バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

ブルース

そんな状況から、19世紀後半にブルース(Blues)という音楽ジャンルは生まれたとされている。これはゴスペル(Gospel)や掛け合いコーラスのフィールド・ハラー(Field Holler)という労働歌が発展し、白人が持ち込んだバラッドと融合したものらしい。

ブルースの故郷はいくつかあるようだが、最も知られているのがミシシッピ・デルタ・ブルースである。

綿花畑が果てしなくつづく南部を代表するような土地で、ひとりの人間としての欲望、孤独や不安、不満、怒り、そして恋やお金といったこころの内面を歌うようになった。悲しみのはけ口、叫びを歌に込めたのである。


一方でアメリカ東部白人社会の音楽はどうだったか。19世紀初頭の文化をリードしていたのは17世紀からの早期入植者が集まったニューイングランドと呼ばれる6州(コネチカット、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、メイン、ロードアイランド)だった。中心はマサチューセッツ州ボストン。好まれたのはドイツ音楽、いまで言うクラシック音楽である。

19世紀後半になると東部の中心はニューヨークへと移って行くのだが、それでも音楽家たちはドイツに学んだ。ヨーロッパへと旅立ち、そしてドイツへ留学して帰国する者たちが多かった。

ただし、こちらも南北戦争前後に多様化しはじめている。もちろんロマン派の正統ドイツ音楽様式を受け継ごうとする動きもあった。その枠に収まることなく、正統様式にアメリカ民謡的な香りを融合させようとする動きも表れる。

さらには社会が近代化するにつれて音楽にも影響が出はじめたのだった。移民が大量に押し寄せ、民族、宗教も多彩となる。国力が増すほどに格差社会、経済状況による階層が生まれた。かつてのエッセイで紹介したスティーブン・フォスターの作品には、奴隷問題の影響を受けて書いた曲がある。

ヨーロッパ、とくにイギリスから渡ってきた者たちはバラッドを歌い継ぎ、アイルランドからの移民はバラッドに加えダンス・ミュージックを伝えた。そして象徴的な、最も現代アメリカ音楽シーンに影響を与えたのはアフロ・アメリカンたちだったのである。

彼らのこころの叫びを受け止める酒には、やはりアメリカ生まれのバーボンがふさわしい。ブルースを聴きながら高揚感をもたらし、また高揚した魂を鎮めてくれるのは力強い酒質のクラフトバーボンしかないだろう。

「ノブクリーク シングルバレル」をグラスに注ごう。9年超熟成のリッチで懐の深い味わいは、さまざまなこころの葛藤を優しく雄々しく受け止めてくれる。

(第37回了)

for Bourbon Whisky Lovers