今回のレシピは、カブのロースト ナンプラーオリーブオイル焼きです。タイ料理の大家である鈴木都先生のオリジナル料理です。カブは漢字で表記すると蕪です。アブラナ科アブラナ属の二年草で、読者の皆様も、子供の頃に春の七草を暗唱されたと思いますが、スズナ(鈴菜、菘)がカブの事です。原産地はアフガニスタンから地中海沿岸にかけてのエリアである、と言われていますが、カブやその近縁種であるマスタードやラディッシュの野生型は、西アジアやヨーロッパ全域に広く分布しています。今から4千年くらい前には栽培が始まっているようです。日本には奈良時代の前に中国から伝えられました。中国では、今から2千年以上前から栽培されていたようです。三国志の諸葛孔明が、戦が長引きそうなときには城壁内に蕪を植えるように指示したとされていて、中国では諸葛菜とも言われました。蕪は、中国語の繁体文字では蕪で、簡体文字で芜で、元々は同じ字です。カブの別名にはカブラ、カブナ、カブラナ、ダイトウナ(大頭菜)などいろいろありますが、どれも、丸いカブを頭に見立てて呼び始めたようです。ちなみにスズナ(鈴菜)は丸いカブを鈴に見立てた説と、御神酒錫(おみきすず=神様に捧げる酒を入れる容器で錫製とは限らない)の形にそっくりだったのですずなになった説があるようです。日本では80種類くらいが栽培されています。東日本が小カブ中心で、西日本は中くらいのカブが多いです。日本では殆どが真っ白ですが、金沢の「百万石かぶ」は淡い緑、飛騨の「紅かぶ」や山形の「温海(あつみ)かぶ」は美しい紅色です。形も殆どが丸いカブですが、滋賀の「日野菜かぶ」は大根のような細長い形ですし、逆に二十日大根や桜島大根は、カブみたいな形ですがダイコンの仲間です。
今回のカブのロースト ナンプラーオリーブオイル焼きのタイトルには、カブだけを表記していますが、野菜は、何で作っても大体美味しく出来ます。マリアージュ実験の時には、レンコンとカリフラワーを一緒に料理しました。調理は至ってシンプルです。フライパンに多めのオリーブオイルを引き、薄切りのニンニクを炒めます。色がついて、ニンニクの良い香りがしたらニンニクは一旦取り出します。適宜切った野菜をフライパンに乗せて蓋をして蒸し焼きにします。カブなどの野菜に火が通ったらニンニクを戻し、ナンプラーを加え、粗びき黒こしょうを振ります。蓋をして、時々フライパンを揺すりながら、じっくりと味を入れていきます。レンコンを入れると、レンコンのでんぷんで、上手くとろみが付きます。程良く焦げ目がついたら完成です。
さて、このカブのロースト ナンプラーオリーブオイル焼きにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 高山村 シャルドネでした。高山村は長野県の北東部の山あいの村です。郡は上高井郡になります。長野県庁から高山村の村役場までは東北東に15kmほどです。村の人口は6千人あまりで、歴史のある村です。長野県庁発行の長野県史によると、高山村には、旧石器時代の遺跡が荒井原、紫、福井原にあるとの事です。福井原はまさに高山村シャルドネの為にぶどうを栽培してくださっている大内さんの畑がある場所なのです。高山村のあちらこちらから古墳時代の土器も発見されています。
長野県は早くからワインの産地化に取り組んできました。2013 年3月には、信州ワインバレー構想を打ち出しました。ワインの主要な産地として、4つのバレーを置いてワイン産業の振興を目指す為でした。その4つとは「桔梗ヶ原ワインバレー」「日本アルプスワインバレー」「千曲川ワインバレー」「天竜川ワインバレー」です。塩尻周辺の「桔梗ヶ原ワインバレー」、松本市、安曇野市、大町市、山形村、朝日村、池田町などの長野県北西部の「日本アルプスワインバレー」、県南にある飯田市や伊那市など天竜川沿いの「天竜川ワインバレー」と北信エリアの「千曲川ワインバレー」です。高山村は「千曲川ワインバレー」に入っています。「千曲川ワインバレー」には佐久市、小諸市、東御市、上田市、千曲市、長野市、須坂市、中野市などの8市と、立科町、青木村、長和町、坂城町、小布施町、高山村、飯綱町、野沢温泉村などの市町村が属しています。2023年には八ヶ岳西麓地区も5番目のバレーとして認定されました。高山村は、降水量が少なくて、日照時間が長い気候と、水はけのよい土壌の質がワイン用ぶどうの栽培に適しているエリアです。高山村では1980年代に大手ワイナリーとの契約栽培地としてスタートしました。最初の頃は竜眼を栽培し、初めてシャルドネが植えられたのは1990年代と記録されています。2006年には「高山村ワインぶどう研究会」発足し、サントリーも当初から会員として参加しました。高山村のシャルドネの品質は優れており、サントリーでは2009年ヴィンテージで高山村の名前を冠した初のワインとして「サントリージャパンプレミアム 高山村シャルドネ」を発売しました。標高400m位の比較的温和な所から700m位の冷涼な所で、契約栽培農家さんたちがぶどう栽培に取り組んでくださっています。さきほど旧石器時代の遺跡の話で出てきた福井原が700m位の標高の畑です。マリアージュ実験に使ったのは2024年ヴィンテージです。2024年の開花は2023年とほぼ同じ6月12~16日でしたが、平年より少し早いです。夏の雨は少なくて、昼の温度はかなり高かったのですが順調に生育が続きました。9月-10月には、何度かまとまった雨があったのですが、天気予報とにらめっこをしながら、収穫しました。
グラスに注ぐと、少し明るいレモンイエローなのですが、樽熟成の影響か、僅かに暗いトーンがあります。グラスからは爽やかさを連想させるレモンと完熟を思わせるネクタリンのニュアンスの両方が感じられます。これは標高の低く暖かい畑と、標高が高く冷涼な畑の両方がある高山村ならでは複雑さなのです。洋梨などを連想させる透明感のある黄色い果実の香りに、ローストアーモンドとカスタード、杏仁豆腐のアクセントがあります。程良い広がりのある果実感と伸びやかな酸のバランスが取れた、綺麗な印象を与える辛口ワインです。カブのロースト ナンプラーオリーブオイル焼きと合わせると、良く火の通ったカブの、柔らかくて滋味深く自然な甘みが、高山村シャルドネの辛口の味わいによって、くっきりと感じる事ができます。
「カブの美味しさが、真っ直ぐに感じられる組み合わせですね」
「カブとダイコンを比較すると、カブの方が、火の通りが早くて、風味はダイコンよりもずっと強い気がします」
「そうですね、カブって煮込みに使うと、料理全体を支配するくらい個性が強いですよね。高山村 シャルドネは、もって生まれた芯の強さでカブの強い個性を受け止めて、調和しています。バランスが良くて美味しいです」
「ナンプラーが焦げた香りと、高山村 シャルドネの樽のニュアンスって相性が良いのですね。香ばしく甘やかに広がりがでます」
「ナンプラーって原料が鰯とかの魚ですよね、何か、樽との共通点があるのでしょうかね」
「長い間、熟成される事で、メイラード反応が起こり、それによって生まれる甘い香ばしさが、樽熟する事で出てくるバニラのニュアンスや、樽を曲げてつくる時に樽材を焼いた香りと共鳴するのだと思います」
「カブを蒸し焼きにする時に、ナンプラーも焦げて良い香りが立ちますからね」
「西洋料理だと、同じ効果を狙ったアンチョビ焼きのような料理があります。アンチョビを解して野菜を焼くときに絡ませるのですが、アンチョビは塩気が強いので、解したとは言え、全体に味を付けようとすると、ところどころで塩辛く感じてしまう事があります。ナンプラーは液体なので均一に味わいが染みます」
カブは冬野菜のイメージがありますが、都道府県別生産量1位と2位の千葉県と埼玉県の出盛りは11月から1月と4月から6月の2回あるのです。皆様もぷっくりと美味しそうなカブを見つけられましたら、是非、この、カブのロースト ナンプラーオリーブオイル焼きの事を思い出してください。そしてサントリーフロムファーム 高山村 シャルドネとの素晴らしいマリアージュをご体験くださいませ。



