八村義夫

東京出身。9歳でヴァイオリンを習い始め、「子供のための音楽教室」で柴田南雄、入野義朗にソルフェージュを学び、のち松本民之助にピアノと作曲を師事。東京藝術大学卒業(1961)。「作品1」である表現主義とベルクの音楽を彷彿とさせる『ピアノのためのインプロヴィゼーション』(57)のあと、『一息ごとに一時間』(60~61)で、表現主義的色彩を排しながらも、線的な音の重ね合わせによって緊張を持続させる書法を確立。チューブラー・ベルによる長い独奏の冷厳な音響が強烈な印象を与える『星辰譜』(68~69)以降、情動・衝迫を直接表に出すのではなく、それらを論理性・客観性というフィルターを通して純化したうえで提示するかのような音楽を創作。沈黙と動的なパッセージが鮮烈に対比される『エリキサ』(73~74)、エネルギーを発散しているようでいながら、極度に凝集しているかのような強靭な音に満ちた『錯乱の論理』(74~75)は、聴き手にある種のカタルシスをもたらす。桐朋学園大学で長年教鞭を執った(67~84)のち、がん性腹膜炎により46歳で死去。残した作品は20と寡作であったが、その音楽は今も演奏家も魅了し、再演の機会に恵まれている。

[平野貴俊]

アルノルト・シェーンベルク

ウィーン出身。ハンガリー人の父とチェコ人の母をもち、ユダヤ教信仰のなかで育つ。銀行員を務めながら音楽を嗜み、ツェムリンスキーに作曲を師事。教育にも携わり、1904年にヴェーベルンとベルクが入門。18年に「私的演奏協会」を設立し、排他的な形ながら自作を含む国内外の同時代音楽を紹介。ナチスによるユダヤ系人物の排斥を受けて、ベルリン芸術アカデミーでの教授職を33年に辞し渡米。以後ロサンゼルスでの死去まで作曲と教育を行う。ブラームスやワーグナーに通じる濃密な抒情を滲ませた『浄められた夜』(1899)、『グレの歌』(1900~01、01~03、10~11)第1部などを経て、08年以降無調を採用。「音色旋律」を用いた峻厳な佇まいの『5つの管弦楽曲』(09)には仄暗い色調が宿る。20年代初頭に考案し、『5つのピアノ曲』(20、23)以降用いた12音技法は自身の教育を介して絶大な影響力を獲得し、ブーレーズらが第二次世界大戦後推進したトータル・セリアリズムの母体となった。信仰表明ともいえる厳粛なオペラ『モーゼとアロン』(30~32)、多様な解釈が行われてきたシュプレヒシュティンメ・パートを含む遊戯的な『ピエロ・リュネール』(12)も重要作とみなされている。

[平野貴俊]

ジェルジュ・リゲティ

現ルーマニアのトゥルナヴェニに生まれ、現ゲオルゲ・ディマ音楽アカデミーでファルカシュ・フェレンツ(1941~43)、ブダペストのリスト音楽院でヴェレシュ・シャーンドルに師事(45~48)。民謡に似た様式の合唱曲を作る傍らで実験的作品を書いていたが、56年のハンガリー動乱を経て亡命。稠密で線的なテクスチュアと、無数のうごめく線が雲のような塊を形づくるミクロポリフォニーがそれぞれ特徴的な『アパリシオン』(58~59)と『アトモスフェール』(61)で、セリアリズムが主流であった現代音楽界にインパクトを与える。オペラ『ル・グラン・マカーブル』(74~77)のひねりの効いたパロディも衝撃をもって迎えられ、ポスト・セリアリズムを代表する作曲家のひとりとなる。ハンブルク音楽演劇大学では、ウンスク・チンら後進を育てた。80年代以降は、コンロン・ナンカロウの自動ピアノ作品、アジア・アフリカの音楽、コンピューターが生成するフラクタル画像などから刺戟を得て、とりわけ『ピアノ協奏曲』(80~88)、ピアノのための『練習曲集』全3巻(85~2001)、『ヴァイオリン協奏曲』(1989~93)において、閃きと愉悦に満ちたスリリングな音の世界を切り拓いた。

[平野貴俊]

アンドレ・ジョリヴェ

パリ出身。父と母がそれぞれ絵とピアノを嗜む家庭で育ち、ピアノ、チェロを学び演劇に親しむ。父の求めに応じて師範学校を卒業したあと、教師を務めながら本格的に作曲を開始。ポール・ル・フレムに対位法、和声などを学び(1927~33)、彼の紹介で出会ったヴァレーズにも師事(29~33)。メシアンらとともに作曲家グループ「スピラル(螺旋)」(35)、「若きフランス」(36)を結成。一部は現在も親しまれている10を超える協奏曲のほか、劇音楽から映画音楽までさまざまなジャンルを手がけ、オペラ゠コミック座監督(45~59)、文化省芸文総局音楽顧問(59~62)、パリ国立高等音楽院教授(66~71)を務めた。創作の軸にはヴァレーズを受け継ぐ斬新な音響の探究と、原始主義、宇宙論などへの関心に支えられた音楽の魔術的、呪術的要素の表出があり、初期のピアノ曲『マナ』(35)、管弦楽曲『5つの儀式の踊り』(39)は後者の代表的な例である。後の12の声のための『祝婚歌』(53)、『ピアノ協奏曲』(49~50)では呪術性と溌溂とした生命力を両立させ、晩年の『ヴァイオリン協奏曲』(72)では活気にあふれると同時により瑞々しい、融通無碍な音の運びを実現している。

[平野貴俊]

藤倉 大

大阪生まれ。15歳で単身渡英しJ. ベンジャミンらに師事。1998年カジミェシュ・セロツキ国際作曲コンクールに当時最年少で優勝。これまでにロイヤル・フィルハーモニック協会作曲賞、国際ウィーン作曲賞、ヒンデミット賞、第57・63・67・70回尾高賞、第19回芥川作曲賞、中島健蔵音楽賞、エクソンモービル音楽賞、2017年ヴェネツィア・ビエンナーレ音楽部門銀獅子賞、19年文化庁芸術選奨文部科学大臣賞などを受賞。オペラの国際評価も高く、15年にシャンゼリゼ劇場、ローザンヌ歌劇場、リール歌劇場の共同委嘱によるオペラ『ソラリス』、18年にバーゼル劇場委嘱による『黄金虫』、20年に新国立劇場委嘱の『アルマゲドンの夢』を発表、26年2月には『The Great Wave北斎として知られていた芸術家の生涯に基づく全5幕のオペラ』がスコットランドで世界初演された。17年から東京芸術劇場で開催の「ボンクリ・フェス」アーティスティック・ディレクターを務める。近年の活動は多岐にわたり、リモート演奏のための作品発表や、テレビ番組の作曲依頼も多数。録音はソニー・ミュージックジャパンインターナショナルや自身主宰のMinabel Recordsから、楽譜はリコルディ・ベルリンから出版。

https://www.daifujikura.com/

指揮:沼尻竜典

神奈川フィル音楽監督、トウキョウ・ミタカ・フィル音楽監督。1990年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。国内外で数々のポストを歴任。ドイツではリューベック歌劇場音楽総監督を務め、オペラ公演、リューベック・フィルとのコンサートの双方において多くの名演を残した。ケルン、ミュンヘン、ベルリン、バーゼル、シドニーなどの歌劇場にも客演。16年間にわたって芸術監督を務めたびわ湖ホールでは、ワーグナーの主要オペラ10作品をすべて指揮した。2014年にはオペラ『竹取物語』を作曲・初演、国内外で再演されている。2017年紫綬褒章受章。

コンサートマスター:水谷 晃

大分市生まれ。桐朋学園大学を首席で卒業。ヴァイオリンを小林健次、室内楽を原田幸一郎、毛利伯郎、東京クヮルテットに師事。在学中にウェールズ弦楽四重奏団を結成し、第57回ミュンヘン国際音楽コンクール第3位入賞。群馬交響楽団、東京交響楽団のコンサートマスターを経て、現在、東京都交響楽団コンサートマスターとオーケストラ・アンサンブル金沢客員コンサートマスターを兼任。ゆふいん音楽祭音楽監督を務めるほか、室内楽奏者として木曽音楽祭を含む各地の音楽祭にも出演。母校・桐朋学園大学講師として後進の育成にも取り組んでいる。

ピアノ:石井楓子

2022年第17回グリーグ国際ピアノコンクール(ベルゲン)優勝。また2019年第2回ブラームス国際ピアノコンクール(デトモルト)第1位。第82回日本音楽コンクールピアノ部門第1位。桐朋学園大学卒業。その後ケルン音楽大学、バーゼル音楽院で学び、クラウディオ・マルティネス=メーナー氏に師事。修士課程・演奏家課程を最高点で卒業。これまでにバーゼル交響楽団、ベルゲン交響楽団、またNHK交響楽団をはじめとする国内主要オーケストラと共演、ウィーン楽友協会ブラームスホール、グリーグホール(ノルウェー)などで演奏を行う。ベートーヴェン、ブラームス、グリーグを演奏活動の軸としている。現在、桐朋学園大学非常勤講師。

チェロ:上村文乃

桐朋学園大学ソリストディプロマコース卒業後、ハンブルグ音楽演劇大学とバーゼル音楽院に留学。日本音楽コンクール第2位、トレヴィーゾ市国際音楽コンクール第1位、インディアナポリス国際バロックコンクール優勝など入賞歴多数。リサイタルのほかオーケストラ共演や室内楽の演奏も高く評価されている。国内外の多くの音楽祭への参加やピリオド楽器を用いた歴史的演奏法にも取り組み、バッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーとしても活躍中。2022年ホテルオークラ音楽賞、2024年第22回齋藤秀雄メモリアル基金賞を受賞。

トランペット:児玉隼人

2009年北海道釧路市生まれ。24年日本管打楽器コンクールトランペット部門において、全部門での史上最年少で第1位、あわせて特別大賞・内閣総理大臣賞を受賞。25年ウィーン国際音楽コンクール金賞、コダーイ国際音楽コンクール第5位を受賞するなど、数々のコンクールで入賞している。これまでに、NHK交響楽団、読売日本交響楽団など、国内の主要オーケストラと共演。「クラシック音楽館」「題名のない音楽会」「EIGHT-JAM」など、多くのテレビ番組に出演している。24~25年度ヤマハ音楽支援制度奨学生。第7回服部真二音楽賞Rising Starを受賞。25年2月に1stアルバム『Reverberate』をリリース。現在、カールスルーエ音楽大学のプレカレッジにて、ラインホルト・フリードリヒに師事。

https://hayatokodama.com/

エレクトロニクス:有馬純寿

エレクトロニクスやコンピュータを用いた音響表現を中心に、現代音楽、即興演奏などジャンルを横断する活動を展開、数多くの演奏会で電子音響の演奏や音響技術を手がけ高い評価を得ている。2012年に国内外の現代音楽シーンで活躍する演奏家たちと現代音楽アンサンブル「東京現音計画」を結成、これまでに20回を超える演奏会を行ってきた。第63回芸術選奨文部科学大臣新人賞芸術振興部門受賞のほか、サントリー芸術財団佐治敬三賞をこれまで複数回受賞。国内外の実験的音楽家や即興演奏家とのセッションや、美術家とのコラボレーションも多い。現在、東京音楽大学准教授。

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