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ウイスキーとミステリーの世界

『大はずれ殺人事件』
The Wrong Murder

(1940 アメリカ) ; 作/クレイグ・ライス; 訳/小泉喜美子; 出版/ハヤカワ・ミステリ文庫

大はずれ殺人事件

(ストーリー)
元新聞記者のジェーク・ジャスタスは、幸福の絶頂にあった。何しろ最愛の女性ヘレンと結婚したばかりで、その祝賀パーティが開かれた夜だからだ。だが、祝い酒で酔眼朦朧とした彼の意識を、一気に目覚めさせる出来事が起きた。シカゴ社交界の花形、モーナ・マクレーンがとんでもないことを言い出したからだ。誰からも発見されない方法で人を殺してみせる。しかも白昼の路上、衆人監視の中でそれをやってのけると!
モーナと、彼女が失敗するという賭けをするジェーク。賭けの賞品は、モーナが所有する <カジノ> 、シカゴ一の有名なナイトクラブだ。そして翌日、群衆の中で本当に一人の男が殺されてしまう……。さっそく事件を調べ始めたジェークを助けるのは、美人だが、車の運転が荒っぽいのが玉に瑕の妻・ヘレン、酔っ払い弁護士のジョン・J・マローンの二人。果たしてジェークは賭けに勝つことができるのか?


海外のミステリーは苦手、人の名前を覚えるのに苦労するから……、そんなことを言う人は結構多いと思う。でも、そんな食わず嫌いの人でも、とりあえずクレイグ・ライスのミステリーだけは手にとってみるべきだ。絶対に損はしないから。人の名前が覚えられない? いやいや、笑うのに忙しくて、そんなことはまったく気になりませんよ。

ライスの小説で主役を務めるのが、酔っ払い弁護士のジョン・J・マローンだ。この男、いつも酔っ払っている。そして、酔っ払ってないときにはたいがい二日酔いなのである。そんな酔っ払い男の友人がジェークとヘレンのジャスタス夫妻なのだ。

『大はずれ殺人事件』はそのジェークとヘレンの新婚時代の出来事だ。この三人ときたら、四六時中、事件そっちのけで乾杯ばかりしている。ギャングに襲われたときでも、なみなみと液体の入ったグラスを満載したお盆を顔面にぶつけて難を逃れるという、念の入りよう。雪山の遭難救助犬として知られるセントバーナード犬は、遭難者の気付け用のため、首にウイスキーを入れた樽をぶら下げているというが、この探偵トリオにとって、事件の解決のために最大の助けとなるのが、ウイスキーなのだ。謎を解くきっかけも、ジェークがグラス3分の1ほどのライ・ウイスキーを飲んだときにやってきた。

さて、ウイスキーからその他のリカーまで、いろいろな酒が飲まれているこの小説で、もっとも印象に残るのが、テネシーからやってきた老婦人ララメイ・ヤンドリイが故郷から持参してきたコーン・ウイスキー(コーン・リカー)だ。ジェーク曰く、第一印象は「咽喉中がばらばらに吹っとんだ、というような感じ」。そして二口目で「何か新発明の高性能の爆弾でも呑んでいるのか」と疑いたくなり、三口目でやっと、「正体は何であれ、悪くはない飲み物だ」と納得できるという代物。ヘレンはこのスピリッツを使って新たな南部風カクテルの処方を試してみることを考えるが、そのカクテルの名前は、「叛乱の叫び」だという。いかに凄いスピリッツだか、分かろうというものではありませんか。

だが、本当に凄いのは、このスピリッツの提供者、ララメイ・ヤンドリイだろう。なにしろこのスピリッツを飲みながら、たった二本の手で四本の編み棒をあやつり、煙草を吸い、しかも一語の脱落もなく、間断なしにひとり言のおしゃべりを続けていくというのだから! テネシー州にはこんなおばあちゃまがゴロゴロいらっしゃるのだろうか。素敵な土地柄である。


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