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ウイスキーとミステリーの世界

『トラブル・バスター』

(1988 日本); 作/景山民夫; 出版/角川文庫

トラブル・バスター

(ストーリー)
関東テレビ総務部総務課制作庶務係の宇賀神邦彦。以前は制作部でディレクターを務めていたが、もっとも数字を稼いだのは、担当していた朝のワイドショーで、スタジオに乱入した電波男をバックドロップで床にたたきつけ、失神させたとき。瞬間視聴率38パーセントという驚異的な数字を稼いだが、当然やりすぎということで、減俸処分をくらった。結局、4年間で9本の番組をコケさせた落とし前をとらされて、今の職場に左遷。タレントや局の連中が次から次へと撒きちらす面倒事を始末して回るのが仕事だ。いつの間にか、ついたあだ名がトラブルバスター。局の建物からも追い出され、今はプレハブ小屋の仮住まい。
「宇賀神か? バカヤロー」
第二制作局長の田所が電話口の向こうで怒鳴るときが、トラブルバスターの動き出すときだ。華やかな世界の裏側で起こる珍騒動の数々を描く、ポップなハードボイルド。


――人によっては俺をジョニー・キャッシュの若い頃にそっくりだと言う。別な奴はアンクル・トリス瓜二つだと言う。自分では、リー・ヴァン・クリーフというマカロニ・ウェスタンなどにもよく出ていた西部劇俳優に似ていると思うのだが、そう言ってくれた男は一人もいない。女は一人だけいた。別れた女房だ。

あの愛嬌ある三頭身のキャラクター、アンクル・トリスに瓜二つだ、というのだから、その風貌はともかく、“トラブルバスター”宇賀神がどんな世代の人間に属するかはよく判るというものだ。おそらくは、ウイスキーといえばトリスバーでハイボール、が当たり前だった昭和の世代の男。 昭和の世代はウイスキーとともにあったのである。

ところで、ジャパニーズウイスキーは、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンと並んで世界の五大ウイスキーの一角を占めるが、その最初の製品は、 1929年に山崎蒸溜所で生まれたサントリー白札(今のホワイト)だ。今はシングルモルトなど多彩なウイスキーが飲まれる時代だが、そこにたどりつくまでには、われわれのライフスタイルもさまざまに移り変わってきた。そんな歴史を象徴するアンクル・トリスに生き写しの男。宇賀神邦彦、どこまでもウイスキーの似合う男だ。

黎明期のジャパニーズ・ウイスキーはブレンデッド・スコッチをモデルに作られてきた。だが、進駐軍と進駐軍が運んできた洋酒の瓶で戦後を迎えた世代にとって、ウイスキーとはスコットランドではなく、アメリカの象徴なのかもしれない。宇賀神も言う。

――オンザロックでスコッチをタンブラーに指三本まで注いでもらった。その半分ほどを口に含むと、アメリカの味がした。

『トラブルバスター』には、ウイスキーの香りとともに、そんなオールドファッションドな時代の雰囲気が漂っている。今は亡き昭和の時代の残滓を感じたい方は、この昭和最後の年に刊行されたハードボイルド作品集を読むことをお薦めしたい。ちなみに、宇賀神の二日酔い対処法は、黒生ビールのトマトジュース割り、それに塩一つまみとブラックペッパー一振り、そしてタバスコ三滴だ。古風な男の古風な特効薬。

――多少は頭痛退治に効果があるように思える。いやそう信じるようにしている。男も三十五才になれば、何かひとつぐらいは信じるものがあった方が良い。

あなたは信じますか? この効果。朝から黒生ビールはちょっときついが、どこまでも型破りな男らしい特効薬である。


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