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ウイスキーとミステリーの世界

『ダウンタウン』

(1989 アメリカ); 作/エド・マクベイン; 訳/羽田詩津子

ダウンタウン

(ストーリー)
フロリダでオレンジ農園を経営するマイケルは、ニューヨークにやって来た。雪景色のクリスマス・イヴ。バーで魅力的な女性弁護士ヘレンと知り合い、意気投合したマイケルだったが、突如ヘレンは彼に指輪を盗まれたと騒ぎ出し、警官を呼ぶ騒ぎとなった。しかも騒ぎが終わってヘレンと警官が消えたとき、マイケルの財布はなくなっていた。手のこんだ詐欺だったのだ。おまけに手助けを申し出た自称映画監督の男にレンタカーを乗り逃げされてしまう。さらに、ホールドアップに出会った結果、暴行犯と勘違いされて刑事に追い回されることになるのだ。さすがに不幸はこれで終わりかと思いきや、その先があった。乗り逃げされた車が発見されたはいいが、中から死体が発見されたのだ。その傍らにはマイケルの運転免許証が! 窮地のマイケルを救ったのは、美貌の中国人女性コニー。ホワイト・クリスマスのマンハッタンを舞台に、二人の冒険が始まった。傑作サスペンス。


チャールズ・ディケンズ『クリスマス・カロル』は、因業な性格のためにさびしいクリスマスを送ることになる男の物語だった。日本でも最近はそうだ。みんな一人ぼっちのイヴがいやで、師走の町で金策ならぬ恋人調達に走り回ったりする。

マイアミから一人でニューヨークにやってきたマイケルも、さびしかったのだろう。一人でバーに入ったのも、出会いがあればいいと思っていたからに違いない。店は昔ながらの酒場の風情を漂わせる、いい感じの店。そして外はホワイト・クリスマス。こんなときに女性と出会ったら、運命の恋をしてしまいそう。そんなことを考えていたんじゃないのかな? でも、あまりに雰囲気ができすぎてない? 誰もがそう思うでしょう。案の定、彼は女詐欺師にひっかかり、手痛い目に遭ってしまう。大都会でもっともらしく見えすぎるものに出会ったら、一度ほっぺたをつねって我に返った方がいい。

本当の出会いはその後に待っていた。マイケルを窮地から救ったのは、中国系の女性、コニー・キー。ちょっと素っ頓狂なところのある美少女。彼女は、無実を証明しようとするマイケルとともに、新聞記者を装って証人の家を訪れる。でも飲み物を勧められて、彼女が選んだのはホット・トデイ。理由は、飲んだことがなかったから。

――「この飲み物、少したってからきいてくるのね」コニーがいって、またひと口トディーをすすった。
「かきまぜるのに使うのよ」メアリーがいった。「そのシナモン・スティックは」
「まあ」コニーはいうと、かきまぜ始めた。

ホット・トデイは、ウイスキーなどのお酒に角砂糖を加え、湯で割ったもの。お好みでレモンを加えたりしながら飲むのだ。角砂糖はじょじょに溶けるから、当然かきまぜながら飲んだ方がいい。お酒も底の方にたまるだろうし。たぶん、コニーがかきまぜ始めたときには、もう手遅れだったんじゃないのかな。きっとずいぶん濃いトデイになっていたことだろう。おかげで、その後にやってきた大事な局面で、コニーはすっかり酔っ払ってしまうことになる。ヒロインらしくない失態。でも、かわいいではないですか。あなたも、デートの相手が初めてホット・トデイを頼んだら、余計なことを言わずに黙って見守ることをお勧めします。かきまぜずに飲んで濃いのに気付いたら、なんというか。薄めるために追加のお湯をもらうような女性なら、あなたに気を許してないのかも。黙って飲んで謎めいた微笑を浮かべる女性なら、もしかすると素敵なことが待っているかもしれない。


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