ワインって難しい・・・?
世の中で広く言われるワインの常識を、ワインのプロが実際に検証!
毎月1つのテーマに絞って連載していきます。

  • ワインの産地編

バックナンバーはこちら

よみがえったぶどう品種(フランス・ローヌ地方&オーストラリア・南オーストラリア州)

2022年05月

(写真)標高の高い南オーストラリア州エデン・ヴァレーのヴィオニエの畑
ヴィオニエというぶどう品種をご存知でしょうか。ジャスミンや大輪の百合、蘭などの花を連想させる、空間全体がそのワインの香りで満たされるような華やかさと、完熟の白桃やマスクメロンの様なとろけるようなテクスチュアが魅力です。エキゾチックでアロマティックな、とても特徴のはっきりとした白ワインの原料となるぶどうです。
2016年の世界での栽培面積は約16,000ha。原産地はフランスのローヌ渓谷地方北部ですが、現在は世界中で栽培されている人気品種です。
そんなヴィオニエ、実は今から約半世紀前の1960年代には世界でたった14haにまで栽培面積が減ってしまい、絶滅寸前の品種でした。何か一つ間違えていたら本当に絶滅していたかも知れません。そこから現在の栽培面積に復活するまでには、多くのドラマがあったわけですが、今回はその中で、原産地のローヌ地方でこの品種を守り抜いた生産者と、異国の地オーストラリアでこの品種の適性を見出した生産者の2名を見て行きたいと思います。

目次
  1. 【ヴィオニエを守った2人】
  2. 【ヴィオニエの特徴】
  3. 【ヴィオニエの醸造方法とスタイル】
  4. 【ヴィオニエにおすすめの食べ物】
  5. 【代表的な1本】

【ヴィオニエを守った2人】

(左)コンドリューのジョルジュ ヴェルネ (右)ヤルンバのルイーザ ローズ

ヴィオニエの原産地はフランスのローヌ川流域の北部にあるコンドリューの村だと言われています。それもあって世界で最も広くヴィオニエを栽培しているのはフランスで、2020年時点で国全体では約7,000haの栽培面積を持ちます。とは言え原産地のローヌ渓谷北部は急斜面で畑を増やす事が困難なため、1960年代の14haから劇的な復活を遂げたとは言え、コンドリューの畑は今でもわずか200ha。そんなコンドリューにあって、ヴィオニエの栽培の大変さから周囲の仲間が次々とぶどう栽培を止めて行く1950年代から1980年代にかけての最も苦しい時期に、コンドリューの原産地呼称委員会の委員長を30年以上も勤めたのがジョルジュ ヴェルネです。彼の代表的なワインキュベ名にもなっているコトー ド ヴェルノンは、14haまでヴィオニエの栽培面積が減ってしまった時にも確固として栽培を守り続けた歴史的な畑です。今では南仏の地中海エリアでとても多くのヴィオニエが栽培される様になりましたが、やはり本家コンドリューのヴィオニエは一味違うと思います。

原産地以外の全く異なる場所でヴィオニエを守ったもう一つの生産者があります。その名はヤルンバ。南オーストラリア州のエデン・ヴァレーに本拠地を置く、オーストラリアで最も古い家族経営ワイナリーです。彼らが誇りにしている事の一つとして、自らの苗木研究所(ナーサリー)を持ち、オーストラリアの気候に適合するぶどう品種を探してきた事が挙げられます。彼らはオーストラリアにワイン生産に足る規模でヴィオニエを植えた最初の生産者で、まだ世界で殆どヴィオニエが認められていなかった1980年からヴィオニエを栽培して来ました。そんなヤルンバのヴィオニエを世界的品質にまで高めたのがルイーザ ローズ。オーストラリアを代表する醸造家として知られるトップワインメーカーです。彼女は試行錯誤を繰り返しながらオーストラリアでのヴィオニエの表現を確立しました。ヤルンバは2002年にオーストラリア初のヴィオニエ・シンポジウムを開催するなど、この国を代表するヴィオニエの生産者として認められています。

【ヴィオニエの特徴】

(左)ヴィオニエ(右)崖の様な急斜面につくられたコンドリューの段々畑。

萌芽が早く、熟期は中程度の品種です。風で枝が折れやすいので、北からミストラルという渓谷を吹き抜ける強烈な風が吹くローヌ渓谷地方では、右の写真にある様に、木の枠で支えをつくる事でぶどうの木を風から守っています。成熟に多くの日照量を必要とする品種のため、伝統的にローヌ渓谷地方北部の崖の様な南向きの日当たりの良い急斜面を開墾して(下左写真)つくられた段々畑で栽培されてきました。絶滅しかけた理由の一つとして、急斜面で作業自体が大変(当然全て手作業)な上に、品種特性として花振るいが起こりやすく、1本の木から収穫出来るぶどうの量が極端に少ない(労働のワリが合わない)事が大きかったという事です。

そんな中でも劇的な復活を遂げたのは、この品種が持つ圧倒的なまでの個性の強さ。特に香りは一度経験したら忘れないくらいの特徴があります。桃(白桃も黄桃も)やネクタリン、完熟の杏などのたっぷり果汁の核果実を連想させる果実の香りに、蘭やジャスミン、スイカズラなどゴージャスな花に例えられるフローラルさ、タップリのスパイスと生姜のタッチなど、とにかく香りが豊富で複雑。独特のエキゾチックな魅力を放ちます。口当たりの蕩けるようなジューシーさもこの品種ならではの魅力。辛口なのにトロトロとした官能的なテクスチュアは、他にありそうでなかなか無いこの品種ならではの特長だと思います。たっぷりボディで酸は低めで、とにかくまろやか。とても印象的なワインになるぶどうです。ちなみにもう過ぎてしまいましたが毎年4月29日はインターナショナル・ヴィオニエ・デー。色々な記念日があるものですね!

【ヴィオニエの醸造方法とスタイル】

左)ジョルジュ ヴェルネのワイナリーに飾られた畑開墾の様子 右)ヤルンバの苗木研究所

ヴィオニエの原産地であるコンドリューの伝統的な醸造法は、一般的に「樽発酵」と呼ばれる、オーク樽の中での発酵と熟成です。ヴィオニエが持つ多様な香りに、オークの香りが加わる事でさらに複雑さが増し、オークからのタンニンがワインに与えられる事で、品種特性として酸が低く、場合によっては重く感じられてしまうヴィオニエのワインを引き締め、骨格を与える役割も果たしています。ヤルンバのルイーザ ローズの言葉ですが、ヴィオニエは赤ワインが好きな人が好むワインで、なぜならヴィオニエの酸とphの値は平均的な赤ワインの値とほぼ同じだからだそうです。わかるようなわからない様な感じですが、そういう見方もあるんだなと思いました。

今は世界でヴィオニエが栽培されていますので、ステンレスタンクで醸造されるものもあります。こちらは素直にヴィオニエが持つ華やかで甘い香りが引き出される感じになります。

その他のスタイルとしては、ヴィオニエと他の白品種をブレンドするタイプのワイン。同じローヌ渓谷地方の白ぶどうであるマルサンヌやルーサンヌをはじめ、地中海域のぶどうとブレンドされたフルボディで厚みのある辛口は、ヴィオニエ単体のものとはまた異なる複雑な良さを持ちます。

他には遅摘みされたぶどうからの甘口などもありますが、忘れてはいけないのが、黒ぶどうとの混醸。原産地コンドリューのすぐ隣の産地である、コート・ロティはシラーからの赤ワイン産地ですが、最大20%までヴィオニエを混醸(一緒に発酵させる)する事が認められています。ヴィオニエを一緒に発酵する事で、シラーだけでは決して出ないエレガントな花の香りが出て来るそうです。ルイーザによると、これはシラーとヴィオニエを別々に醸造したものを後で混ぜてもダメだそうで、混醸しないと出ないという事でした。ワインのつくりは奥が深いです。

【ヴィオニエにおすすめの食べ物】

img_1068_4.jpg

▶キャベツと鶏ささ身のタイ風和え物
 

img_1068_5.jpg

▶チキンケサディーヤ

 

ヴィオニエの特徴は、オリエンタルスパイスやエキゾチックな花に例えられる華やかな香りと、豊かな果実味と酸のまろやかさ。このタイプのワインと相性が良いのが、エスニック料理。特にスパイスやハーブ類を多用する、ヴェトナムやタイ、インドなどの南~東南アジアの料理や、メキシコ料理と言ったカテゴリーの料理と抜群の相性の良さを発揮します。ヤルンバのホームぺージでのオススメはモロッコのタジン料理でした。やはりスパイシーな料理と相性が良いと彼らも思っているようです。これらのタイプの料理と合わせた時のヴィオニエの面白さは、その香りの多様さ。口の中でワインと料理の香りが混ざりあい、ぶつかり合う事でワインと料理それぞれ単体では感じられない、香りの万華鏡とでも呼ぶべき複雑さが顕れます。これは是非一度体験して頂きたい素晴らしいものです。また、これらのカテゴリーの料理に多用される唐辛子は、使いすぎるとワインとの相性を厳しくしてしまいますが、ヴィオニエが持つトロミとも言うべき豊かな果実感が唐辛子の辛味を和らげてくれるのも良い相性を生むポイントです。

他にも中華料理とも相性が良いですし、西洋の料理でもクミンやコリアンダー、生姜などのスパイスを使用する事でグッと相性が良くなります。こちらも是非お試し下さい。

【代表的な1本】

img_1068_6.jpg

ワイシリーズ ヴィオニエ(ヤルンバ)

ワイシリーズのワイはYour Wine。あなただけの1本を見つけて欲しいというヤルンバからの思いが込められています。彼らのエントリーラインとなるシリーズですが、それだけに名刺代わりとして大切につくられています。ラベルに描かれているのはヴィオニエの苗木で、自らの苗木園(ナーサリー)を持ち、オーストラリアという地でこの品種を開拓してきた彼らの誇りとこだわりが詰まった特別な1本です。ステンレスタンク醸造&熟成で素直に品種の特製を表現した、ヴィオニエというぶどう品種を知るための最適なワインの一つです。ヴィオニエからつくられるワインの複雑さを体験したい場合はより畑が厳選されたエデン・ヴァレーのものや、トップキュベのヴェルギリウスなどを試して頂けると、その香りの素晴らしさをより体験して頂けると思います。

コンドリューは値が張るので気軽にはオススメ出来ないのですが、ずっと記憶に残るワイン体験をと思った時には、コンドリューの守護者にして最高峰であるジョルジュ ヴェルネのものを是非とも試してみて下さい。特に彼らの最高峰であるコトー ド ヴェルノンはきっと特別な感覚をもたらしてくれると思います。

上にもどる

ワインの産地編バックナンバー