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発酵の発見と利用の歴史

古代から酒づくりなどに使われた「神の恵み」の発酵

 発酵=「fermentation」は、ラテン語で「湧く」という意味の「fervere」を語源としています。これはおそらく、アルコール発酵のとき、炭酸ガスが泡のように盛り上がる姿から名づけられたのでしょう。

 大気中に浮遊する酵母によってぶどうが自然発酵するのを目の当たりにした古代人たちは、やがて自然現象としての「発酵」を、日常生活に取り入れるようになりました。メソポタミア地方では、つぶしたぶどうの皮や種子、茎を発酵させてワインを造ったのに続き、紀元前17世紀〜14世紀頃のギリシャでも同様に、摘み取ったぶどうを袋に入れ、足で踏みつぶして絞ったジュースを自然発酵させる酒造りが行われています。また。紀元前3500年頃の遺跡「モニュマン・ブルー」にも、パンの発酵を利用した酒造りの過程が、絵と文字とで記録されています。

 当時の人々にとって、「発酵」の仕組みやメカニズムなどは知る由もありませんでしたが、自然発酵がもたらしてくれる食べ物のおいしさには誰もが魅了され、それを生み出すためにさまざまな工夫を凝らしてきたことは想像に難くありません。穀物やぶどうなどの「発酵」を通じて、人類は遙か昔から変化に富んだ食文化をはぐくみ、現在に至るまで豊かな味の世界を広げ続けているのです。

口かみ酒から味噌、醤油の原型まで−日本の発酵

 ヨーロッパ諸国で、ぶどうや穀物を利用した発酵が主流だったのに対し、日本で縄文・弥生時代に行われていた発酵は「口かみ」という方法です。これは、口中でかんだ米または雑穀と飯米を混ぜ、唾液に含まれる消化酵素で分解されてできたブドウ糖と、空気中に浮遊する酵母によって起こるアルコール発酵を利用した方法で、もっぱら酒造りに利用されていました。

 さらに弥生時代後期には「口かみ」ではなく、米飯にかびが生えたもの=麹カビを原料とする発酵が利用されるようになります。麹カビからは酒はもとより、醤油の原型である「ひしお」、みその原型である「未醤(みしょう)」など、発酵を利用したさまざまな嗜好品が造られ、平安時代に入ると、酒、酢、みそ、醤油などの発酵嗜好品は、街中でも売られるようになりました。

 なかでも酒造りに使われる麹は「種麹」と呼ばれ、酒の品質を高めるため、雑菌の混ざらないものが必要とされました。室町時代には、良質な麹を製造する方法が考案され、麹を専門に製造・販売する「種麹屋」が生まれます。種麹屋は酒造家のみならず、醤油屋、みそ屋などにも純粋な麹を供給するようになり、世界にも類を見ない日本の多彩な発酵嗜好食品の普及に大きな影響を及ぼしました。

顕微鏡の発明による発酵の研究の進展

 ヨーロッパで、長い間「神の思し召しによる自然現象」と考えられてきた発酵に微生物が関与していることを初めて明らかにしたのは、オランダ人のレーウェンフック(1632〜1723)でした。

 彼は自ら考案した顕微鏡で、酵母やカビの胞子など、発酵に関与するさまざまな微生物を子細に観察しました。こうして、彼は発酵は自然現象ではなく、肉眼では見えない微細な生き物(微生物)が起こす現象であることを突き止め、のちの微生物学の発展に多いに寄与したのです。

パスツールによる発酵の原因の解明

 発酵の決め手となる酵母が発見されたのちも、「アルコール発酵がなぜ起きるのか」は依然として謎に包まれたままで、「生命のない物質の触媒作用によって、有機物が分解される科学的な過程である」という説(=自然発生説)が残っていました。この自然発生説を否定し、発酵は空気中の微生物が原因となって起こることを、フランスの科学者パスツール(1822〜1895)が証明したのです。

 彼は空気は入るが、微生物は入ることのできない「白鳥の首フラスコ」を使った実験を通じて、発酵の原因は空気中に浮遊している微生物であることを証明し、「Omne vivium e vivo(=全ての生物は生物から発生する)」という有名な言葉を残しました。また、関与している微生物の違いによって、アルコール発酵、酪酸発酵、乳酸発酵などの違いが生じることも明らかにしています。

高品質な酒をつくる「酵母の純粋培養」の確立

 19世紀までのビール醸造は、空気中に浮遊する酵母を利用した自然発酵に頼っており、他の微生物や雑菌の混入により、品質がなかなか安定しませんでした。しかし1883年、雑菌や微生物を少なくするため、優良な酵母を1つだけ取り出し、純粋培養・増殖した酵母を発酵に用いる方法が発見されたのです。この技術が世界各国で広く応用されるようになったことで、酵母を利用したアルコール発酵飲料は飛躍的な品質向上を遂げるようになりました。

 この「純粋分離法」を確立したデンマークのハンゼン(1842〜1909)は、現在も「発酵工業の父」として、その業績を高く評価されています。

発酵を引き起こす酵素「チマーゼ」の発見

 アルコール発酵に関与している酵素「チマーゼ」が発見されたのは、まさに偶然のたまものでした。

 ドイツの化学者ブフナー(1860〜1917)がある日、別の実験のために培養した酵母を磨砕し、大量の糖を加えて1日放置しておいたところ、死滅したはずの酵母が炭酸ガスを出しながら盛んにアルコール発酵しているのを発見したのです。彼はこの結果に驚き、その後の実験によって、この発酵が酵母の細胞内から溶出した酵素によって引き起こされたことを突き止め、アルコール発酵に関与するこの酵素を「チマーゼ」と名づけました。


参考文献
「食品微生物学」 建帛社
「発酵と食の文化」 ドメス出版
「乳酸発酵の文化譜」中央法規出版
「発酵〜ミクロの巨人たちの神秘」 中央公論社



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