今回のレシピは、鯒とオリーブの軽いトマト煮込みです。コチはペルカ目カサゴ亜目コチ科に属する数種類の魚の総称です。ペルカ目は、かつてスズキ目と一緒に一括りにされていましたが、余りにもスズキ目の魚が多様過ぎるとして、ペルカ目を独立させました、目の名前を代表しているのは淡水にすむパーチ (Percidae)です。ペルカ目には、ハタやアラ、パーチを含むペルカ亜目や、ギンダラやアイナメ、ハタハタを含むカジカ亜目、ゲンゲ亜目と今回の主役のコチ科を含むカサゴ亜目などが含まれます。コチ科には、コチ属、メゴチ属、イネゴチ属やトゲゴチ属などが属していて、基本的に押しつぶされたような平らな形で、海底にへばり付く様に潜んでいたり、半分砂に潜ったりして獲物を待ち受けて狩りをする魚たちです。基本的に肉食で、ゴカイや甲殻類、小さな魚などを捕食します。今回のレシピに使う鯒はマゴチです。コチ属は、昔はコチの1種類だけだったのですが、ヨシノゴチやミナミマゴチが別の種である事が判明したので、コチ自体も、ヨシノゴチとの混同を避ける為にマゴチと呼ばれるようになりました。昔の築地市場でも、マゴチとヨシノゴチを一緒に「鯒」として売っているのを見た事があります。マゴチとヨシノゴチを比べるとマゴチの方が黒っぽくヨシノゴチの方が白っぽいので、マゴチを黒ゴチ、ヨシノゴチを白ゴチと呼ぶこともあります。鯒の文字は、魚偏に甬で、「甬」は「飛び跳ねる」の意味です。普段はジッと動かずに居るのですが、敵に襲われそうになると飛び跳ねるように逃げるので鯒の文字を、日本で作りました。また、コチは鮲とも表記しますが、これは海底に潜んでいるからです。また牛尾魚と表記する事もありますが、これは上から見た形からの連想でしょう。マゴチの身は光沢のある白身で、身質は引き締まっており、トラフグに似て、とても美味です。薄造りを橙酢で食べると絶品です。また古来「鯒の頬身」と呼ばれる両頬にある口を動かす筋肉が最高の味わいである、と言われてきました。マゴチの旬は初夏から秋にかけてです。特に真夏のマゴチは「照り鯒」と呼ばれ、珍重されます。マゴチにそっくりな形をしているのがメゴチ(女鯒)で、砂浜でのシロギス釣りの外道で釣れます。エラに大きな棘があって、不用意につかむと刺されるので嫌われ者になっています。メゴチを生き餌にして投げて置くと、今回主役のマゴチが釣れる時もあります。メゴチは、煮つけや天ぷらにするとシロギスよりもずっと美味なんですよ。今回のレシピの鯒とオリーブの軽いトマト煮込みですが、鯒は、鱗を取って3枚に下ろします。フライパンにオリーブオイル、にんにく入れて中火で熱し、香りがたったら、皮目を下にして焼きます。しっかりと焼き色がついたら裏返します。フライパンの空いた部分に玉ねぎ、セロリを加えてさっと炒め、オリーブ、トマト、白ワイン、砂糖を加えます。煮立ったら弱火にして6分ほど煮詰め、塩、こしょうで味をととのえます。お皿にうつし、オリーブオイルをかけて、イタリアンパセリを添えたら出来上がりです。短時間しか煮込まない「軽いトマト煮込み」ですので、ご馳走感がある料理の割には、手早くできます。
さて、この鯒とオリーブの軽いトマト煮込みにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 津軽 ソーヴィニヨン・ブランでした。サントリーは2020年に弘前市とJAつがる弘前と「ワイン用ぶどう産地としての津軽」を目指す3者協定を結びました。きっかけは、日本最大で、かつ権威あるワインコンクールである「日本ワインコンクール」において、サントリーの「津軽 ソーヴィニヨン・ブラン」が3年連続(2016年、2017年、2018年開催)で金賞を受賞した事です。ご存知の通り、弘前市はリンゴで有名です。農林水産省の2025年の統計によると全国のリンゴ生産量のうち、青森県が占める割合は61%で、弘前市だけで全国の31%も占めているのです。弘前市役所には「りんご課」があるのですよ。リンゴ栽培は作業工数が多く、しかも危険な高所作業が沢山有ります。弘前市もJAつがる弘前も、過度なリンゴ集中を避け、新しい農業の軸をつくる為にも3者協定に合意してくださいました。新しくワイン用ぶどうを植えてくださる契約農家さんも増えました。3者協定締結時には3軒しかなかったのですが2026年現在では9軒になりました。元々ソーヴィニヨン・ブランを栽培してくださっていた2軒は、なんと同級生です。お2人とも1948年のお生まれで、1980年代前半に太田 勇蔵氏が木村 登氏を誘う形でワインぶどう栽培を開始していただきました。なので、既に40年超のワインぶどう栽培のご実績をお持ちの大ベテランです。太田 勇蔵氏は若い頃にレコード会社に勤務しておられ、超有名歌手のマネージャーをされていました。その頃に素晴らしいブルゴーニュワインと出会ったのがきっかけで「自分も、ピノ・ノワールからワインを作りたい」という夢を持ち始め、ぶどう栽培を始められました。現在も熱い思いでピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランとリンゴを栽培されています。木村 登氏も若い頃は東京で仕事をされ1980年代前半に故郷に戻りリンゴ農家を継承されました。リンゴだけではなく、多様な農作物の栽培を実践され、その中の一つとして、ワインぶどうの取組があったそうです。現在もリンゴのほか、キュウリ、フルーツトマト、高級フルーツなどいろいろな作物に取り組んでいらっしゃり、現在、ワイン用ぶどうはソーヴィニヨン・ブランのみです。木村 登氏のご子息である木村 大志氏も就農され、2021年にソーヴィニヨン・ブランを植えられました。2024年には、シャルドネとピノ・ノワールも植え付けられました。今回イチオシに選ばれたサントリーフロムファーム 津軽 ソーヴィニヨン・ブランのヴィンテージは2025年です。2025年ヴィンテージの津軽 ソーヴィニヨン・ブランは太田 勇蔵氏と木村 登氏以外のソーヴィニヨン・ブランが初めて入った年なのです。つまり大志さんが2021年に植えたソーヴィニヨン・ブランも、順調に成長し、本製品に入る事が出来る品質になったのです。木村大志園は津軽富士と呼ばれる岩木山の南東向きの斜面にあり、太田勇蔵園や木村登園よりも、少し標高が高いです。2025年に収穫されたぶどうは生産者別に醸造され、翌年2月のヴィンテージ評価会で、どのような出来栄えか評価されました。太田勇蔵園のソーヴィニヨン・ブランは、りんご、白桃、グレープフルーツを思わせる香りがあって、ゆったりとした優しさのあるワインになりました。木村登園は早熟区と晩熟区で分けて収穫され、分けて醸造されました。早熟区はレモン、八朔、ライムなど、ちょっと酸っぱそうな柑橘をイメージさせる香りがあって、果実と酸味のバランスがよいワインでした。晩熟区は桃やマンゴスチンなどを連想される、柔らかみのある香りが豊かで、クリーンでいきいきとした酸味が感じられるワインでした。木村大志園は、ふわっと立ち昇る、アロマがあって、スワリングするとゴールデンデリシャスのインスピレーションがありました。軽やかなアタックでクリーン、キレを感じさせる酸が印象的なワインでした。他の契約農家さんのソーヴィニヨン・ブランをそれぞれ分けて醸造したワインも含めて、いろんな組み合わせのアッサンブラージュの試作を沢山しました、そして太田勇蔵園や木村登園の早熟、晩熟と木村大志園の4つをアッサンブラージュする事で津軽 ソーヴィニヨン・ブランの2025が出来上がりました。グラスに注ぐと、シルバーを思わせる輝きを持った淡いレモンイエローです。爽やかな柑橘や果皮を思わせる香りと白桃、リンゴ、石灰、グリーンハーブなどを思わせる香りが共存し複雑な印象です。フレッシュで完熟した果実味とイキイキとした透明感のある酸のバランスの取れた味わいの辛口白ワインです。
鯒とオリーブの軽いトマト煮込みと合わせると、鯒の上質な白身魚の繊細な旨味が広がります。
「鯒って、こんなに上品で繊細な味わいだったんですね」
「江戸時代の江戸や大坂の海岸付近で沢山獲れましたから、当時の代表的な高級白身魚だったんですよ」
「あまり、一般に流通しているイメージでは無い気がしていました」
「それが、最近では、スーパーでも丸ごとの鯒を見かける事があります。晴海、勝どきから月島のエリアでも、不定期ではありますが3軒のスーパーで丸ごとの鯒が販売されていました。それも結構手頃な価格でしたので思わす買ってしまいました」
「パリッと焼かれた皮目と、津軽 ソーヴィニヨン・ブランのフュメなタッチが良く合っています」
「鯒は火を通しても、余り堅くならずにふっくらと楽しめる魚です」
「トマトやセロリとの相性もばっちりですね」
「オリーブの、すこし植物的な香りともマリアージュしています」
皆様も鯒を見かけられましたら是非、この鯒とオリーブの軽いトマト煮込みの事を思い出してください。そしてサントリーフロムファーム 津軽 ソーヴィニヨン・ブランとの素晴らしいマリアージュをお楽しみくださいませ。



