この料理に合うワイン

レシピに戻る

1st

ローラン・ペリエ ラ キュベ 

ローラン・ペリエ ラ キュベ

フランス
ぶどう品種 シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ

今回のレシピは、サーモンのフライ マスカルポーネのハーブタルタルソースです。日本人の魚消費量は減り続けています。水産庁によると、1989年に国民一人当たり14kgあった魚の消費量は、2017年には7kgちょっとと、30年足らずの間に、ほぼ半減しています。一人当たり消費魚種別ベスト5も発表されています。1989年の1位は烏賊で、海老、鮪、秋刀魚、鯖と続き、鮭は圏外です。それが2017年になると、1位になんと鮭が躍り出ます。2位は鮪、鰤、海老、烏賊と続き、秋刀魚と鯖が圏外になります。順位激変ですよね。秋刀魚は、記録的不漁だった2019年よりも今年の水揚げが、更に悪いようです。鮭は放流事業の成功や、ノルウェーやチリなどから安定的に輸入できる事などから、トップを走る構造は、まだ続くかもしれません。今回使ったのはノルウェーのサーモンですので、アトランティックサーモン(タイセイヨウサーモン)です。ソースは、鈴木薫先生にワインスクエアらしい、マスカルポーネのハーブタルタルソースを考案してもらいました。タルタルソースは生肉料理のタルタルステーキと同じ語源のタタールから来ていると考えられています。タタール人はモンゴル国とロシア極東の南部と中国の内モンゴル自治区をあわせたモンゴル高原に住んでいた遊牧民などの民族総称です。タルタルソースは、一般的には、マヨネーズをベースに、タマネギ、キュウリのピクルス、ケッパー、ゆで卵のみじん切りなどが入ります。マスカルポーネチーズは、元々はロンバルディア発祥のチーズですが、現在では、イタリア全土で作られます。牛乳原料のフレッシュチーズで、癖が無く、塩分も控えめなので料理の食材として良く使われます。日本では1990年台のティラミスの大流行で一躍有名になりました。

この、サーモンのフライ マスカルポーネのハーブタルタルソースにテイスティングメンバーが選んだイチオシワインはローラン・ペリエ ラ キュベでした。ローラン・ペリエの創業は1812年、今から200年以上も前、日本では11代将軍徳川家斉の時代です。元樽職人であったアンドレ アルフォンソ ピエルが、今も本社屋のあるトゥール・シュル・マルヌ村に、ネゴシアンを設立したのが始まりです。ローラン・ペリエの名前は、アンドレ アルフォンソ ピエルを継いだシェフ ド カーヴであるウジョーヌ ローランと彼の妻であるマティルド エミリー ペリエの姓を一つにしました。イギリスに販路を広げ、一時期隆盛を誇っていたのですが、第一次世界大戦やその後の世界恐慌で社業は傾きました。それを救ったのが、先代オーナーのベルナール ドゥ ノナンクールの母親であるマリー・ルイーズ ランソン ドゥ ノナンクールでした。マリー・ルイーズはシャンパンの名門ランソン家の出身でした。ベルナール ドゥ ノナンクールは若きレジスタンスの闘士としてナチス軍と穴に立て籠って戦いました。シャンパーニュ地方で穴と言えば、もちろんシャンパン熟成用のカーヴです。同志はシャルル ドゥ ゴール将軍、後のフランス大統領です。第二次世界大戦終了の1945年シャンパーニュに戻り、母親の実家であるランソン社などでシャンパンづくりそのものやセラーでの仕事、そして営業などシャンパンに関わる様々な事を学び、1948年10月に母親の後を継ぎ、ローラン・ペリエの経営の指揮を執る事となりました。彼が28歳の時でした。生前ノナンクール氏が語ってくれた話によると、

「引き継いだ当時のローラン・ペリエはメゾンの規模で言うと100番目、熟成しているシャンパンも僅か3万本という有様だったよ」

「私は、美味しいシャンパンをつくりたかった。その為には良いぶどうが必要だった。その為に、農家を一軒一軒回って、自分のシャンパンづくりにかける情熱を語ったんだ」

農家は一定の理解は示してくれましたが、ローラン・ペリエにぶどうを売ってはくれませんでした。そこでノナンクール氏は農家に2つの提案をしました。

「良いぶどうは高く買います」

「出来の良くない年のぶどうも買います」の2つでした。

当時のシャンパン用のぶどうの価格は公定価格でした。シャンパン用の総ての畑には区画毎に%で格付けがされています。現在も100%クリュは特級畑、90%以上は1級畑と呼ばれるのは、その名残なのです。ある年のぶどうが1kg100フランと決まると、80%クリュの畑のぶどうは1kg80フラン、95%クリュの畑のぶどうは1kg95フランと自動的に決まるのです。ノナンクール氏はこの慣習に風穴を開け、良いぶどうを作る農家からは、高い値段で購入したのです。

もうひとつの提案の「出来の良くない年のぶどうも買います」は皆さんも疑問を持たれたのではないでしょうか?ノナンクール氏の理想は、「良いぶどうで美味しいシャンパンをつくる」事です。なのに、何故出来の良くないぶどうを買うのか?シャンパーニュ地方はフランスのワイン銘醸地の中で最も北に位置します。暖かい年は良いのですが寒い年のぶどうは厳しい状態になります。大手メゾンはそういった悪い年のぶどうは買ってくれません。ノナンクール氏は、そういう悪い年のぶどうを買ってシャンパンではなく、スティルワインにして販売したのです。高いぶどうを買って、高くは売れないワインをつくりますから経営は苦しかったですが、こうして徐々に農家達の信頼を勝ち得ていったのです。こうした農家は今もローラン・ペリエにぶどうを納め続けており、2010年にノナンクール氏が亡くなった時のお葬式には、古くからのつきあいの農家が多数参列されていました。

ローラン・ペリエのメゾンのスタイルはずっと変わりません。「フレッシュである事」「エレガントである事」「バランスの良い事」、この3つに常にこだわり続ける事なのです。

「フレッシュである事」「エレガントである事」は上質なぶどうを使えば、様々な品種構成でも出来るのですが、「バランスの良い事」を達成しようとすると、長期にわたる瓶内二次発酵後の熟成期間が、どうしても必要になるのです。しかし、長期熟成を行うと、「フレッシュである事」が失われてしまうのです。そこでノナンクール氏は、元々のアッサンブラージュで、フレッシュさあふれるシャルドネを多く使う事を決めたのです。皆さんもご存じだと思いますがシャンパンに使用できる品種は基本3つ、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエです。この3つの品種の中で最も高価なのがシャルドネです。栽培面積が最も広いのがピノ・ノワールで全体の39%、次いでムニエの33%でシャルドネは28%しかないのです。ローラン・ペリエ ラ キュベは、その高価で生産量の少ないシャルドネを、なんと50-55%も使い、全体の平均クリュ率は94%という高さです。

名前のラ キュベにもこだわりがあります。A.O.C.シャンパーニュの法律には、ぶどうの絞り方にも厳密な規則があります。法律では、4000kgのぶどうから最初に2050ℓのキュベを絞ります。次に、ぺちゃんこに潰れたぶどうを真ん中に集め2回目の500ℓのプルミエール タイユを絞り、ここまでがシャンパンの原料に使う事が可能である、と規定されています。ローラン・ペリエは最初の2050ℓのキュベしか使わない事を、「そのシャンパンに、ラ キュベの名前を与える事」により、高らかに宣言したのです。

サーモンのフライ マスカルポーネのハーブタルタルソースとローラン・ペリエ ラ キュベを合わせると、エレガントな酸でサーモンがほぐれて、旨みが口の中に広がりました。

「カリカリの衣が楽しいですね」

「衣に入っているのは、アーモンドパウダーですか?ローラン・ペリエのパングリエ(パンを焼いた時の様な香り)と共鳴して、抜群に美味しいですね」

「ローラン・ペリエと合わせる事で、サーモンの素直な味わいが、より強く表現される気がします」

「マスカルポーネが入る事でタルタルソースが濃厚になっているのですが、ラ キュベは軽々と受け止めて、淡泊なサーモンとの間を上手くまとめています」

皆様も、是非サーモンのフライ マスカルポーネのハーブタルタルソースに挑戦してください。アーモンドパウダーを使うことで、冷めてもカリカリ感が続きます。パーティーのスターターとして、またメインの魚料理としても使えます。そしてローラン・ペリエ ラ キュベとの抜群のマリアージュをお楽しみください。

2位に選ばれたのはシャトー ラ コスト ロゼ ド ニュイでした。シャトー ラ コストはユニークなワイナリーです。2004年にアイルランドの実業家パディ・マックリン氏がワイナリーを購入して、「ワイナリー」と「アート」と「建築」が共存するアートセンター化構想をスタートさせました。全体のプラン設計は、高名な建築家の安藤忠雄氏が担当しました。ここには、中心となるアートセンター本体をはじめ、4つの安藤忠雄氏による建築物があります。この他、フランスを代表する建築家ジャン・ヌーヴェル氏が醸造棟を、カナダ出身のフランク・ゲーリー氏が音楽ホールを設計しました。最新の技術と設備を備えた建築物が、見事にぶどう畑と調和しています。ワイナリーの中には、ギャラリー、レストラン、カフェ、スパ、ホテルが併設され、いたるところに有名建築家やデザイナーの作品が点在する、アーティスティックなワイナリーなのです。歴史はまだ浅いのですが、ワインツーリズムが盛んなプロヴァンスでも一躍有名なシャトーとなりました。シャトー ラ コストではビオディナミの原則に基づいてテロワールを保護し、土壌の本質を表現する事がフィロソフィーになっています。2009年には、シャトー ラ コストのワインは「有機農業」に認定されました。
A.O.C.はコトー・デクサン・プロヴァンスで、ぶどう品種はグルナッシュが50%、シラーが40%、カベルネ・ソーヴィニヨンが10%です。色は淡め、サーモンピンクとサクラピンク(ベビーピンク)の中間的な色で、これは直接圧搾法(ぎゅっとぶどうを絞った時に出る色だけで、マセラシオンをしていない)によるものです。白桃やイチゴを思わせる香り立ちで、果物をほおばったようなたっぷりした果実感とフレッシュさにあふれるロゼワインです。サーモンフライと合わせると、サーモンの独特な香りが心地良く強調されます。ワイン単独で飲むより、ワインに広がりが出て、余韻も長くなるという、ワインも料理も格の上がるような、幸福なマリアージュでした。

2nd

シャトー ラ コスト ロゼ ド ニュイ 

シャトー ラ コスト ロゼ ド ニュイ

フランス
ぶどう品種 グルナッシュ、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン

3位に選ばれたのはロバート ヴァイル ジュニア グラウブルグンダーでした。ロバート ヴァイル ジュニアはワイン格付け誌 ゴー・ミヨー においてドイツナンバーワンに何度も選ばれたロバート ヴァイル醸造所のワインです。ロバート ヴァイル醸造所は1868年ドクター R ヴァイル氏がドイツのラインガウ地方のキートリッヒ村に畑を購入、1875年にワイナリーを設立しました。時のドイツ皇帝ヴィルヘルムⅡ世が、ロバート ヴァイルのつくるグレーフェンベルガー アウスレーゼをこよなく愛し、皇帝主催の正餐会に出したり、外遊の際に持参したことなどから名声を博しました。1988年、サントリーがこの醸造所の経営権を取得しました。4代目であり、現在の当主であるヴィルヘルム ヴァイル氏がそのまま指揮を執り、畑や醸造所の改善を行い、益々品質に磨きをかけています。また、この年から現在まで連続してトロッケンベーレンアウスレーゼの収穫に成功し、ラインガウのこれまでの記録を塗り替える快挙を成し遂げている名門醸造所なのです。グラウブルグンダーはフランスではピノ・グリと呼ばれている品種です。アロマティックな黄桃やリンゴコンポ―ト、アカシアのハチミツを思わせる香りがあります。柔らかみのある酸ですが、冷涼なラインヘッセンらしく、酸のボリュームは豊かです。ボディのふくらみもあり、バランスの良い、余韻も長い辛口ワインです。サーモンフライと合わせると、揚げ物にレモンを絞り込んだような爽やかさが広がりました。タルタルソースの豊かな味わいが更に奥行きを増し、グラウブルグンダーのほのかな苦みが、味わいを引き締めていました。全体的にも美味しかったのですが、特にピクルスとの調和が、他のワインよりも優れていた、と思いました。

3rd

ロバート ヴァイル ジュニア グラウブルグンダー 

ロバート ヴァイル ジュニア グラウブルグンダー

ドイツ
ぶどう品種 グラウブルグンダー

レシピに戻る