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ウイスキー映画大全


人生編

『秋刀魚の味』

LE GOUT DU SAKE
巨匠・小津安二郎が最後に描いた世界
父は娘を嫁がせた日もウイスキーを飲んでいた

秋刀魚の味

(1962 日本)
監督・脚本/小津安二郎
脚本/野田高梧
出演/笠智衆、佐田啓二、加東大介、岩下志麻、東野英治郎、杉村春子

(ストーリー)
『東京物語』など心温まる日本人の姿を映し続けた小津安二郎。彼の遺作となった『秋刀魚の味』には、ウイスキーを飲みながら友情を深める昭和の男たちの姿が描かれている。娘と暮らす初老のサラリーマン、同僚から娘の縁談を持ちかけられる。その縁談はもたつきながらも整い、やがて娘は嫁いでいく。結婚式の晩、一人バーに顔を出す父親。小津映画の常連、笠智衆の初老の男の背中に淋しさを感じさせる演技と小津映画初出演の娘役の岩下志麻のみずみずしい演技が印象に残る。

1日の仕事の疲れを癒す場所は、赤いネオンのトリスバー。何年ぶりかで偶然、再会した平山(笠智衆)と昔の兵隊仲間(加東大介)は話に大いに盛り上がる。ショット・グラスに入ったストレートウイスキーを飲みながら、「おい、トリス」と注文するとカウンターにボトルが置かれ「グッと行きましょうよ、グッと」。そんな時は自分たちでボトルから好みの量だけショット・グラスにウイスキーを注ぎ、昔話に花を咲かせる。

「もし戦争に日本が勝っていたら私たちは今頃、ニューヨークですよ、アメリカの」と言う当時の部下。そう、時代は「トリスを飲んでハワイに行こう」が一世を風靡した頃だった。

映画のラスト、娘の結婚式の夜、友人2人と一緒に友人の妻の手料理でトリスウイスキーで祝杯をあげた平山の足は、結局トリスバーに向いてしまう。平山が「一杯もらおうか」と言うと「水割りにしましょうか」とどこか亡き妻に雰囲気が似たママが聞くが「いや、そのままで」とストレートウイスキーを注文する。氷をタンブラーに入れながらママは「今日はどちらのお帰り?お葬式かしら」とたずねる。平山は笑いながら「まあ、そんなもんだよ」と答え、一人静かにストレートウイスキーを飲むのだった。

海外でも高い評価を受けている小津映画だが、『秋刀魚の味』はフランスでは秋刀魚が見当たらないため『酒の味(LE GOUT DU SAKE)』という題名で親しまれている。国産・舶来を問わずウイスキーが生活に浸透する模様をストレート、オン・ザ・ロックス、水割り、ハイボールとさまざまなスタイルで描いていて、映画にふさわしいタイトルだ。


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