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ウイスキーとミステリーの世界

『ホット・ロック』
The Hot Rock

(1970 アメリカ) ; 作/ドナルド・E・ウェストレイク; 訳/平井イサク; 出版/角川文庫

ホット・ロック

(ストーリー)
刑務所を出たばかりの強盗、ジョン・アーチボルト・ドートマンダーは相棒のケルプの出迎えを受け、早速仕事の打診を受けた。盗み出すものはアフリカのアキンジという国の秘宝、時価50万ドルはくだらないだろうというエメラルドだ。実はこのエメラルド、隣国のタラブウォも所有権を主張しており、秘密裏に盗み出すよう、タラブウォの大使館筋から依頼が来たというのだ。今その宝石はニューヨーク・ミュージアムにあるという。
綿密な計画を立て、盗みを実行したドートマンダー一味だったが、思わぬ妨害が入ってしまった。その結果、エメラルドはさらに難攻不落の防御を誇る某施設の中へ。やむをえずドートマンダーは第二の作戦を立て始めるが……。
秘宝をめぐり、強盗一味が右往左往のコミカル犯罪小説。ピーター・イエーツ監督、ロバート・レッドフォード主演で映画化もされた、巨匠ドナルド・E・ウェストレイクの手による人気シリーズの第1弾だ。


限りなく素晴らしい企画力を持つ、天才強盗。それがジョン・アーチボルト・ドートマンダーである。ところが、なかなか運命は彼に楽をさせてはくれない。デビュー作の本書では同じ獲物を何度も何度も盗み出すはめになるが、毎回毎回似たような苦労が彼には付きまとうのである。腕は素晴らしいのに、運だけは最悪。こういう人、いますよね。

そのドートマンダーが作戦を練るのが、ニューヨークはアムステルダム・アベニューのO・J・バー&グリルだ。その店の奥の小部屋がドートマンダーの参謀室になっている。カウンターの前を通りすぎ(いつも酔った男たちが口論している)、犬の絵が描いてあって一つにはポインター、もう一つにはセッターと描いてある二つのドア(トイレだ)と電話室の前を通りすぎ、どんづまりのグリーンのドアを開けたところにその部屋はある。

集まってくるのは、ドートマンダーの自称相棒(ドートマンダーは疫病神と考えている)ケルプ、そして逃走の運転手を務めるマーチといった面々。マーチはビールに塩をちょっと落として飲むという変わった酒の飲み方をする男だが、運転の技術は確かで、ニューヨーク中の道を知っている。彼がアムステルダム・アベニューまでの道順をいつも詳しすぎるほどに説明してくれるから、この本を読んだ人はきっと初めてニューヨークに行ったときでも迷わずにO・J・バー&グリルにたどり着けるに違いない(たぶん)。

そして我らのドートマンダーの飲む酒は、バーテンダーのロロがちゃんと心得ている。彼は頭が禿げかかっているのに髭の剃りあとは青々としている、背の高い男。刑務所を出たばかりで、久しぶりのはずのドートマンダーに彼は言う。

「バーボンのダブルでしたね? ストレートで」

「驚いたね、覚えててくれたのか」

「常連のお客さんのことは、絶対に忘れないんですよ」とロロはいった。「ほんとに久しぶりですね。何だったら、瓶で持っていきますよ」

同じ飲むのであれば、こういうバーテンダーのいる店にあたりたいものである。カウンターを挟んで、客に飲み物を手渡すという点ではバーテンダーは鮨屋の板前と同じ。以心伝心で客の好みを心得ているようでなければ、ちっとも酔えないというものではないか。幸か不幸か、ドートマンダーの仕事は不運にみまわれるため、本書の中で彼らは何度もO・J・バー&グリルにおける作戦会議を開くことになる。そのたびにドートマンダーが飲むウイスキーの銘柄なのだが、これが「アムステルダム酒店謹製の"われらが銘酒"」なるボトル。はて、ニューヨークの地バーボンなのか(ケンタッキー州かテネシー州産のウイスキーでなければバーボンとはいえない)。

それはおいしいのかい、ロロ?


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