今回のレシピは、ガパオ詰めズッキーニチーズ焼きです。タイ料理の大家である鈴木都先生のオリジナル料理です。ガパオは日本では、肉類をバジルと一緒に炒めた料理を指します。でも皆様がタイを旅行されて、タイ料理屋さんで「ガパオをください」と注文しても、きっと怪訝な顔をされます。何度も「ガパオをくれ!!」と繰り返し注文すると、皿にホーリーバジルを盛ってきてくれるかもしれません。そうです、タイでは、ガパオはホーリーバジルを指す言葉なのです。こういった微妙に違う名前は動物の名前にも良くありますよね。童謡にもなっている、お猿のアイアイは、アイアイを見た村人たちが口々に「わっ!びっくりした!!」と言う意味で「アエアエ!」と言ったのを、フランスの博物学者ピエール・ソヌラが聞いていて「アイアイがその動物の名前だ」と勘違いして命名されてしまいました。豚肉とホーリーバジルとを炒めた料理を注文したければ、パッ ガパオ ムーと言わなければ皆さんが食べたかった炒め物の方のガパオは出てきません。ホーリーバジルは和名をカミメボウキと言い、漢字では神目箒と表記します。ホーリーの名前が与えられたのは、ヒンドゥー経の神々の中でも、最高存在であるヴィシュヌ神にささげる神聖な植物だったからです。カミメボウキはキク亜綱、シソ目、シソ科に属します。シソ科は大きな科で、236属7,534種が属しているとThe World Checklist of Selected Plant Familiesには記載されています。シソ科には沢山のハーブも属しています。シソやエゴマ、オレガノ、ラベンダー、セージ、マジョラム、ミント、ローズマリー、タイム、レモンバーム、そしてメボウキ属のバジル達が属しています。バジルの種子を水に漬けると、ゼリー状の物質に包まれて丁度、カエルの卵のようになります。そのゼリー状の物を使って目に入ったゴミをとったから和名がメボウキ(目箒)になったと言われています。ホーリーバジルは、日本ではそんなに流通していませんので、日本のタイ料理屋さんではスイートバジルで代用している店が多いですが、日本でホーリーバジルを育てるのはそんなに難しくありません。大きなホームセンターでしたら4月から6月位に苗を売っていると思いますので、自宅で育てるのも良いかもしれません。ズッキーニは、ウリ科カボチャ属の一年生の野菜です。一見するとイボイボの無いキュウリに見えますが、ペポカボチャの仲間の未熟果です。色は緑から黄緑、黄色のものがあります。形はキュウリ型が日本ではメジャーですが、丸い物やUFO形の物もあります。夏野菜のひとつで、未熟果なので低カロリーです。原産地はアメリカ大陸のメキシコ辺りで7,000年以上前から栽培されていました。ヨーロッパには16世紀頃のイタリアから南フランス辺りに伝わったようですが、ズッキーニのような未熟果で食べられるようになったのは、大分後の事で19世紀後半にミラノで始まりました。アメリカへは20世紀の頭にイタリア系移民によって逆輸入の形で持ち込まれ、カリフォルニアで最初に栽培され始めたようです。イタリア語で ズッキーナ(zucchina)フランス語では クルジェット(courgette)で、生でも火を通しても美味しく食べる事が出来ますのであっと言う間に広まりました。
さて、今回のガパオ詰めズッキーニチーズ焼きですが、ズッキーニは縦半分に切ってから、長さを半分くらいに切ります。詰め物が出来るように、両脇を5ミリほど残し、スプーンなどで中の種を取って電子レンジで、少し火を通します。詰めるべき中身の方のガパオは、豚ひき肉とホーリーバジルを炒めた物ですが、先に粗みじんにしたにんにく、唐辛子を入れて弱火にかけ、香りを出してから豚肉を中火で炒めます。肉に火が通ったら調味料とホーリーバジルの方のガパオを入れます。調味料はナンプラー、シーズニングソース、オイスターソースと砂糖です。中味を詰めたらモッツァレラチーズ、ピーナッツ、パン粉をかけて、オーブントースターやグリルなどで、焦げめがつくまで焼いたら出来上がりです。
さて、このガパオ詰めズッキーニチーズ焼きにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 信州松本 アロマティック アッサンブラージュ ブランでした。2回前の4月下旬掲載の「鰹の生春巻き 胡麻をつけて香ばしく」のイチオシに選ばれた信州松本 アロマティック アッサンブラージュロゼの相方の白ワインです。4月にも書きましたがぶどうを育ててくださっているのは川上 鎭一 (かわかみ しんいち)さんです。川上さんは、松本市梓川地区の生まれで、家族と共に、春から秋はワイン用ぶどう栽培と冬は生ハムの製造を行っておられます。川上さんはぶどう栽培も、生ハム作りも共にゼロからスタートしたチャレンジャーなのですよ。川上さんの畑はJRの松本駅から西南西に10km程行った松本市梓川地区にあります。川上さんは故郷である梓川地区でぶどう栽培に取り組むうちに、梓川や松本の名前を冠したワインをつくりたいと強く思うようになりました。その川上さんの思いに共感し、共に走ってきたのが塩尻ワイナリーの佐藤 圭一郎でした。佐藤は2021年、サントリーに入社し、塩尻ワイナリーにて醸造・中味設計担当になりました。2022年より梓川シリーズを担当するようになり、二人で議論と試行錯誤を繰り返しました。ボトルのラベルをご覧いただけますでしょうか?色の異なる6つの長方形が描かれています。これはワインの6品種と6つの畑のブロックを表現しています。川上さんの畑は、大きく3区画に分かれています。「家」「馬」「山」の3区画です。家はその名前の通り、川上さんのご自宅のすぐ裏にある区画です。最も古く、最も小さな畑で、ゲヴュルツトラミネールとソーヴィニヨン・ブランのアロマティック品種が植わっています。馬は、元々は馬の墓場があった区画です。周囲はりんご畑で、シャルドネが植えられています。山は名前の通り、山寄りの区画です。最も標高が高く、谷の出口に近いため冷涼です。山は最も広く、山を更に山北、山南、山西の3つの区画に分けて管理しています。メルロとピノ・ブランとトレッビアーノとアルバリーニョを育てています。ワインにはメルロを除く6品種が使われています。グラスに注ぐと、色は淡いレモンイエローです。青りんご、白桃、グレープフルーツの果肉などを連想させる爽やかな果実の香りに、大輪の百合の花の様なフローラルさと、セルフィーユ的な甘いハーブのニュアンスが感じられます。口に入れるとフレッシュで軽快な果実味で、爽やかな酸味のイキイキとした味わいの白ワインです。ガパオ詰めズッキーニチーズ焼きはズッキーニに火が通り、柔らかさと瑞々しさの両方が楽しめる絶妙な火入れ加減でした。上の方はチーズやパン粉、ピーナッツが、ちょっと焦げて香ばしく、中はズッキーニにガパオの肉汁が浸み込んで一体となっています。ワインと合わせると、味わいの広がりが出ました。ガパオの様々な要素とワインに使われている品種とがいろんなパートパートでマリアージュしています。少し焦げたピーナッツが、更に香ばしくなり抜群に合っていました。調味料が幾つか使われているので複雑な味わいなのですが、豚肉本来の旨みはワインと出会う事でくっきりと、鮮明に感じられました。
「複雑な味わいの料理なのですが、ワインと合わせると、豚らしい肉の旨みを強く感じますね」
「ワインのアッサンブラージュで中軸に使われているシャルドネが、豚肉との相性の原動力になっているのでしょうかね」
「炒め物の方のガパオはシーズニングソースやナンプラーの旨味成分が効いています。シーズニングソースはイノシン酸やグアニル酸が豊富で、ナンプラーはタウリンが豊富と言われています。これら複数の旨味成分が同時に活躍する事で、『旨味の相乗効果』で、より一層美味しく感じるのです」
「ワインと合わせると、ホーリーバジルの方のガパオの爽やかな緑のタッチがグンと際立ちますね」
「ソーヴィニヨン・ブランと共鳴しているのだと思います」 「シーズニングソースは日本の溜り醤油に似た、甘さと旨みがありますよね。アロマティック品種との相性が良さそうです」
「粗挽き白こしょうとアロマティック品種との相性もとても良いです」
最近はスーパーにも「ガパオの素」が売られていて、炒め物の方のガパオは簡単に作れると思います。そのガパオを使って出来る素敵な温前菜です。是非、ガパオ詰めズッキーニチーズ焼きに挑戦してください。そして、サントリーフロムファーム 信州松本 アロマティック アッサンブラージュ ブランとの素晴らしいマリアージュをご体験ください。



