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ウイスキーとミステリーの世界

『サマータイム・ブルース』
Indemnity Only

(1982 アメリカ) ; 作/サラ・パレツキー; 訳/山本やよい; 出版/ハヤカワミステリ文庫

サマータイム・ブルース

(ストーリー)
ヴィクことV・I・ウォーショースキー、シカゴに居を構える私立探偵だ。女性が個人経営する私立探偵事務所ということで侮ってかかる依頼人もいる。だが、ヴィクの腕前は超一流。単なる失踪人捜しから、大企業を相手取っての勝負まで、男たちを相手に一歩もひけをとらない闘いぶりをみせる。停電の夜、明かりの消えた事務所を訪れた男が持ちこんだ依頼は、失踪した若い女性を捜すことだった。会社の後継ぎである息子のガールフレンド。
だが、ヴィクが依頼を受けて仕事に取り組んだ途端、事態は目まぐるしく変化していった。まず、依頼人の息子が射殺された。そして、その依頼人自身、なぜか偽名を使っていたことが判明したのだ。さらには、ヴィクの身にも暗黒街からの手が延び、事件から下りるように脅迫される。どうやら背景には、複雑な組織犯罪の影があるようだった――。シカゴの女性探偵が活躍するシリーズ、記念すべき第1作。


長らく男性優位社会が続いたハードボイルドの世界で、初めて逆転現象が起きた。1980年代のことである。私立探偵が、女性にも向いた稼業であることを証明する小説が続々と発表されだしたのだ。

スー・グラフトンのキンジー・ミルホーン・シリーズ(ハヤカワミステリ文庫刊)と、このV・I・ウォーショースキー・シリーズがその代表格だ。特にヴィクのシリーズは、企業犯罪などの骨太のテーマに正面きって取り組むことで定評がある。主人公のヴィクは、アイルランド系ポーランド人の警官の父と、イタリア系移民の母の間に生まれ、本来は弁護士だったが、職業に幻滅を覚え、転職したのだ。

主人公が男性だとそれほど気にされないのに、女性が主人公になった途端、特定の相手――夫やボーイフレンド――の存在を気にし始めるのは、やはり一種の性に対する偏見というべきだろう。それを承知でいえば、ヴィクは基本的に独身が似合う女性である。

『サマータイム・ブルース』でもラルフというボーイフレンドが登場するが、私立探偵という職業に十分な理解を持っているとはいえず、ギャングから脅迫を受けたヴィクに、それとなく手を引くことを勧めて、彼女を激怒させたりしているからだ(案の定、すぐに別れてしまう)。だってヴィクはそれしきのことで引き下がるような甘ちゃんではないのである。熱い風呂とウイスキーがあれば、傷ついた身体も元通り。

――この日二回目の風呂に湯を入れながら、スコッチを一インチ、グラスに注いだ。我慢の限界ぎりぎりの熱い湯に身体を沈め、濡れタオルで髪を巻いて暗いなかに寝そべった。

熱い風呂で三十分。そしてスコッチの力を借りながら、エクササイズで体をほぐす。これでいためつけられた身体を回復させてしまうのだから、やはり、タフである。でも、一般の方にはあんまりお奨めできないか。さらにこの後、ラルフとのデートにでかけ、バーでスコッチを注文し、

――酒が疲労した筋肉と混ざりあってわたしを眠りにひきずりこむまでに、何杯くらい飲めるだろう。

そんなことを考えている。『サマータイム・ブルース』におけるヴィクは、別の機会にも他の店でスコッチを楽しんでいるから、酒ではスコッチ党なのだとみてもいいだろう。ギャングの襲撃にも平気だったヴィクだが、いささか度を過ごした日の翌朝はたいへん――

――目と口のはれぼったい感覚が、昨夜遅すぎる時刻にスコッチを一杯か二杯余分に飲みすぎたことを告げていた。

さもありなん。タフな女性探偵も、やはり二日酔いには弱いのである。ほどほどに。


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