今回の料理は蟹とほうれん草のカネロニです。カネロニは乾燥パスタの一種で、中空の円筒形をしています。直径約2cm、厚さは0.9〜1mmの間で長さは大体8〜10cm位です。イタリアには沢山のパスタがあります。パスタの種類が何種類位なのか?を調べたことがあるのですが、数を明記している文献で300種類以上とか。500や650といった数字が出てきます。でも形状だけでも、まずロングなのかショートなのかがありますよね。ロングの場合だけを見ても、断面が円形なのか楕円なのか四角なのか、平らなのか?中が詰まっているのか中空なのか?それぞれに太さでいろいろなタイプがあります。平らなものなら、どれ位の幅と厚みなのかで異なるパスタになります。そのロングパスタですが押し出して作る場合、その先端の口金が、現代ではテフロンだったり金属だったりします。金属もブロンズだったりステンレスだったりします。先端の素材でパスタの表面がつるつるになったり、ざらざらになってソースの絡みが良くなったりもしますので、別の種類とカウントする事も出来ます。その形状の違う物に、それぞれ生と乾麺があって、小麦だけなのか、卵が入っているかどうか?などが掛け算されます。パスタの素材そのものだけで既に相当な数になっていますが、パスタを提供する方法が、普通に茹でてソースをかける提供方法なのか、スープ仕立てなのか?で、また倍の種類になります。ショートパスタは、それこそ様々な形のものや大きさのものがあり、茹でてソースをかける提供方法やスープ仕立てに加えて、オーブンで焼く提供法が加わります。なのでパスタの種類は「沢山有り過ぎて、数えきれない」のが正解かと思いました。パスタは、小麦を原料に、古代ローマ時代に生まれ、その後イタリアで花開き、発展してきました。現代のイタリアではデュラムセモリナというグルテンを多く含む小麦を中心に作られています。皆様は小麦と大麦の違いをご存じでしょうか?
「粒が大きいのが大麦でしょう?」
そうお考えになる方が多いかと思います。多少、大麦のほうが大きくはあるのですが、大麦が大麦と名付けられたのは、大きさが理由では無いようです。農水省に拠ると、人類が大麦や小麦の栽培を始めたのは、今から約1万年前の新石器時代で、場所は西アジア、イラクあたりの山岳地帯だそうです。栽培を始める前は小麦と大麦や、他の雑穀と一緒に自生していたのを採集していたようです。最初の頃は、石と石の間で荒く潰して外皮を取り除いたものを焼いて食べていたようです。小麦と大麦は、原産地である西アジア、イラクあたりから東西に伝わって行きました。中国にたどりついたのは、今から5000年くらい前と考えられています。その頃の中国では土器が使われ、小麦と大麦を潰してお粥にして食べていました。小麦のお粥は粘り気が出て食べ難かったのですが大麦のお粥は、さらさらとしていて食べ易かったのです。そこで大麦には「優れたもの」という意味も持つ「大」の文字が与えられたのです。お粥にした時の粘度に差が生まれる原因はたんぱく質です。小麦のたんぱく質は「グルテン」で粘り気があります。大麦に含まれるのは「ホルデイン」というたんぱく質で粘り気はありません。大麦の学名であるHordeum vulgareのHordeumはこのたんぱく質の事でもあるのです。大麦の代表品種は二条大麦と六条大麦です。これは、穂に、どういう形で穀粒が付くのかで分けています。2列に並ぶのが二条大麦で、6列なのが六条大麦です。二条大麦は、サントリーにとって、とても重要な麦でウイスキーもビールも二条大麦でつくります。二条大麦と六条大麦には他の穀類にはない、不思議な性質があります。それは食べる事が出来ない外皮と可食部分である実本体とが糊状の物で固着していることです。外皮と実とが堅くくっ付いているが故に、大麦の精麦は難しかったのです。大麦を栽培し始めた頃の人類は、粗挽きにして外皮を飛ばして粥に炊いて食べました。また炒ったものを粉にして、関西のはったい粉やチベットのツァンパのように熱湯や茶で練って食べました。古代エジプトでは、もう少し食べ応えのあるものを作りたかったのか、細かく挽いて、練ってパンにして食べましたが、焼きあがったパンは、ひび割れていて、食感もぼそぼそしたものだったようです。そのうちに、大麦を発芽させると外皮と実とが剥がれ易くなる事を偶然発見しました。多分収穫したときに雨に濡れたりして、自然に発芽したのでしょうね。それから粉にする時には発芽させる工程が付け加わったのですが、ある時、パンを仕込もうとして焼くまでに時間がかかってしまった時に生地が膨らみました。腐らせてしまったか?・・・とも思いましたが、もったいないので、それを焼くと以前よりも格段にふっくらとして美味しかったのです。そうです、大麦麦芽の酵素のでんぷん分解能力は、穀類中で最強とも言われる分解能力なのです。そうして出来た糖分を酵母が分解し、炭酸ガスが出来て生地は膨らんだのです。そうした偶然の産物で人類は、酵母で膨らんだ美味しいパンを手に入れました。同時に麦芽から糖分を得る事が出来ていますので、ビールも作られるようになったのです。人類が大麦と小麦を栽培するようになった最初のころは、大麦の方が優勢だったのです。パンが進化するなかで、小麦を練ると粘り気の強い生地が出来る事に気が付きました。大麦には無くて小麦にあるグルテンの作用です。その粘り気の強い生地と大麦麦芽とを併用することで、更にふっくらとしたパンが出来ました。これにより、小麦が大麦を逆転し、小麦優勢になりました。より美味しいパンを作るためにグルテンの含有量の多い小麦を系統選抜する事でデュラム種が出来ました。この粉を練ると大変粘り気が出ますので引き延ばしたり、押し出したりすることで細いパスタも作る事が出来るようになったのです。現在のイタリアの法律では乾燥パスタを作る際にはデュラム種の使用を義務付けています。カネロニはエミリア・ロマーニャ州で生まれたパスタです。エミリア・ロマーニャ州ではクリスマスの翌日に前日のご馳走の残りを刻んで詰めてオーブンで焼く風習がありました。
今回のレシピでは蟹とほうれん草を詰めます。使った蟹はタラバガニです。そのタラバガニをほぐしてほうれん草とバターで炒め、リコッタチーズとパルミジャーノチーズを合わせてカネロニに詰めます。それをオーブンで焼くのですが、その時にホワイトソースを纏わせます。ホワイトソースを作るのが面倒な方は、市販のベシャメルソースとかで代用できますが、簡単ですので、一度トライしてみてください。フライパンにバターを入れて弱火で熱してバターがとけたら小麦粉を加え木べらで炒めます。バターと粉がなじんで、粉っぽさがなくなったら、牛乳を加えて泡だて器で、だまがなくなるようによく混ぜます。生クリームも加えて少し煮詰めて、とろりとしてきたら塩、ナツメグをいれると出来上がりです。今回のソースにはレモンの皮を少し多めに加えました。
さて、この、蟹とほうれん草のカネロニに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはサントリーフロムファーム 津軽 ソーヴィニヨン・ブランでした。サントリーは2020年に、弘前市とJA津軽と10年間の「醸造用ぶどう産地化の三者協定」を締結しました。弘前市は全国にその名を轟かせるリンゴの名産地です。弘前市とJA津軽は、リンゴだけの一本足打法に危惧を抱いていました。サントリーは2015年、2016年、2017年の3ヴィンテージ続けて津軽 ソーヴィニヨン・ブランで日本ワインコンクールの金賞を獲得し、津軽がソーヴィニヨン・ブランの栽培適地である可能性が高いと思い、津軽で醸造用ぶどうの増産に取り組んでくださる方を求めていました。そこで、弘前市とJA津軽とサントリーの三者で組んで、醸造用ぶどう産地化を目指すことになったのです。その当時、津軽でソーヴィニヨン・ブランを栽培してくださっていたのは二軒のぶどう栽培農家の太田さんと木村さんでした。お二人とも1948年生まれで、なんと高校時代の同級生です。1980年代に太田さんが木村さんを誘う形でワイン用のぶどう栽培を開始してくださいました。三者協定から6年が経過し、ソーヴィニヨン・ブラン栽培に取り組んでくださる方も3軒増え、合計5軒となりました。マリアージュ実験に使ったのは2024年ヴィンテージです。2024年の冬は暖冬傾向でした。例年は物凄い量の積雪なのですが、2024年は幼木、成木ともに大きなダメージありませんでした。開花は6月中旬~下旬とやや早かったです。7-8月の気温は高温でしたが9月には涼しくなりました。収穫は、アロマの乗り具合と酸のバランスを勘案しつつ、成熟の差を見極め9/24-10/4で収穫しました。色は淡く、洋銀の食器を思わせる輝きを持った淡いレモンイエローです。爽やかな柑橘やギュッと詰まったりんごとグースベリーなどを連想させる果実の香りに、柘植の芽のような植物のニュアンスがあります。イキイキとした果実感と、強めの酸味、引き締まったテクスチュアが魅力のキレのある辛口白ワインです。
蟹とほうれん草のカネロニと合わせると、タラバガニの旨みがふんわりと広がります。
「蟹の美味しさが強調されます」
「蟹の香りは磯の香りとは別の海の香りですよね。その香りが伸びやかに楽しめますね」
「辛口のソーヴィニヨン・ブランなので蟹の素材自体の自然な甘みがくっきりと見えてきます」
「ほうれん草を茹でた時の香りも心地良く広がりますね」
「濃いホワイトソースでかなりねっとりとしたテクスチュアなので、さらりとした津軽 ソーヴィニヨン・ブランとチグハグなのではないか?と、心配しましたが、さらりと受け止めていて美味しいです」
「このホワイトソースは濃厚な乳系のねっとり感があるのですが仕上げにレモンの皮の擦り下ろしを多めに混ぜています。そのレモンの香りとソーヴィニヨン・ブランの品種香とが共鳴しているのですね」
「乳系のねっとり感があるのに、さらさらのソーヴィニヨン・ブランが受け止める事が出来るのは、その柑橘系の味わいがソースにもワインにも共通して存在しているからだと思います。その柑橘の風味が根っこ部分あるからこそ、テクスチュアのコントラストも楽しめるのだと思います」
この時期、年末やお正月需要を当てこんで大型の蟹を仕入れ過ぎたスーパーチェーンなどで、良い冷凍蟹が特売になる事もあろうかと思います。ほぐしやすそうな蟹の特売を見掛けられましたら、是非、この蟹とほうれん草のカネロニを思い出してください。そしてサントリーフロムファーム 津軽 ソーヴィニヨン・ブランとの抜群の相性をお楽しみください。



