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ウイスキーとミステリーの世界

『レイトン・コートの謎』
The Layton Court Mystery

(1925 イギリス) ; 作/アントニイ・バークリー; 訳/巴妙子; 出版/国書刊行会

レイトン・コートの謎

(ストーリー)
作家のロジャー・シェリンガムは、休暇で滞在していたレイトン・コートで不愉快な出来事に遭遇した。彼を招待した館の主ヴィクター・スタンワースが頭を銃弾で吹き飛ばした死体として発見されたのだ。現場がスタンワースの書斎であり、遺書らしき文面も見つかったことから、事件は自殺として処理されることになった。だが、シェリンガムは持ち前の好奇心を刺激されて、あたりの様子を嗅ぎ回っていた。現場となった書斎の窓の下にあった奇妙な足跡、現場から消えていた謎の花瓶など、いくつかの状況証拠から、シェリンガムは必然的な結論を導き出す。スタンワースは殺害されたのだ。自説の正当性を証明するため、迷惑顔の友人アレックを無理矢理助手役に任命し、シェリンガムは本格的に推理を開始した。彼がたどりついた意外すぎる結論とは……?『毒入りチョコレート事件』などの諸作で知られる作家の幻のデビュー作。まったく古びることのない、不朽の名作だ。


世界一飲酒文化が進んだ国はどこかといえば、おそらくイギリスではないかと思う。およそイギリスほどさまざまなお酒の飲み方を発明した国はないからで、そのどれもが純粋にお酒を楽しむためのスタイルになっているのがおもしろい。例えばイギリス式パブはいわゆる「立ち飲み」で談笑以外の夾雑物がほとんどないし、会員制クラブというやつは長きにわたって女性の参加を拒み(最近はしぶしぶ解禁しているらしい)、男たちにストイックな酒の場を提供してきた。遊郭文化の伝統がある日本などはこれに比べればよっぽどくだけている。女性のいない会員制クラブなど、日本では考えられないでしょう。イギリスは本当に紳士の――というか朴念仁の国なのである。

さて、そのイギリスにはカントリー・ハウスというものがあるが、これはすなわち上流階級の人々の地方にある館である。社交界の人士がこのカントリー・ハウスに集い、ウィークエンド・パーティと呼ばれるどんちゃん騒ぎをくり広げたのだ。本来のカントリー・ハウスの持ち主は貴族階級の人々だが、富裕階層が地方に土地を所有して館を建築することもあった。このパーティは酒飲みにはこたえられないものであったらしい。招待客たちはみな、煙草とウイスキーの匂いをプンプンさせていたという。

――ロジャーはスタンワース氏が気に入った。この陽気な老紳士には、朝の十時以降なら何時でも、半クラウンの葉巻と戦前のウイスキーを人に押しつけるという愉快な習慣があり、彼の眼鏡に適ったのだ。

『レイトン・コートの謎』の舞台となるカントリー・ハウス“レイトン・コート”の主人スタンワース氏は貴族ではないが、カントリー・ハウスのマナーについてはきちんとしていたようである。すなわち、客をもてなすにはよいウイスキーを、である。ここで供されていたのは、たぶんシングルモルトのスコッチ・ウイスキーだろう。というのは「戦前の」という断りがあるからで、グレイン・ウイスキーやブレンデッド・ウイスキーもまたウイスキーと名乗ることが法的に認められたのは、第1次世界大戦開戦の3年前、1909年のこと。大雑把に言えば、グレインとブレンデッドの地位は第1次世界大戦を境にぐんと上がったわけである。わざわざ「戦前の」と断ったところに、シングルモルトへのこだわりを見るのはうがちすぎだろうか。

カントリー・ハウスでもっぱら好まれた食事は、サーロイン・ステーキやハム、パイ、プディングといったところらしい。当然フィッシュ・アンド・チップスのような下世話なつまみは出てこなかった。しかし朝の十時からこのつまみでウイスキーではないですよね? それではいくらなんでも胸焼けが心配である。朝酒はせいぜいショット・グラスに一、二杯が適当かと。日本人なら塩でも舐めとけ、というところだが、英国人でもあるし、ホースラディッシュをかじりつつ、なんてつまみはいかがだろうか。


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