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ウイスキーとミステリーの世界

『ラブラバ』
La Brava

(1983 アメリカ); 作/エルモア・レナード; 訳/鷲村達也; 出版/ハヤカワ文庫

ラブラバ

(ストーリー)
ジョー・ラブラバは元シークレット・サービスの捜査官で、かつてはさまざまなVIPの護衛を務めた男だ。退職した今は、マイアミビーチでカメラマンの職に就いている。その彼が、年上の友人モーリス・ゾラの引き合わせで、ある女性と知り合った。ジーン・ショー。元女優である。そして彼女こそは、かつてラブラバが12歳のときに銀幕で出会い、初めての恋情を覚えてしまった相手なのだ。引退後マイアミビーチにやって来ていたジーンだったが、身辺に問題を抱えていた。大男のガードマン・リチャード・ノーブルズ、キューバの刑務所を脱獄してやってきた犯罪者・クンドー・レイ。この二人が彼女の背景につきまとい、何事かを企んでいたからだ。ジーンと恋におち、陰謀の影に気付いたラブラバは、昔とった杵柄で彼女を守り、悪に対抗する決意を固めるが……。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞に輝くクライム・ノヴェルの傑作。オフビートのテンポが魅力だ。


主人公ラブラバは、たいへんな果報者である。なんと、元銀幕のスターを口説くことになったのだ。お相手は、かつての初恋の相手、ジーン・ショー。さあ、ここで質問です。一回り近くも歳が上の、元女優ってどんな風に口説けばいいんだろう?

正解は、彼女の主演作の話題をふること。実はラブラバは彼女の熱烈なファンなので、主だった作品はすべて観ていたのである。よかったよかった。その会話でわかったことがある。彼女はフランク・キャプラ監督の人情コメディ「波も涙も暖かい」(59)のヒロイン・オーディションを受けていたのだ。実際にはエリノア・パーカーが演じたこの役、作中では若き未亡人という設定。ということは、当時彼女は20代だったろう。ということは、今(83年)の年令は……? 女性に年令を聞くわけにもいかず、ラブラバもさぞかしやきもきしただろうが、その疑問も氷解である。ちなみにラブラバは38歳。ジーンの年令は……(秘密秘密)。

さて、ラブラバとジーンの結びの神役を果たすのが、ウイスキーである。初対面の二人はスターとファンの間柄でぎごちない。だが、やはり酒精には心を寛がせる魔力がある。

ラブラバの年上の友人であるモーリスとともにスコッチ・ウイスキーを楽しみながら、二人は急速に打ち解けていくのだ。それもいささか早すぎるというくらい。だって、次に昼食をともにしたとき、ジーンはラブラバのハイビスカス柄(! でも、ここはマイアミなのだ)のシャツをほめてこんなことを言うのである。

――「わたし、男性のシャツのことをすてきだなんて言ったのは初めてだわ」

これが愛の告白じゃなくてなんでしょう。そこへモーリスが現れ、ジーンとこんな会話を交わすのだ。

――「なんだか知らないが、そいつもひと口飲ましてくれ」
ジーンが自分のグラスを差し出して、「スコッチ・ウイスキーよ」と言うと、
「何杯目だい?」とモーリスは言った。
ジーンは、ラブラバの顔を見て言った、「何杯目かしら、六杯、それとも七杯?」
「まだ昼間の三時だぜ!」とモーリスは声を上げた。

スコッチ・ウイスキーの進む昼食。さぞかし楽しかったのだろう。女優とお近づきになりたかったら、やはり大事なのは映画の知識。それからスコッチの魔力なのである。


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