今回のレシピは、鮎の洋風炊き込みごはんです。アユは、キュウリウオ目、キュウリウオ科、アユ属の魚で、英語ではAyu sweetfishです。キュウリウオ科には皆さんも口にする魚が何種も属しています。北海道の鵡川が名産の本シシャモや、スーパーで「シシャモ」として販売されているカペリン(カラフトシシャモ)、ワカサギやシラウオもキュウリウオ科の仲間です。淡水に住むものが多く、海に住んでいても川に遡上して卵を産む魚が多い科です。アユ属の魚は、日本から北ベトナムにかけて生息していて、基本的には1年で一生を終える魚です。日本では川魚の代表格として尊ばれています。アユの語源は「たべもの語源辞典」の清水桂一氏によると、九州の方言として今も使われている「落ちる」を意味する「あゆる」が転じたのではないか?としています。アユが秋になると、産卵の為に住んでいた上・中流域から下流に落ちてくるのをみて「あゆる魚」という意味でアユと命名したとしています。また、鮎の文字は、中国では鯰を指しますが、日本では、アユを指す文字になった理由には諸説あります。そのなかの「神功皇后がアユで占いをしたから」説をご紹介します。京都の祇園祭の山鉾巡行の前祭の舁山の一つに占出山(うらでやま)と言う山が有ります。ご神体は神功皇后で、「古事記」「日本書紀」に登場し三韓征伐をされたと記されている方です。この舁山の神功皇后は右手に釣竿、左手にアユをもっていらっしゃいます。このお姿は、三韓征伐の前にされた熊襲征伐のときに、「征伐の首尾占い」として釣りをしたところアユが釣れたという話をモチーフにしています。この事から、それ以前は「年魚」と表記されていたアユに、魚へんに占の「鮎」の文字が当てられたそうです。この山は応仁の乱以前から存在していた伝統ある山だそうです。鮎は下流域で卵から孵化し、稚魚のうちは河口付近の汽水域の、海底が砂質の所で生活しています。少し大きくなると川を遡上し上流から中流に住み、水棲昆虫の幼虫などを食べて育ちます。体長が10cmを超える頃に川底の石などに付く珪藻や水苔を、歯で削り取るように食べるようになります。鮎が住んでいる川底の石を見ると、鮎がこそげ取った跡が笹の葉の形のように見える「鮎の食み跡」を見る事が出来ます。珪藻や苔を食べるようになると、鮎独特の香気が発散されるようになります。この頃以降の鮎を「香魚」と呼びます。産卵期になると下流域に下ります。下る時期は北国では早く8月の下旬から下るエリアもあります。九州や四国では、それよりも遅く10月から、場所によっては12月になる所もあります。一般的には、産卵が終わると、その短い一生を終えますので「年魚」と言う呼び名が、かつて与えられました。稀には越年する個体がいます。静岡県の柿田川では、富士の湧き水で水温が低く、ひと夏では産卵できるまでには成長できずに越年する鮎が、しばしば見つかるそうです。そのほかダムなどで陸封されて越年する場合もあるそうです。日田市天瀬町で2020年の初夏に見つかった越年鮎は、この時点で既に29cmもあったそうです。鮎は苔を食むようになると良い場所を占領する「縄張り」が出来て、自分の縄張りに入ってきた他の鮎を追い払おうと体当たりをしてきます。この習性を利用したのが鮎の友釣りで、初夏から秋の日本の河川の風物詩です。各河川を守る漁協は解禁日を設けて管理をしています。長良川の長良川漁協では2026年の解禁日を5月11日に設定しています。高知県の四万十川上流を管理する四万十川上流淡水漁協では5月15日、熊本県南部の人吉盆地を流れる球磨川は、6月1日です。東北から北海道にかけては7月1日解禁が多いですが、岩手県安家川は8月1日解禁です。苔を食むようになると胡瓜に似た独特の香味があって食べたくなります。最近は養殖の鮎が手ごろな価格で購入できます。高品質な養殖鮎を目指す生産者には、餌に苔類を混ぜる工夫をしている方もいて、養殖とは思えない香りの鮎も流通しています。
さて、今回は鮎の洋風炊き込みごはんです。鮎を普通に炊き込みご飯にすると当然和風になってしまいます。これを洋の世界に誘うのは、素材としては、玉ねぎみじん切り、セロリ、塩漬けケイパーとたっぷり使う白ワインです。あと、玉ねぎなどを炒める時使うバター、オリーブオイルも洋風に変身させる原動力になっています。そして仕上げにあしらうクレソンも良い仕事をしていると思います。
さて、この鮎の洋風炊き込みごはんにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 登美の丘 甲州でした。わたくしが、このワインと合うレシピのコーナーの原稿を執筆し始めて20年以上が経過しています。月に2回のペースでアップしておりますので500回近いマリアージュ実験をしております。その実験で、評価者全員がイチオシに同じワインを選んだマリアージュは、数回しかないと記憶しておりますが、この鮎の洋風炊き込みごはんとサントリーフロムファーム 登美の丘 甲州は7人全員がイチオシに選んでいます。甲州ぶどうで醸した甲州ワインは、今、世界的に評価が高まっています。2024年のデキャンター・ワールド・ワイン・アワード2026でも登美 甲州 2022が日本ワインとしては今まで誰も獲得したことが無かった「ベスト イン ショー」を獲得しました。インターナショナル・ワイン・チャレンジ2026でも登美 甲州 2024が金賞を受賞しました。今回、マリアージュ実験でイチオシに選ばれたサントリーフロムファーム 登美の丘 甲州 2023は受賞した登美 甲州の弟分に当たります。登美の丘ワイナリーは甲府駅から北西に7km行ったところにあります。この地での、ぶどうづくりやワイン醸造の歴史の始まりは、1909年(明治42年)に遡ります。名前の登美は、丘を登って行って、小高くなっている所に来ると、美しく富士山を眺める事が出来たからです。明治8年(1875年)に、この近隣の村々が合併し「登美村」という名前として登録されました。江戸時代には、この登美の丘の一帯の山は近隣の村人の共有林としての入会地となっていて、村民達がコナラや榎から炭を焼いていました。明治維新で御料地となり、村人の手が入らなくなり、荒廃してしまったのを、明治42年(1909年)に小山新助が、5,960円(現在換算で約8,000万円)で官から民に払い下げを受ける許可を得ました。そしてぶどうづくり・ワイン醸造のために開拓を始め、登美農園と名付けました。ワインは出来たものの、当時の日本人は本格的な辛口ワインにはなじめず、経営は決して順風満帆とはいえませんでした。「登美農園」が次第に行き詰まっていった頃、サントリーの前身であった寿屋の赤玉ポートワインは売れに売れていました。もともとはスペインやポルトガルのバルクワインを日本人好みの味わいにブレンドしていた赤玉ですが、満州事変前後から日本への輸出の締め付けがあり、原料酒を国内で調達する必要性が出てきていました。困った鳥井信治郎が東京大学の坂口謹一郎博士に相談し岩の原葡萄園の川上善兵衛翁を紹介され、3人で坂口博士が関わっていた登美農園を訪れ、その素晴らしい斜面に惚れ込んで、1936年に「寿屋山梨農場」として引き継ぐ事になりました。東京オリンピックや1970年の大阪万博などをきっかけに、日本人も本格的な辛口ワインを飲むようになり、登美の丘ワイナリーでも徐々に本格的な辛口ワインをつくるべく、欧州系品種に植え替えていきました。甲州は小山新助が登美農園を開いた最初の頃から植えられていた記録があります。
2023年は過去9年間で気温が最も高く、降水量が最も少ない年でした。降水量については、4-10月合計だけを見ると、出来の良い年の平均並みなのですが、凝縮度に効いてくる7-10月は非常に少ない年でした。気温は7月8月ともにかなり高く、夜温も下がりませんでした。ポリフェノールの生成や香り成分の生成には夜温が下がる事が必要なのですが、最低気温が下がらなかったデメリットよりも、近年稀にみる少雨によるメリットが上回ったのか、健全で極めて高い熟度のぶどうを獲得する事ができました。グラスに注ぐと、色はかなり淡いレモンイエローです。八朔や夏みかんなどの甲州らしい、和の柑橘を連想させる果実の香りと、白桃をイメージさせる甘やかな香りと、ほんのりと炊いたお米のタッチがあります。しっかりとした厚みのある果実感と骨太な酸とが良くバランスしている、2023年らしい凝縮感のあるワインです。
鮎の洋風炊き込みごはんと登美の丘 甲州を合わせると、鮎の、胡瓜や少し若いメロンを思わせる香りが強調されていました。
「鮎らしい香りが、心地良く広がります」
「バターやオリーブオイルの洋風の香りと、鮎の香りって良く馴染むのですね。洋風と聞いたときに鮎と喧嘩しそうな気がしたのですが、全く違和感は無かったですね」
「甲州は、白身魚の刺身との相性の良さに注目されがちですが、野菜や山菜との相性もとても良いのです」
「去年の春に京都の草喰 なかひがしに伺う事があったのですが、大将の中東久雄さんが自ら山に分け入って採ってこられる山菜と登美の丘 甲州の美味しさに驚愕した記憶があります」
「ちょっとリッチな洋風炊き込みご飯に甲州が柑橘をぎゅっと絞ったかのような爽やかさを添えてくれています」
「鮎の腸も一緒に混ぜていますよね?全然苦くなくてびっくりしました」
「じんわりとした出汁が効いていて美味しいのですよ。でも、特にお出汁は引いていませんよね?」
「はい、焼いた鮎からの出汁が出ているのだと思います」
「昔、飛騨の料理屋さんで干し鮎を頂いた事があります。干すのに2か月も要する、とても手間の掛かる干し鮎ですが、身の旨みが凝縮し、卵はまるで極上の唐墨でした。その時に、大将から『これで出汁を引くと極上の出汁になる』と教えてもらった記憶はありますが、貴重過ぎて出汁にした事はありません」
「クレソンと甲州との相性もとても良くて、甲州の守備範囲の広さに驚きました」
これから鮎が沢山出回ります。ぜひともこの鮎の洋風炊き込みごはんに挑戦してみてください。そしてサントリーフロムファーム 登美の丘 甲州との極上のマリアージュをお楽しみくださいませ。



