サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 20192019年6月1日(土)~6月16日(日) 会場 ブルーローズ(小ホール)

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プレシャス 1 pm Vol. 3 エラールの午后

川口成彦(フォルテピアノ奏者)とエラール

林田直樹(音楽ジャーナリスト/評論家)

  • サントリーホールのエラールサントリーホールのエラール

エラールのピアノの魅力、それはロマン派の精神と不可分の関係にある、ということではないだろうか。
王侯貴族の宮廷を象徴する楽器がチェンバロだとすれば、革命後の市民社会を象徴する楽器がピアノである。19世紀はさまざまな楽器製作者が新型のピアノを開発し、その多様性とともにピアノ音楽も色とりどりの花を咲かせたが、そうしたなかで、エラール製のピアノは、超絶技巧の演奏を生み出しうる可能性を持った楽器として大きな役割を果たした。その響きは、ピアノがオーケストラに匹敵する表現力を持つようになった時代ならではの色彩感の豊かさ、厚みと広がりを持っていた。
現代のモダンピアノは完成度の高さやスケールの大きさにおいて比類ない、安定した工業製品であるが、当時のピアノ(現代との比較において、フォルテピアノと総称される)は、ひとつひとつが異なる魂を持った、不安定な手工芸品であった。その独特の響きは、モダンピアノに慣れた耳には最初は違和感があるかもしれないが、いったん虜になったら最後、ロマン派音楽への美意識が根底から変わるほどの魅力を持っている。
世界各地に残されているエラールのなかでも、サントリーホールが所有する1867年製は、最も華麗で美しく保存状態の良い名器のひとつである。今回は、2018年にショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位を受賞し、フォルテピアノ演奏シーンの今後を担う期待のピアニスト川口成彦に、試弾を終えた直後に話をうかがった。

*6月16日(火)「プレシャス 1 pm Vol. 3 エラールの午后」 公演情報・チケット購入はこちら

  • 川口成彦©Fumitaka Saito川口成彦

一般的に言って、フォルテピアノの強みはどこにあると思いますか。

時代によっても傾向が違うので言いにくいんですが、古典派のピアノだったら、今のピアノよりもハンマーが弦を打つ打点が明確で、感じやすいんです。音の子音がクリア。それは演奏のスタイルにも結び付くと思うんですけど、歌うというよりは、いかにスピーキングするかという発想に頭が行きやすくなって、それで古典派の音楽が僕自身もすごく楽しくなった。
フォルテピアノは、本来ピアノは弦楽器だということが音色にも出ています。より人間的で、一つ一つに個々の魅力があって。当時にタイムスリップした感覚で、その楽器の魅力と向き合うことで、お客様も楽しんでいただけるのではないでしょうか。いわばタイムマシンのような楽器だと思うんです。

これまで随分いろいろなフォルテピアノと接してこられたのではないですか?

ええ、出来る限りいろんな楽器に触れようとはしています。今アムステルダムに住んでいるのですが、特にオリジナル楽器に触れられる機会があれば、そこに行って練習しようと思います。これまでは接したのは、練習も含めると、まだ50~60台くらいですが…

そうして、いろんな楽器と対話していく中でつかんだことは?

まずはテクニックの面では、指のコントロールが命だなあと。腕や肩ではなくて、この指だけで、どれくらいの音を出せるか。あまりにも楽器ごとにデリケートですし、音色もそれぞれ違うので、自分がどれだけイマジネーションを楽器から引き出せるか。

モダンピアノは均質性、なめらかさに意識が行きがちですが、フォルテピアノだとあえていびつにしたりするじゃないですか?

同じ音符が並んでいても、不均等に弾くことへの美意識があるということを、フォルテピアノを通して初めて知ったときには、びっくりしました。音楽の原理には、ダイナミクスとか音色だけじゃなくて、時間というのがあるんだなと痛感しました。時間をあやつることによって、雄弁になると言うか…。たとえばスラーで書かれたフレーズが、ただレガートじゃなくて、一つのセンテンスに聴こえたり、レトリカルになったり、情報量が増えていく。

よく音楽は歌だと言われますが、言葉という意識もフォルテピアノの中にはあると…。

あらゆるフォルテピアノに関係している人は、そう感じていると思います。歌うのは母音だけでもできるものを、フォルテピアノにこだわったときは子音、言葉がいっぱい手に入るじゃないですか。シンプルな曲でもたくさんの情報を持つことができる。その情報の中に、たとえばモーツァルトが描きたかったものが含まれていると思う。それが不均等の美と結びついているものなのかなと。

  • 川口成彦

今回、サントリーホールのエラールと対話してみていかがでしたか?特徴は?

いろいろ弾いてみたんですが、以前一度弾いたときよりも、修復後ということもあるのでしょう、高音部のきらびやかさが増し、低音部の重厚さも良くなりました。中音部は滑らかでやわらかな感じ。ぬくもりがあって、これもすごく良いですね。音からいろいろなイメージがもらえそうです。リストだけじゃなくてショパンも合うなあと思いますね。
ショパンって、ピアノでポルタメントしろと言っていますけど、そのポルタメントの雰囲気が出しやすくなった。スピーキングの話をしましたが、歌唱的な雰囲気がピアノ音楽にはもちろん必要で、人間の声でできることが、このピアノでもできるような感じがします。

同じく当時のフランスを代表するプレイエルと比べると、エラールの特徴は?

よく言われるのは、エラール社がダブルエスケープメントを発明し、正式に特許として取ったということですね。ダブルになると同音連打ができて、ヴィルトゥオーゾな世界が生み出される。プレイエルはショパンとの関係の強い楽器ですが、エラールの方がいろんな作曲家にフレキシブルに対応できると思います。サントリーホールのエラールは1867年製ですが、まだ19世紀前半の楽器の良さも残されていると思いました。ですからベートーヴェンを弾いてみても面白いんじゃないでしょうか。

フォルテピアノで20世紀音楽を弾くことについては?

すごくありだと思います。今回はグラナドスも弾きますし、実はスペイン音楽の新古典主義的なもの、ロドリーゴとかも好きなんです。新古典主義的なレパートリーをフォルテピアノでやると、パラレルワールド的な発想になるんです。もしピアノが変化しなかったまま20世紀までたどり着いた地球が他に存在したら、こういう響きだったのかと。

  • 林田直樹と川口成彦林田直樹と川口成彦

そう考えると、プロコフィエフやヒンデミットも合いそうですね。

合うと思いますね。そういえば、ひとつ面白いエピソードがあって、マーラーが貧乏なときに所有していた中古ピアノが、1820年代のグラーフなんですって。シューベルトの時代のピアノ。だから、20世紀の音楽だからといって、これを使うべきだというわけでもなさそうだなと思うんです。

今回は新倉さん、原田さんと演奏されますが、ヴァイオリンやチェロもガット弦?

弦楽器奏者の方々もガット弦を張り、エラールのピアノに合った当時のスタイルで演奏されます。古い楽器って木じゃないですか。ピアノって木だったんだと、フォルテピアノの音色を通していつも感じています。ヴァイオリンもチェロも木で、木の要素が調和し、音色が溶け合う、親密になるのを楽しんでいただければと思います。



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