ディスカバリーナイト Ⅰ・Ⅱ
辻 彩奈(ヴァイオリン) 横坂 源(チェロ) インタビュー
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辻彩奈&横坂源
「ディスカバリーナイト」は、クラシックの名曲と秘蔵の作品を織り交ぜたプログラムをお届けするコンサート。ライブならではのトークを交えて、平日の19:30から開催します。
6月12日に出演するヴァイオリンの辻彩奈さん、6月12日と17日に演奏するチェロの横坂源さんにお話を伺いました。
すでに共演を重ねている辻さんと横坂さん、「ディスカバリーナイト」での息のあった演奏とトークが楽しみです。
*「ディスカバリーナイト」公演情報は下記よりご覧いただけます。チケット購入も可能です。
Ⅰ 6月12日(金)19:30開演
Ⅱ 6月17日(水)19:30開演
【辻 彩奈 横坂 源 インタビュー】
高坂はる香(音楽ライター)
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辻彩奈
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工藤重典
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田原綾子
―室内楽を演奏する喜びは、どんなときに感じますか?
横坂:アンサンブルの人数が増えていくと、その分アイデアや感じ方が増えて、パッと視界が開けることがあります。そこから学び、発展させて、見えなかった景色を作っていけるところが室内楽のおもしろさ。だからこそ、常にいろいろな方と共演したいと思っています。
辻: 私は室内楽の経験がまだ多くありませんが、本番でしか出せない音楽を共演者と共有できる瞬間が楽しいです。何も話し合わずにまずはリハーサルで音出ししてみて、事前の想像とは全く違う音楽が出た瞬間は、 わぁ!っという気持ちになりますね。一人の練習中に考えていたことも、いい意味でくつがえります。
横坂:ここが変わるから、ここも変えて…としていうくちに、音楽が予想と違うところに行き着くんですよね。それには、相手の前でオープンに自分を出すことが大切です。ラグビーのワンチームのように、お互いを信頼し役割をまっとうすることで、良い絵が浮かんでくる。その瞬間は、感動的です。
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辻彩奈
―お二人の初共演は、2017年「題名のない音楽会」収録の時だそうですね。初対面の印象は?
辻: 私は室内楽というと、それまでは伊藤恵先生や堤剛先生などの第一人者とご一緒して教わる形が多かったので、少し年上の音楽家と共演するのは、あの収録が初めてでした。横坂さんは、言いたいことを言っても柔らかく受け入れてくださるし、音楽的にも低音で支えてくれます。頼れるお兄さんという印象です!
横坂:僕より少し若い世代の演奏家って、我々とは少し違うエネルギーを持っているように感じるんですよね。物怖じせず、こうしたいということをポンと出すことができる。彩奈さんもまさにそういうヴァイオリニストで、初共演のときから音楽に強さを感じました。
―「ディスカバリーナイト」では多様な編成の室内楽作品が演奏されます。モーツァルトのフルート四重奏曲第1番では、ヴィオラの田原綾子さん、そしてフルートの工藤重典さんというベテランと共演されます。
横坂:昨年の夏、初めてこのメンバーで演奏しましたが、工藤さんは本当にすばらしい芸術家で、フルートとはこういう音や息遣いで流れを作るのかと、それはもう度肝を抜かれました。楽しくて一瞬の出来事だったので、また共演のチャンスをいただけて嬉しいです。
辻: 私にとっては、室内楽で管楽器と共演することは初めての経験でした。工藤先生が音楽をリードしながら世界を作ってくださるので、そこに身を任せている時間は、本当に幸せでした。
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工藤重典
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田原綾子
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大萩康司
―トゥリーナのピアノ四重奏曲やシューマン「献呈」は、大萩康司(ギター)さんとの共演で、珍しいギター編曲版が取り上げられます。
辻: ギターとの共演も初めてです。同じ弦楽器同士ですが、未知の世界なのでたくさん勉強したいと思っています。
横坂:シューマンの作品について、チェロとギターの編曲版の提案をいただいたときは驚きました。テンポ感など原曲とは大きく変わるでしょうし、どんな演奏になるのか楽しみです。
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大萩康司
―現代作品からは、辻さんが「ディスカバリーナイトI」で権代敦彦 「Post Festum」全曲を世界初演されます。
辻: これは、私が権代さんに委嘱した作品です。コンチェルトの公演のとき、ソロのためのアンコールピースが欲しいと思ったことがきっかけでしたが、権代さんはいろいろなアイデアが浮かんできたからと、最終的に3曲からなる組曲を書いてくださいました。タイトルは「Post Festum」-宴のあとに、という意味です。
先日、権代さんのお話を伺ったことで、作曲家はこういうことを考えているのかとわかり興味深かったです。終曲の中だけでも3回くらい「この世の終わりだと思って弾いてください」と言われました。静寂の中、消え入りそうな一筋の光が遠くに見えるイメージで、その緊張感には怖さすら感じます。超絶技巧を要する作品ですが、権代さんは「弾けることしか書いていない!」とおっしゃるので(笑)、正確に弾かなくてはなりません。初演には、作品を世に送り出す責任がありますから、作曲家が何を思っていたのか、正確に伝えたいです。
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横坂源
―横坂さんは「ディスカバリーナイトⅡ」にも出演し、藤倉大さんの「Hop」を日本初演されます。
横坂:初めて藤倉さんにお会いしたのは、20歳くらいの頃、ルツェルン・フェスティバルでのことです。若い音楽家が集まり、ブーレーズ指揮のもと藤倉さんの作品を演奏したのですが、拍子がどんどん変わる難しい曲で…指揮者に怒られ、泣きそうになりながら毎日練習したことをよく覚えています(笑)。あのとき、僕は現代曲の洗礼を受けたんですよね。
そして昨年は「ホルン協奏曲」(室内オーケストラ版)を演奏しました。この曲はルツェルンのときと印象が違う、ユーモアにあふれた作品でした。今度取り上げる「Hop」は、実際演奏したらどうなるか…事前にあまり多くを語らない方がいいと思いますが、とにかくおもしろいものになりそうです!
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横坂源
―現代作品を聴くにあたって、どこに着目するとよりおもしろくなるでしょうか?
辻: 現代作品では、ヴァイオリンからこんな音も出るのかと演奏者自身も驚き、発見することがあるので、それを一緒に体験していただけたら楽しいと思います。私自身は初演を聴きに行くというと、それだけでウキウキしてしまいます。作品にとって大切な瞬間ですから。
横坂:一般的なクラシックのレパートリーが書かれた数世紀前と現代では、街の雰囲気や人の感じ方も違います。だからこそ古い作品にも価値がありますが、逆に現代曲では、今、私たちが体験している現象がテーマということもありますから、親近感が湧くかもしれません。初めての曲でも、十分に楽しめるのではないでしょうか。
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吉田誠
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福間洸太朗
―クラリネットの吉田誠さん、ピアノの福間洸太朗さんと共演するプログラムの聴きどころは?
横坂:前述の「Hop」に加えて楽しみなのは、ヴィトマン「夜の小品」です。昔ドイツのコンクールで演奏し、すばらしい作品だと思っていたので、今回、誠くんがこの曲を提案してくれて嬉しかったです。真夜中の森の静けさ、そこに響く動物の鳴き声のようなものが感じられる、不思議な雰囲気を持つ作品です。
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吉田誠
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福間洸太朗
―サントリーホールにはどんな印象をお持ちですか?
辻: やはり、憧れの場所です。舞台に立った時の喜びは、初めてのときから、何度繰り返しても色褪せません。
横坂:ホールにはいろいろな方が演奏した足跡のようなものが残っていて、それを感じることで、緊張するし、ワクワクするのでしょうね。僕は高校 1 年生になる直前、桐朋学園音楽部門創立 50 周年記念演奏会で、小澤征爾さんとハイドンのチェロ協奏曲を演奏したことがあります。そして大ホールもすばらしいですが、ブルーローズ(小ホール)にも違った魅力があります。お客様との距離が近いからこそ、内に向かって書かれた作品に適しています。音を浴びるというより、集中して中に入っていくように聴くことが合いますね。
―最後に、お客様にメッセージをお願いします。
辻: 「チェンバーミュージック・ガーデン」というと、私にとっては師匠である原田幸一郎先生のご自宅に置いてあったチラシのイメージが強く、そこにはいつも、巨匠から旬の若い方まですばらしい演奏家の写真が並んでいました。今、そこに自分が出られることをとても光栄に思っています。初めて取り組む曲もあり、作品の年代も幅広いので、お客様にも多くの新しい体験をしていただけるのではないかと思います。
横坂:まず個人的には、これだけ自由度の高いプログラムを組ませていただけることに感謝しています。こうした作品に演奏者側が夢中になり、情熱的な音楽をすることで、結果的にみなさんにおもしろかったと思っていただけるコンサートにしたいですね。