サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 20192019年6月1日(土)~6月16日(日) 会場 ブルーローズ(小ホール)

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室内楽とベートーヴェン
~3つのベートーヴェン全曲演奏会に寄せて

今年の「チェンバーミュージック・ガーデン」では、チェロ・ソナタ、弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏曲という3つの重要なジャンルにおける全曲演奏会がおこなわれる。
極言するならば、作品番号のついているベートーヴェンの楽曲で、傾聴に値しないものなど、1曲たりとも存在しない。日頃はなかなか演奏されない作品であっても、有名な曲とくらべて全く引けをとらない、素晴らしい作品がたくさんあるのだ。
ベートーヴェンにとって、交響曲や協奏曲が「パブリック」な性格を持つ作品群であるならば、室内楽はより「プライヴェート」な性格を持つ作品群と言える。そこに込められている内面的な世界は、ベートーヴェン最良の部分に他ならない。
ベートーヴェンは自然と静寂を愛する男であった。苦難に負けずに運命と闘ってこれを克服したというストーリーばかりが何かと誇張されるきらいがあるが、室内楽におけるベートーヴェンでは、作曲家自身が人生最大の宝であると考えていた、心の平和にたくさん出会うことができる。そればかりではない。悲しみに満ちた祈りや瞑想、霧の中をさまようような神秘性など、ベートーヴェンの静かな音楽は、室内楽にこそ醍醐味がある。
ベートーヴェンは、いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていたわけではない。気分屋ではあるけれど、明るく社交的で、機転の利いた冗談も言うし、上流階級の美しい女性たちにも、大変よくモテた。そういった人間臭いベートーヴェンにも、室内楽ではたくさん出会うことができる。
中期や晩年の人気作ばかりでなく、ベートーヴェンの青年期の音楽にも大いに注目したい。たとえば、作品番号1とされている、ピアノ三重奏曲第1番から第3番までの3曲セットの充実ぶり。第1番第1楽章のエネルギッシュな冒頭からして、モーツァルト亡き後のウィーンに登場した、ただならぬ実力者ベートーヴェンの個性のはっきりと刻印された、意欲作であることが伝わってくる。
ベートーヴェンが、生まれ故郷のボンからウィーンに出てきたのは1792年、22歳のときである。それまでの青少年期に人間としてのベートーヴェンの基盤はすでにできあがっていた。ボンでは、フランス革命以前からすでに啓蒙主義思想――中世的な権威や制度を打破し、国家の枠を越えた新しい秩序、自由、平等を求める考え方――が知識層に受け入れられており、ベートーヴェンもその影響から出発している。当時友人に宛てた手紙などを読むと、まだ20代前半だったベートーヴェンが、死について思いをめぐらし、人間の権利や尊厳について真摯に考え、100年後の社会がどうなるか、といったことまで想像していたことがうかがえるのである。
そんなエピソードを知れば、若きベートーヴェンの作品もまた違った感じ方ができるのではないだろうか。

今回の演奏家たちについても少し触れておきたい。チェロの堤剛とピアノの萩原麻未のデュオで興味深いのは、世代を越えて共に音楽することの大切さである。同じ世代どうしで仲良くする楽しさは、室内楽のみならず、どんなビジネスの世界でもあることだが、そればかりだと閉じたものになってしまいがちである。異なる世代が、さまざまな違いを克服し、お互いに学び、コミュニケーションをとっていくことは、継承と発展という意味でも、美しい行為とさえ言える。
アトリウム弦楽四重奏団は、2000年にサンクトペテルブルクで結成されたロシアの団体で、バッハから現代作品まで、弦楽四重奏の全歴史と地理をカバーせんとするほどの、広大なレパートリーを持っている。彼らの活動で注目されるのが、ショスタコーヴィチ全曲を完全に手中に収めていることで、その演奏は鋭敏さと彫りの深さに特徴がある。いわば現代派の彼らがどんな解釈の踏み込みをベートーヴェンに見せるかが楽しみである。
2018年のミュンヘン国際音楽コンクールピアノ三重奏部門で優勝した葵トリオは、実際に筆者も彼らに会ってみて演奏も聴いてみて、聞きしに勝る凄腕だと思った。いったん楽器を置けば、関西弁のノリで気さくに語り合える彼らだが、いざアンサンブルを組んだときの強靭な集中力、たとえばスケルツォ楽章でのスピード感やリズムの切れ味などは、途方もない可能性を感じさせる。今後10年、20年、いや50年と、室内楽の未来を担うトリオである。

  • 堤剛&萩原麻未

    堤剛&萩原麻未

  • アトリウム弦楽四重奏団

    アトリウム弦楽四重奏団

  • ©Nikolaj Lund Photography

    葵トリオ

    ©Nikolaj Lund Photography

*各公演情報は下記よりご覧いただけます。チケット購入も可能です(予定枚数終了の場合がございます。ご了承ください)

オープニング 堤 剛プロデュース 2020―ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全曲演奏会
6月6日(土) 17:00開演

アトリウム弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル
Ⅰ 6月7日(日) 13:00開演 
Ⅱ 6月7日(日) 19:00開演 
Ⅲ 6月9日(火) 19:00開演 
Ⅳ 6月11日(木) 19:00開演 
Ⅴ 6月13日(土) 19:00開演
Ⅵ 6月15日(月) 19:00開演

葵トリオのベートーヴェン―ピアノ三重奏曲全曲演奏会
Ⅰ 6月10日(水) 19:00開演 
Ⅱ 6月14日(日) 14:00開演 
Ⅲ 6月18日(木) 19:00開演



更新情報

6月1日
サントリーホール CMG オンライン<チェンバーミュージック・ガーデン有料ライブ配信> 開催
5月14日
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2020 開催中止のお知らせ
4月30日
【動画】アトリウム弦楽四重奏団(演奏とメッセージ)
4月30日
【聴きどころ・曲目解説】[年表] ベートーヴェンとその時代
3月31日
【トピックス】インタビュー:佐藤晴真(チェロ)、工藤重典(フルート)大萩康司(ギター)、渡辺玲子(ヴァイオリン)、依田真宣(ヴァイオリン)
3月31日
【動画】工藤重典(フルート)大萩康司(ギター)、渡辺玲子(ヴァイオリン)
2月28日
【トピックス】インタビュー:葵トリオ(ピアノ三重奏)、ソヌ・イェゴン(ピアノ)、辻 彩奈(ヴァイオリン)横坂 源(チェロ)、川口成彦(ピアノ)
2月28日
【トピックス】室内楽とベートーヴェン~3つのベートーヴェン全曲演奏会に寄せて
2月28日
【動画】葵トリオ(ピアノ三重奏)、辻 彩奈(ヴァイオリン)横坂 源(チェロ)、依⽥真宣(ヴァイオリン)、堤剛プロデュース2018(演奏:堤剛&荻原麻美)
2月28日
【聴きどころ・曲目解説】プログラム・ノートを公開(公演当日配布のプログラムより)
1月31日
【トピックス】インタビュー:アトリウム弦楽四重奏団、毛利文香(ヴァイオリン)、室内楽アカデミー
1月31日
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【トピックス】NAXOSプログラム無料試聴コーナー~CMG2020で演奏するベートーヴェン全33曲
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【トピックス】特別プレゼント「CMG フィナーレ 2020」リハーサル体験
1月31日
【動画】川口成彦(フォルテピアノ)、毛利文香(ヴァイオリン)、CMG2019公演動画
1月31日
「チェンバーミュージック・ガーデン2020」特集ページ公開。今後、6月の公演開催に向けて情報を追加していきます。