WHiSKY on the Web ウイスキーミュージアムウイスキーと文化ウイスキーとミステリーの世界インテリジェンス編 > 白い家の殺人

ウイスキーとミステリーの世界

『白い家の殺人』

(1989 日本); 作/歌野晶午; 出版/講談社文庫

白い家の殺人

(ストーリー)
大学生の市之瀬徹は、女子高生・猪狩静香の家庭教師を引きうけた。猪狩家は名の知れた資産家。クリスマスからの年末年始は一家そろって八ヶ岳にある別荘で過ごす慣例になっており、今年は徹も招待を受けた。事件が起きたのはその夜。リビングルームに集った人々がモノポリーゲームを楽しんでいたところ、階上から不吉な物音が聞こえてきたのだ。異変を感じた一同が階段を駆け上がり、静香の部屋をノックする。だが返事がない。やむをえない、扉を破壊し、室内に躍りこむ。だがそこにあったのは、シャンデリアから逆さ吊りにされた、静香の凄惨な他殺死体だった。
密室状態で起きた殺人は、別荘を恐怖の渦に引きこんでしまう。犯人はいったい誰なのか? 一家の中にそんな残虐な行為の動機を持つ者が? 疑心暗鬼の中、第二の被害者が出てしまう……。アウトローの探偵・信濃譲二が不可能犯罪に挑む長篇シリーズ第二弾。


お酒を飲むと頭の働きが明晰になる方、いらっしゃいますか? 私はそういう方を尊敬します。凡人は、お酒を飲むと幸せになりはするものの、たぶん賢くはならないから。しかし、ゲームはちょっとお酒を飲みながらの方が楽しいことはもちろんである。あなたが囲碁や将棋やチェスのプロでもない限り、ウイスキーグラスを傾けながらプレイすることに何の問題もないだろう。いやむしろ、アルコールの魔力が、普段は浮かぶことのない奇手を思いつかせてくれるかもしれない。

猪狩家別荘で殺人が起きた夜、別荘に集まった男たちはモノポリーに興じていた。遊びだからといっていい加減にするわけではない。当主である猪狩昇介が運ばせたウイスキーをグラスに注ぎ、銘々がそれをあおってフェアプレイと健闘を誓ったのだ。すると――?

――徹はそれにしたがった後、グラスを口につけ――、そしてむせた。(略)
「アイレイ・ウイスキーはクセが強いからね。麦芽をいぶすためにピートという草炭を使うんだが、スコットランドの西にあるアイレイ島のピートは海草をふくんでいて、ウイスキーに独特の香りをつける。慣れてしまえば病みつきになるが、君のように若くては、まだ味が解るまい」

当時はまだシングルモルトがそれほど有名ではなかったころ。確かに、癖の強いウイスキーを人に飲ませてびっくりさせるのが好きな御仁がそこここのバーにいたものである。シングルモルトの普及とともに、彼らの意地の悪い遊びは下火になった。まあ、酒場での悪ふざけはほどほどに。

この事件は多数の被害者を出してしまう、後味の悪いものだった。現場に居合わせたものの、被害を食い止めることができなかったことで忸怩たる思いを味わっている徹に、名探偵の友人・信濃譲二はそっと酒を勧めるのである。

――これからこいつとは離れられないんだ。と徹は顔をぬぐって、信濃が得意とするドイツ語で、
「ツム・ヴォール」
と乾杯のグラスをあげた。
二人は朝まで飲んだ。

やっぱりお酒はこういう風に気持ちよく飲みたいもの。きっとこのときのお酒もアイラ・モルトだったのだろう。グラスは当然シングルモルトに適したチューリップグラス。本当はぐっと飲み干す前に、グラスの壁にウイスキーをまわして香りを楽しむのが正しい飲み方。しかしアルコールの魔法が待ち構える一杯目にやぼは言うまい。二杯目はもう少し落ち着いて、時間をかけて。三杯目はさらにゆっくり時間をかけて。そんな具合にボトルが空いていくのが、大人の正しいウイスキーの飲みかたというものです。


【そして誰もいなくなった】目次へ【レイトン・コートの謎】