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『シャーロック・ホームズの冒険』
The Adventure Of Sherlock Holmes

(1891 イギリス); 作/アーサー・コナン・ドイル; 訳/延原謙; 出版/新潮文庫

シャーロック・ホームズの冒険

(ストーリー)
シャーロック・ホームズは彼女のことをいつでも「あの女」とだけいう――、推理機械の代名詞ともいうべき名探偵が、生涯にただ一度だけ心を揺るがされた女性、アイリーン・アドラーとの邂逅を描く「ボヘミアの醜聞」。赤毛の人間だけを募集するという奇妙な新聞広告に応じた男の物語から、驚くべき犯罪計画を紡ぎ出す「赤髪組合」。アヘン窟で姿を消した男の謎を描く、消失トリックの傑作「唇の捩れた男」。
むせび泣くような口笛とともに夜な夜な現れる、奇怪な魔物に命を狙われた美女を救う密室トリックの古典的名作「まだらの紐」など、天才探偵シャーロック・ホームズの数々の活躍を収める作品集。アフガニスタンの従軍から戻ったワトソン医師は『緋色の研究』においてホームズと運命的な出会いを果たし、56の短篇と4つの長篇を記録することになる。中でも本書は「ストランド」誌に発表されるやいなや、ロンドン中を興奮のるつぼに巻きこんだ記念すべき第一短篇集だ。


世界でももっとも有名な探偵、シャーロック・ホームズ。彼のプロフィールは有名すぎるほどに有名である。ベーカー通り221番地Bという住所に始まり、下宿のあるじがハドソン夫人という女性であること、マイクロフトというこれも博学多才な兄がいること、ヴァイオリン演奏が巧みでボクシングの名手であり、タバコとコカインの悪癖を持つこと、などなど。では、飲酒のたしなみの方はどうだったろう。

もちろん下戸などではあるはずがなく、しばしば捜査の途中でパブに立ち寄る場面が目撃されているし、部屋の片隅にはウイスキーの壜や、ソーダ水のサイフォンが置かれていることも知られている。「花嫁失踪事件」では、ちょっとお固い依頼人を帰した後、こんなことを言っているのだ。

「うっふっふっ、ありがたくもセントサイモン卿は、僕の頭をご自分のと同じ水準においてくれたぜ。こんな面倒な質問をやらされたんだから、ウイスキー・ソーダと葉巻でもやらなくちゃ引き合わないよ。(後略)」

どうやらホームズの好みの飲み方はウイスキー・ソーダのようだ。では、いったいどんなウイスキーが彼の部屋には備えられていたのだろうか。イングランド人であるホームズにとって、ウイスキーといえばアイリッシュかスコッチと考えるのが普通だろう。ウイスキー発祥の地とされるアイリッシュか、香り深いスコッチか。ちょうど、1860年代は、スコッチにとって革命的な出来事であった、モルトとグレインのブレンデッド技術があみ出され、スコッチの大量生産が可能になって、スコットランド以外の地でもスコッチを飲むことができるようになった時代である。『シャーロック・ホームズの冒険』が書かれたのが1870年代であることを考えると、どうもスコッチに軍配を上げてしまいたくなる。

しかし、少しだけここで空想をたくましくしてみよう。『冒険』の冒頭に収載された「ボヘミアの醜聞」で、ホームズは運命の女性ともいうべきアイリーン・アドラーと電撃的な邂逅を果たしている。なにしろ、女性に対しては常に冷淡なホームズが、事件解決後、依頼人にアイリーンの写真を所望するほどご執心だったのである。『冒険』に収められた短篇の中ではしばしばアイリーンの名前も回想されている。この女性はアメリカはニュージャージー州の出身だが、もしかしたらホームズは、このアイリーンをしのんで、新大陸の酒であるケンタッキー・バーボンをたしなんでいたのではあるまいか? ちょうどこの時期、南北戦争が終わって、大量にバーボンが生産されるようになっているのも証拠の一つ。

とんでもない珍説かもしれないが、だって、スコッチよりもバーボンの方がソーダ割りはお似合いなウイスキーだもの。


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