今回の料理はトスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みです。豆をたくさん食べるイタリアの中でもトスカーナ地方の人々は豆が大好きで「トスカーナ人は豆っ食い」と、よく言われます。豆は、マメ科の植物の種子の事を呼ぶ名前ですが、マメ科の種子でも、人間が食用にしたり、家畜の餌として使用するものに関してだけを豆と呼びます。マメ科植物であるアルファルファの種子は約2mmしかなくて食用にはなりませんので種(たね)と呼ばれます。また、果肉を利用するタマリンドは果物として扱われ、やはり豆とは呼ばれません。マメ科には沢山の植物が属しています。属が約765も有って、種ではなんと約20,000という巨大な数で、陸上植物科の種数としては、ラン科とキク科に次いで3番目に大きいです。マメ科は草本のものも木本もあります。また、一年生、二年生から多年生まで多彩に広がっています。多くのマメ科植物には巻きひげがあるのですが、それを使ってつる植物になる場合もありますし、自立して直立した樹体になるものもあります。小さな草本もたくさんありますし、巨大なものもあります。マメ科としての最大の記録は、東南アジアの巨木のクンパシア・エクセルサの88mです。マメ科で食用になるものの原産地をアメリカ大陸か否かで分けると、アメリカ大陸の出身は、インゲンマメがメソアメリカ原産、ラッカセイはパラグアイの周辺ボリビア、ブラジル、アルゼンチンに囲まれた南米アンデス地方原産です。アメリカ大陸以外ではエンドウとレンズマメはメソポタミア周辺の西アジアが原産と考えられています。ソラマメは北アフリカかメソポタミアが原産、ヒヨコマメはヒマラヤ西部から西南アジアにかけての地域が原産、大豆は中国が原産です。人類が最も早く利用し始めた豆については諸説ありますが、最古はラッカセイでペルーの遺跡で約7,600年前、その次はエンドウでトルコの7,500年前の遺跡から発見されています。人類は、世界のあちらこちらで、同じようなタイミングで今日に至るまでずっと、マメ科の恩恵を受け続けているのです。今回のレシピの主材料であるインゲンマメは、メキシコで紀元前4000年頃のものが発見されています。インゲンマメは漢字では隠元豆です。隠元禅師が1654年に日本に持ち込んだと言われていますが、確定はしていません。京都では別種であるフジマメ(藤豆)を隠元豆と呼びますが、フジマメは930年代に記された倭名類聚抄に登場しますので、隠元禅師よりもずっと昔から日本に存在しています。インゲンマメをゴガツササゲ(五月豇豆)とも呼びますが、これは豆果が上を向いて付く事から「捧げる」という意味で付けられた名前です。未熟な鞘は鞘隠元と呼ばれ食用になります。フランス料理ではクタクタになるまで茹でられてアリコヴェールという名前で付け合わせとして好まれます。シロインゲンマメは、白い色をしたインゲンマメの総称で、ひとつの種ではありません。インゲンマメ属の種としてはインゲンマメやベニバナインゲンなどです。アメリカでは海軍豆(Navy bean)と呼ばれます。海軍豆という名前は、アメリカ海軍が1800年代半ばから船員の主食としてシロインゲンマメを使ってきたことから付けられたアメリカの造語です。
今回のレシピはトスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みで、この名前を、きちんとイタリア語に翻訳するとSpezzatino di manzo alla toscana con fagioli bianchiです。イタリアのレシピサイトではSpezzatino con fagioliの名前でほぼ同じ料理が、多数出てきます。今回、牛肉は牛すね肉を使いました。白いんげん豆は水煮缶を使いましたが、乾燥豆から作りたければ、前日からたっぷりの水で吸水させて、翌日2回茹でこぼしてから、更に、たっぷりの水を足して1時間程度煮たら出来ます。今回のトスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みは、ワインスクエア流で、赤ワインをたっぷり使うことがポイントです。牛肉500gに赤ワイン200ccくらい使いました。鍋に玉ねぎとセロリを入れて茶色になるまで炒めます。牛すね肉は4~5cm角に切ってフライパンでき色がつくまで焼きます。鍋に肉と赤ワインを入れ沸騰させてから水をいれて3時間煮ます。更に白いんげんを入れて30分ほど煮て味を調えたら完成です。
さて、このトスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みに、テイスティングメンバーが選んだイチオシワインはシャトー オーシエールでした。ドメーヌ ド オーシエールの始まりはローマ時代にさかのぼります。ナルボンヌ近くのコルビエール地区にあり、中世にはシトー派修道院が農場として運営していましたが、フランス革命を経て競売にかけられ、その後、オーナーがかわる度に荒廃し、すっかり荒れていました。1999年にドメーヌ バロン ド ロートシルト(ラフィット)のエリック男爵が、この畑のポテンシャルにほれ込み、広大な畑を購入し、一から再建でした。彼らにとって、フランス内では、ボルドー地方以外のぶどう畑は初めてで、まさにエリック男爵の新たなる挑戦でした。ラフィットさながらの入念さでワインづくりを行い、南仏にありながら、非常にエレガントなスタイルのワインをつくり出しています。オーシエールの所有面積560haのうち、ぶどう畑は約170haです。ラングドックで土壌コンサルタントとして活動していたオリヴィエ・トレゴア氏が荒廃したぶどう畑の土壌を分析し、最適のぶどうを植えました。土壌は、斜面では礫を含む砂利や砂岩で平野部は砂でした。畑のAOPコルビエールのエリアは主に斜面部で、そこにはコルビエールで認可されているシラー、ムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャンやサンソーを植えました。残りの平野部の畑はIGPペイドックに認定されています。そこにはシャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを植えました。ワイナリーの6割以上の面積は、森林とガリーグ(南仏の潅木が群生した土地)です。自然と共生することで健やかなぶどう畑を保つことができるのです。オーシエールでは、色々な品種を栽培しているので、収穫期は長く9月初めから10月初めにかけて行われます。赤ワインはボルドーの伝統的な醸造方式や、あるいは、カリニャンなどのタンニンのしっかりしたぶどうではマセラシオン・カルボニック法を用いることで、果実味を引き出しています。シャトー オーシエールの樽熟成には、ポーイヤックにあるラフィットの製樽工場から運んできたフレンチオークの樽を用います。シャトー オーシエールをグラスに注ぐと南仏らしい濃さのあるダークチェリーレッドです。熟したカシス、ブラックチェリーやバラの印象がありゴージャスです。口に含むと力強いアタックで、構造の大きさを感じさせます。キメ細かなタンニンが豊かで、余韻の長いワインです。トスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みと合わせると、じっくりと煮られた牛すね肉のコクとシャトー オーシエールの力強い味わいとが良く調和していました。
「よく合っていますね」
「このシャトー オーシエールはシャトー ヌフ デュパープを彷彿とさせるところがあります。そのニュアンスが、地中海伝統の煮込み料理と自然にマッチしています」
「すね肉って筋が多くて、面倒くさい印象があったのですが、長く煮込まれる事で筋のゼラチンがフルフルになっていて滋味深い美味しさになっています」
「ゼラチンが溶ける事で煮汁に濃厚さとコクを与えます。そのテクスチュアが、この濃いシャトー オーシエールとの力の均衡を生み出す原動力になっていますね」
「作り始めて完成まで4時間ですよね?手間が掛かり過ぎじゃないですか??」
「このコトコトと3時間煮込む時間こそが、ご馳走なんですよね」
「たしかに・・・・乾燥豆から作ると前日からの作業になりますからね。期待感も高まりますよね」
皆様も牛すね肉か牛筋を見かけられましたら、是非、トスカーナ風牛肉と白いんげん豆の煮込みの事を思い出してください。そしてシャトー オーシエールとの抜群の相性をお楽しみください。



