「福與チーフブレンダーによる山崎テイスティングセミナー」
イベントレポート
福與チーフブレンダーみずからがレクチャー。
山崎倶楽部の特別テイスティングセミナーを開催。

6月24日(金)、福與チーフブレンダーによる山崎テイスティングセミナーを開催しました。
第一部はウイスキー館見学を含むウイスキーの製造工程見学、第二部は福與伸二チーフブレンダーによるテイスティングセミナーという二部構成。ご応募いただいた約3000名の中から選ばれた山崎倶楽部会員10名様がご参加くださいました。
他県からもご参加くださる会員様のために、京都駅~山崎蒸溜所間はハイヤーでの送迎もご用意。ご到着された皆様を、スタッフが通常の工場見学やセミナーではお入りいただけないカスクルームへとご案内し、セミナーが始まりました。
ウイスキー館から始まる山崎蒸溜所製造工程見学ツアー。


熟成します
梅雨空の下、ツアーは今年リニューアルしたウイスキー館の見学からスタートしました。2階には新たに、発酵槽や蒸溜釜、貯蔵庫に並ぶ樽などのミニチュア模型も展示されています。ここで、大麦麦芽がウイスキーになるまでの工程を解説。以前に蒸溜所ツアーに参加されたことがある方々も、新しいウイスキー館の展示の充実ぶりにご満足の様子でした。
次に実際の製造工程の見学に移ります。雨足も強まり、肌寒いくらいの気候でしたが、醸造棟に一歩足を踏み入れると、温室内のような蒸し暑さ。ちょうど仕込み槽が稼働中で、酵母の香りが漂います。仕込み槽、発酵槽の大きさや独特の香りなど、ウイスキーが生まれる場所の空気を感じられるのは、やはり製造工程見学の醍醐味。山崎蒸溜所の原酒のつくり分けのこだわりを案内係が説明しながら進みます。
そして貯蔵庫に移動すると空気は一変、静寂とひんやりした空気に身を包まれます。
「仕込・発酵・蒸溜の工程を経た原酒たちは、この貯蔵庫の中で長い長い時間を過ごします」
熟成樽がずらりと並ぶ風景に、改めてウイスキーづくりが必要とする時間を実感いただけたようです。
福與チーフブレンダーによるプレミアムなテイスティングセミナー。



後半は、いよいよ福與チーフブレンダーが会場に。ゲストルームで待つ皆様の前に福與チーフブレンダーが登場すると、ざわめきと大きな拍手が沸き起こります。短い挨拶を終えるとすぐさま、セミナーを開始する福與チーフブレンダー。
スクリーンには石炭で加熱する蒸溜釜や割烹着姿で瓶詰作業をする人々など、操業開始当時の蒸溜所の様子が映し出されます。
「蒸溜所を建てて、原料を買って、人を雇って、機械を動かして。それでも何年かは売るものがない。ウイスキーづくりの始まりは、そういうものでした」
福與チーフブレンダーの山崎蒸溜所の歴史に触れる言葉には独特の重みがあり、参加者の方々の表情も真剣です。
「ウイスキーづくりの鍵はブレンド技術にある。これが創業当時から変わらないサントリーの考えです」と、福與チーフブレンダー。スクリーンには歴代のマスターブレンダーとチーフブレンダーの名前が映し出されます。
「初代マスターブレンダーは、ご存知、創業者の鳥井信治郎です。一方、初代チーフブレンダーは1960年代末~1970年代初めにかけて誕生したと言われています。ウイスキーが爆発的に売れた高度成長期、醸造技師とブレンダーを兼任していた佐藤乾に、会社がブレンドに専念するようにと用意した役職です。以降、最高責任者であるマスターブレンダーが決定した方針の下、チーフブレンダーが現場でものづくりを行うというやり方でウイスキーをつくっています。私は2009年から五代目のチーフブレンダーを務めています」
「今日は山崎倶楽部会員様向けの特別セミナーということで、ちょっと色々調べてきました」と、意外な話も飛び出しました。
「山崎は1984年、蒸溜所竣工60周年を記念してつくられたウイスキーですが、その誕生には、実はこの人が関わっているんです」
スクリーンは、ひとりの男性の顔写真に切り替わります。
「ご存知、サントリーの宣伝部に在籍していた作家の開高健です。当時、会社はブレンデッドウイスキーを出すつもりで計画を進めていたのですが、『もっと個性のあるウイスキーをつくろう』と当時のマスターブレンダー、佐治敬三に進言したのが開高だといわれています」
このように福與チーフブレンダーの口から知る人ぞ知る興味深いエピソードが次々に語られ、会場の参加者からは感嘆の声が漏れます。


「テイスティングセミナーとお伝えしながら、いつまでもウイスキーをお出しせずにすみません」というひと声にどっと笑いが起こる中、いよいよ、テイスティングが始まります。福與チーフブレンダーが一体、どのような言葉でテイスティングと原酒の味わいを語るのか。参加者の期待で、会場は再び心地よい緊張感に包まれます。
グラスで用意されたのは、山崎12年と4種類の構成原酒。そのほかに福與チーフブレンダーが「色だけでもお見せできたら」と、さらに9種の構成原酒のサンプルボトルを机に並べます。
「シングルモルトウイスキーというのは、ひとつの蒸溜所の原酒でつくるウイスキーのことで、決してひとつの樽の原酒からできているわけではありません。シングルモルトウイスキー山崎の場合、”シングル”と名がついてもさまざまな原酒をブレンドしているという点が重要です。ここにある原酒は、色がさまざまなように味わいも様々です。仕込みや蒸溜の仕方、熟成させる樽の種類、樽が置かれた場所、年々の気候など、たくさんの要因が重なって、いろいろなタイプの原酒が生まれるのです。様々な個性を持った山崎モルトをブレンドして、複雑かつ安定した中味をつくるのがブレンダーの仕事です」


テイスティングは山崎12年からスタートします。
「まずは香りをかいでみてください。グラスを回すスワリングを行うと、グラスの内側が濡れて液面が広くなるので、香りをより感じられるようになります」
実際に口に含む際にも、正しい方法があります。
「テイスティングというものは“おいしく味わう”わけではありません。液体の中にあるさまざまな要素を探し出す作業です。それらの味を見極めるのに最適なアルコール度数は20~25度といわれています。同量の水を加えると、ちょうどそのくらいに。甘さが出て、香りの中にある木の雰囲気がずっと感じ取りやすくなりますよね。
私がチェックするのは、飲み口で感じるトップ、味わいの中心となるミドル、飲み込んだ後に感じるラスト。その後の余韻。さらに後から戻ってくる「バック」もチェックします」
参加者の方々は福與チーフブレンダーが話す通りの手順で、集中してテイスティングを行います。テイスティングは山崎12年の後、山崎の骨格を作るアメリカンオーク、甘みが強いシェリー樽、スパイシーなミズナラ樽、スモーキーの順で行われました。
ひとつひとつの香り、味わい、ウイスキーになったときの持ち味などについて、詳しくコメントがあり、参加者の方々は味わいを確かめながらメモを取るのに忙しい様子です。「一般の方にこんなに気合いを入れて解説するのは初めてです」という福與チーフブレンダーの言葉に、会場がわっと沸く一場面も。
最後にもういちど山崎12年をテイスティング。原酒のテイスティングの後は、それぞれの香りや味わいの個性をより感じ取ることができるようになります。


ウイスキーづくりの場面で実際に行われるテイスティングはどんなものなのか。スクリーンには100本以上の原酒のボトルが載ったテーブルが3台並ぶ、ブレンダー室の室内が映し出されます。「1日に100種以上テイスティングするのは当たり前。ボトルの前を移動しながら行うので、基本、立ち仕事です。奥には他社のものも含め製品が並ぶバースペースもあります。ここで、できあがったウイスキーの特徴を確認する作業も行います」
「よく質問を受けるので」といいながら、スクリーンも使ってチーフブレンダーの日常についても説明がありました。仕事の前日、つまり日曜夜~金曜夜まではニンニクなどの香りが強いものは食べない、温度、照明など一定の環境を保って規則正しい生活をする。
「東京出張も多いですが、その日だけ早起きをすると生活のリズムが狂う。だから何もない日でも毎日、9時半に東京駅に着ける時間に、つまり4時半に起きるようにしています」
セミナーの間は終始サービス精神旺盛で、話す表情は穏やかな福與チーフブレンダー。その様子からは想像もつかないアスリートのような自己管理、厳しい仕事への姿勢を目の当たりにした参加者の方々は、山崎というウイスキーの魅力にまた一歩、引き込まれた様子です。

ご用意

この日は福與チーフのサイン入りのシングルモルトウイスキー山崎と、参加者のイニシャルの入ったテイスティンググラスなど、特別なお土産もご用意。最後にひとりひとり、福與チーフブレンダーとの記念撮影も行いました。
ブレンダーのトップである福與チーフ自らが、山崎をご愛飲くださる方々にウイスキーづくりや山崎のブレンディングについて語る初めての機会となった今回のセミナー。
「福與チーフブレンダーの誠実で温かなお人柄が伝わってきました」「解説が丁寧で大変わかりやすかったです」「日々のお仕事に向き合われる姿勢に感銘を受けました」と、ご参加の皆様からも「大変満足」というご感想を多数いただくことができ、非常に意義深い時間となりました。
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