アイリッシュウイスキーの歩みと特性

アイリッシュウイスキーがノンピーテッド主体で、3回蒸溜になったのにははっきりとした理由がある。
まず古くからイングランドの統治下にあったアイルランドには、さまざまな課税が繰り返しおこなわれた。そのなかで、とくに麦芽にかかる税の負担を軽減するために製造者は未発芽の大麦使用比率を高くしていく。これがスコッチウイスキーのフレーバーと異なるひとつの要因となる。
また蒸溜においては、16世紀には2回、3回、4回蒸溜がおこなわれていたという記録もあるようだが、やがて大英帝国の偉大な特産品としてアイリッシュウイスキーが重要な役割を担うようになると、品質向上を目指していくなかで定着したのが3回蒸溜であったようだ。
アイルランドはスコットランドと同じようにピート(主に植物が半炭化した堆積物。泥炭あるいは草炭)原野が存在する。

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18世紀末まではキルベガン蒸溜所(当時ブルスナ蒸溜所)ではピートを焚いていた。19世紀に入ってもしばらくは石炭が不足するとピートを燃料にしていたという。その他の蒸溜所も同様で、かつてアイリッシュにもスモーキーフレーバーがあったといわれている。
ピーテッド麦芽を使用しなくなったのは19世紀に入りアイルランドのウイスキー産業が巨大化したためである。ピートを燃料として小規模に生産する状況ではなくなり、石炭や木材が燃料に変わる。イングランドの石炭が大量に運ばれてくるようになったのである。
19世紀まで、ウイスキーといばアイリッシュモルトであった。大英帝国の流通網によって広く飲まれていた。スコッチに日があたりはじめるのはブレンデッドウイスキーが開発され、それが世界的に流通しはじめる19世紀後半からのことである。