響を回避できた事で、良質で健全なぶどうを収穫出来た年でした。色は少し濃さのあるレモンイエローです。注がれた状態で甘やかな香りが立ってきます。スワリングすると熟したリンゴ、ゴールデンデリシャス、白桃やパイナップルなどの果実を思わせる香りが広がります。ほんのりとバニラの印象と香ばしさも感じられます。アタックは程良い力感があって、程良い凝縮感もあります。果実の甘みも感じられ、高山村らしい酸味とのバランスが良いワインです。多層的で中盤の伸びがあり、心地良い余韻に繋がります。最後の最後でフレンチオーク由来の僅かな苦みが味わいを引き締めています。
サーモンのムニエルと合わせると、サーモンの穏やかな旨味とバターの味わいとが高山村シャルドネと合わさる事で、ゆっくりと広がっていきます。
「サーモンのムニエルって王道の美味しさですよね。フランス料理店でのマリアージュも、樽熟のシャルドネが鉄板です」
「サーモンの皮がパリパリに仕上がっていて、そのちょっと焦げたタッチが高山村のリッチなシャルドネとほのかに効いた樽香に良く合っています」
「鮭の皮って美味しいですよね。戦国時代の武将が畳一畳の鮭の皮があったらこの城と交換すると、言ったとか言わなかったとか、一時期テレビ番組で報道されていましたね」
「僕は、旅館の朝ごはんの塩じゃけの皮を外している人がいたら、食べるのか食べないのか?必ず聞きます。食べないと言ったら速攻貰います」
「特に、このムニエルの皮は極上のパリパリで、高山村に超絶的に合っています」
「今回使った頂純サーモンは脂が良く乗っていますから、ワインサイドの力がないと、力感のバランスは生まれません。良年の高山村シャルドネだからこそのバランス感だと思いました」
これから秋が深まりサケ(シロサケ)の漁獲も上向いてくるかもしれません。サケでもアトランティックサーモンでも日本の陸上養殖のサーモンでも、どんな鮭でもムニエルはとても美味しく仕上がります。是非、サーモンのムニエルに挑戦してください。そしてサントリーフロムファーム 高山村 シャルドネとの素晴らしい相性をお楽しみください。



