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ウイスキーとミステリーの世界

『帝王死す』
The King Is Dead

(1952 アメリカ); 作/エラリイ・クイーン; 訳/大庭忠男; 出版/ハヤカワ文庫

帝王死す

(ストーリー)
名声高い探偵エラリイとその父でニューヨーク市警の警視であるリチャード。二人の安寧はある朝突然破られた。三人組の暴漢に突如住んでいるアパートメントから連れ去られたのだ。誘拐の目的は《探偵》。依頼人はエーベル・ベンディゴ。軍需産業によって巨万の富を築いた富豪キング・ベンディゴの末弟だ。キングは第二次世界大戦当時の機密島を買い取って住居とし、私設の陸海空軍を作って身辺を警護させているという。そのキングに、あろうことか命を狙う者からの脅迫状が届けられたという。
拉致同然にしてキングが住まうベンディゴ島に連れてこられたクイーン父子は、脅迫状の犯人捜しを開始する。そしてクイーンの慧眼はまもなく思いもかけない真犯人を指摘するのだが、悲劇はそこで起こった! 完全に出入りを遮断された密室の中でキングが射殺されてしまったのだ。この不可能犯罪の真相は何か? 名探偵の推理は……?


エラリイ・クイーンというと、あまり酒をたしなんでいる姿は印象にないのだが、それでもやはり人並みにウイスキーを飲むことは楽しんでいるようだ。ある作品の中では「酒に弱いことにかけては評判の男だった」と揶揄されているが、なかなかどうしてそうでもない。『ドラゴンの歯』という作品では推理開始にあたり、シガレットを20本、大きなボックス入りのコーヒー、そしてスコッチを1壜机の上に並べてから思考を開始する姿が目撃されているのだ。ではいったいクイーンのたしなんでいたスコッチとは何なのだろう?

クイーンの作品が邦訳されたころ、日本にはウィスキーといえばブレンデッドという常識しかなかった時代だった。だからどの読者も自然とブレンデッドのウィスキーを念頭において小説を読んでいたに違いない。しかし現在では、ウィスキーの世界にブレンドしないシングル・モルト・ウイスキーというものが存在し、そちらの方が長い伝統を持っていることがよく知られている。クィーンという人は伝統的な事物を好む探偵だったから、やはり好みもシングル・モルトだったのではあるまいか? いや、やはり複雑な思考を好む探偵らしく、複雑なブレンドの味を愛したのだろうか? 想像は膨らむばかりである。

さて、『帝王死す』という小説は、作家エラリイ・クイーンの中では比較的後期に当たる作品である。実はクィーン作品の中で密室が出てくる回数はそれほど多くないのだが、この小説には厚さ2フィートの壁で囲まれた完全無欠の密室が出てくる。ある人物がその部屋の外で銃弾をこめていない拳銃の引き金を引くのだが、驚くべきことに室内にいた人物がまるでその拳銃に撃ち抜かれたかのように射殺死体として発見されてしまうのだ。この驚くべき謎の真相を、あなたは掴むことができるだろうか。ヒントは銃弾をこめていない拳銃の引き金を引いた人物が持つ酒壜である。彼はその酒を愛し、島の至る所に壜を隠し持っていた。引き金を引いた時にも――

――酒を数オンスゆっくりとグラスに注ぎ、左手に壜をにぎったまま、すこしずつゆっくりと飲んだ。それから彼は壜とグラスを投げすてた。壜とグラスは床に落ちて割れ、彼は机の上に顔をふせて泣いた。

まるで弔い酒のようにグラスをあおるのだ。いったいこの酒の意味は何なのか? それを知ったとき、あなたは一歩真相に近づくことだろう。


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