今回のレシピは、熊のスパイスタイカレーです。タイ料理の大家である鈴木都先生のオリジナル料理です。タイにも熊は居るそうですが、都先生はタイで熊を食用にしているのを見た事は無いそうです。クマは漢字で書くと熊で、哺乳綱食肉目クマ下目クマ小目クマ科に属する、いくつかの種を指します。食肉目にはイヌ型亜目とネコ型亜目とがあり、クマ下目はイヌ型亜目に属します。クマ下目には、レッサーパンダやアライグマが属するイタチ小目と、セイウチやアシカなどが属する鰭脚小目とクマ小目があります。この3つは、かなり遠い親戚です。クマ小目の下の科はクマ科だけなのですが、クマ科の下に3つの亜科があり、ジャイアントパンダ亜科とメガネグマ亜科とクマ亜科です。この3つはそんなに遠くない親戚ですね。クマ亜科の下には3つの属があり、マレーグマ属とナマケグマ属とクマ属です。現在生存しているクマ属にはざっくり分けて4つの種があります。アメリカグマとホッキョクグマとヒグマとツキノワグマの4つです。アメリカグマの色は基本、黒色です。ホッキョクグマは白熊とも呼ばれ白です。ヒグマは漢字では緋熊、羆です。緋色とは「炎のような赤で、深みのある色」の事ですがヒグマの色はそこまでは赤くなくて、ツキノワグマに比べると赤っぽい黒なのでヒグマと呼ばれたようです。アメリカ大陸に生息しているヒグマはグリズリーと呼ばれ、恐れられています。ツキノワグマは黒色で、胸から首にかけて白い輪があります。日本にはヒグマとツキノワグマが生息しています。ヒグマは北海道にのみ生息し、ツキノワグマは東北から中国地方にかけて広く生息しています。四国や九州では絶滅したと考えられています。クマ、特にツキノワグマは本来、里から遠い山間部に住んでいて、人を恐れる臆病な生き物でした。ツキノワグマは雌よりも雄が大きいです。雌は大きくなってもせいぜい70kg位ですが、雄は120kg位にもなります。捕獲された最大のツキノワグマは173kgもあったそうです。ヒグマも雌よりも雄が大きいです。雌は300kg、雄は500kg位になり、ヒグマの最大記録は1.1tを超えるそうです。ヒグマは、力も桁違いに強いです。狩猟の為、山深くに入る必要のあったアイヌ民族には強力な相手であり、アイヌ民族はヒグマの事をカムイ=神として崇めていました。弓矢しか武器のないアイヌは、時に返り討ちに合う事もあったようです。1869年に「北海道開拓使」が設置され、北海道の開拓が始められましたが、1880年にはヒグマによる死亡事故が記録されています。環境省 自然環境局の1980年以降のデータによると、ヒグマによる人身事故のうち死亡率は35%で、ツキノワグマの3%未満よりも遥かに高い死亡率となっています。2023年以降、本州でも熊被害の報道を多く目にしますが、北陸3県では2004年に熊被害が急増し、それ以降、ドングリの豊凶作によって増えたり減ったりはしていますが、基本的に増加傾向です。1980年から2022年の1年あたりの人身事故の件数は全国平均60件以下だったのが2023年から2025年の平均は180件で3倍以上に増加しています。とりわけツキノワグマによる死亡事故がこれまでは1年に4人が最高だったものが2025年は11人と激増しています。原因はいろいろ考えられますが、猟友会の会員数の減少や高年齢化に伴い、熊が「人間は自分たち熊を殺さない、弱い敵だ」と認識した事が大きいと思います。人間に害になる物が増えた時に、人間が取るべき対策に「害になる物を食べる」事が挙げられます。ブルゴーニュ名物のエスカルゴも、かつてブルゴーニュでアフリカマイマイが大発生し、その被害からぶどう畑を救うにはどうしたら良いか?を検討した時に美食の国が導き出した答えが「食う事」でした。人類がカタツムリを食べた始まりはブルゴーニュである、と言う事ではありません。今から約1万2千年位前の後期更新世の遺跡であるイラクのザグロス山地やイラン西部のケルマンシャー地域で、まるで貝塚のようにカタツムリの殻が数多く見つかっています。動きの遅いカタツムリは当時の人々の貴重なたんぱく源だったのでしょうね。ブルゴーニュでエスカルゴが提供され始められたのは、19世紀の終わりだと考えられています。エスカルゴは人気メニューになり、アフリカマイマイはあっと言う間に採り尽くされて、逆に大量に養殖するようになったそうです。熊は逆襲してきますので、そう簡単には行かないかもしれませんが、「人間達が俺たち熊を食べるために狩りにくる」と思えば、熊は賢い動物ですので、人間を再び恐れるようになる事でしょう。料理店の検索サイトで熊料理をキーワードに検索すると全国で58店がヒットしました。ヒグマとツキノワグマのどちらが美味しいか?は、いろんなご意見があろうと思います。熊も猪も「その個体が何を食べてきたか?」次第だと思っています。長野県飯田の日本料理店、柚木元の大将も「標高1000m以上で撃った熊は美味い」と仰います。ヒグマとツキノワグマの食性は、ヒグマは雑食なのですが、動物食の色合いが強く、ツキノワグマはドングリを中心に植物食の色合いが強いです。基本的にヒグマの肉の方が、噛み応えがあり、風味も強めです。秋のヒグマは遡上してくる鮭を大量に食べますので、どこか魚っぽい不思議な香りがあります。飼料用トウモロコシ畑に侵入してトウモロコシを鱈腹食べ続けたヒグマは超一級品です。また、ドングリが豊作の年のツキノワグマは、脂身がナッティでクリーミーな絶品となります。
今回の熊のスパイスタイカレーに使われている熊は大手のネットショップで販売されていたツキノワグマのスライスです。副素材はさつまいも、ホムデン(タイ小玉ねぎ)とピーナッツです。スパイスや調味料は、市販のグリーンカレーペーストやレッドカレーペーストを使う場合では、シナモン、カルダモン(ホール)、クローブ(ホール)、生姜みじん切り、ココナッツミルク、ナンプラーとココナッツシュガーです。カレーから作る場合は、上記の他に、タイの乾燥唐辛子の大と小、レモングラス、タイ生姜であるカー、日本の生姜、ホムデン(タイ小玉ねぎ)、にんにく、粗挽き白胡椒、コリアンダーシードパウダー、カルダモンパウダー、クローブパウダーとクミンシードパウダーなどが入ります。カレーペーストの鍋にココナッツミルクとシナモン、カルダモン、クローブ、ホムデンを入れ、中火にかけます。沸騰したら火を通したさつまいもと、ツキノワグマの肉を加えます。刻んだ生姜とピーナッツを加え、ナンプラーとココナッツシュガーで味を整えて肉に火が通ったら、完成です。
さて、この熊のスパイスタイカレーにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリー塩尻ワイナリー 岩垂原メルロ2014でした。岩垂原は5つある信州ワインバレーのひとつである「桔梗ヶ原ワインバレー」の産地の一つで、ほとんどが塩尻市にあります。塩尻市は、市のhpによると2026年3月1日現在で塩尻市の人口は64,774人、世帯数は29,423世帯です。長野県内の市としては人口が7番目に大きな市です。中央本線の塩尻駅周辺に市街地があり、市域は西南側に奈良井川沿いに長く伸びており、木曽山脈麓の奈良井宿(ならいじゅく)辺りまで広がっています。奈良井宿は中山道六十九次の34番目の宿場町です。市域の北西側は松本市と接しており、松本空港は松本市と塩尻市の両方に跨っています。桔梗ヶ原ワインバレーは狭い「桔梗が原」を名乗っていますが、桔梗が原に洗馬、岩垂原、小野、柿沢、片丘などを含む広いエリアに与えられた名称です。岩垂原は、桔梗が原とは、奈良井川を挟んだ川向うにあり、一部松本市の畑も含んでいます。その名の通り大きな岩がごろごろと堆積した水はけのよい畑です。
この岩垂原メルロの収穫された2014年は、9月中旬まで天候に恵まれ、順調に生育が進んだ年でしたが、9月後半からは台風の影響による降雨がありました。一方で、夜温は順調に低下し、そのお陰でアロマが果実に十分蓄積されていきました。畑毎に成熟度を見計らって収穫を実施しました。色は、12年間の熟成を経てオレンジがかった濃い目の赤色です。香りは熟成によるチョコレートのようなニュアンスと、ブルーベリー、カシスなどの黒系果実を連想させる香りがあります。樽由来のスモーキーで少しスパイシーな香りもアクセントを与えています。口にいれると、自然な甘さがあって柔らかみのある印象です。少し時間差で、程良い酸を感じ、中盤から後半に柔らかくなめらかなタンニンが感じられます。バランスの良いエレガントな味わいの熟成ワインです。熊のスパイスタイカレーと合わせると、タイカレーの力強いスパイスの風味を岩垂原メルロが優しく持ち上げてくれる印象です。
「熊って初めて食べました。もっと癖があるのかと勝手に想像していましたが、美味しいです」
「熊の脂と岩垂原メルロとが滅茶苦茶美味しいです。熊の脂ってこんなにクリーミーなんですね。驚きました。」
「カレーにいろんな種類のスパイスが使われていますが、岩垂原メルロと合わせると、より重奏的になり、複雑さが強調されています」
「僕は最後にいれた生姜と岩垂原の調和する感じが好きです」
飲食店評価ランキングの熊料理上位店を見ると長野県飯田の柚木元、富山県のレヴォ、滋賀県の比良山荘、とくやま鮓、しのはら、岐阜県の柳家など、そうそうたる顔ぶれが並んでいました。名だたる料理店で熊料理が高い評価を受けている事から見ても、熊は美味しい素材で、今ではネットで簡単に手に入ります。熊肉に出会う機会がありましたら、是非この熊のスパイスタイカレーの事を思い出してください。そしてサントリー塩尻ワイナリー 岩垂原メルロとの素晴らしいマリアージュをご体験くださいませ。



