館長メッセージ

9年目を迎えるチェンバーミュージック・ガーデン

チェンバーミュージック・ガーデンは今年で9回目となります。いわゆる室内楽には様々なスタイルがあります。中心になるのは弦楽四重奏であったり、ピアノ・トリオであったりすると思いますが、それ以外にも管楽器の入った編成など、色とりどりです。そうした室内楽がまるで花のように咲き乱れるイメージで、フェスティバルではなく、この「ガーデン(庭)」という名前を付けました。室内楽というとどうしても地味な印象があったりしますが、このチェンバーミュージック・ガーデンが始まってからは、室内楽の面白さ、楽しさ、奥深さを味わって頂けるようになった。そういう点で一定の役割は果たすことが出来たのではないかと思っています。客席を見ても、毎年いらして下さるお客様も多くなり、その反応にも盛り上がりが出て来て、欧米とそう変わらないところまで来たのかなとも思っています。ブルーローズ(小ホール)という空間で、客席がステージを取り囲むように配置したのも、演奏者と客席の一体感を高める上で効果的でした。
「ベートーヴェン・サイクル」というベートーヴェンの弦楽四重奏曲を全曲演奏するコンサートも2017年を除いて毎回行っていますが、全16曲を一度に聴けるということ、そしてそれが毎年違った団体によって、違ったスタイル、アプローチで演奏されることによって、ベートーヴェンの室内楽と言ってもこんなに幅が広いのだということをお客様に知って頂けたのも、このガーデンの成果のひとつと言って良いと思います。

2019年の聴きどころ

今年の「ベートーヴェン・サイクル」は、主にヨーロッパで活躍するドイツのクス・クァルテットがベートーヴェンの全16曲を作曲年代順に演奏します。とくに作品18の6曲を1日で全部演奏するというのは大変なことですが、お客様にとっては、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の書き方、その発展の仕方、広がりなどがよく分かるようになるのではないかなと思います。そして全5回の最後には、現代の作曲家であるマントヴァーニがベートーヴェンの弦楽四重奏曲をモチーフにした「ベートヴェニアーナ」が世界初演されます。これは現代作品の演奏にも力を入れるクス・クァルテットの意欲溢れる挑戦で、ベートーヴェン・サイクルでは初めての試みとなります。

  • 堤剛(右)と築地杏里(左)

オープニングの「堤剛プロデュース」の今年のテーマは「アンサンブル」です。私がディレクターをつとめる「室内楽アカデミー」は昨年9月から第5期がスタートしましたが、そのフェロー(受講生)のレベルがとても高く、こういう人たちがチャイコフスキーの「弦楽セレナード」のようなアンサンブルを演奏したらどうなるのだろうという関心もあって、このプログラミングにしました。ヴィヴァルディの「2つのチェロのための協奏曲」ではフェローの築地杏里さんにもソロを演奏して頂き、ハイドンの「チェロ協奏曲第1番」では私が弾き振りをします。
平日午後の60分のコンサート「プレシャス1pm」でも新しい才能が登場します。日本音楽コンクールで第1位を獲得し、日本に在住しているハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンさんには、渡辺玲子さんたちとクラリネットの室内楽の魅力を紹介して頂きます。すでにソロ奏者としても活躍しているヴァイオリンの服部百音さんですが、実は素晴らしい室内楽奏者でもあります。彼女が大好きだと語っているショスタコーヴィチの「ピアノ三重奏曲第2番」では、ソリストとしての服部さんとは違う顔が見られるのではないでしょうか。

サントリーホールでは、ここでしか出来ないことをやるというモットーがあるのですが、その点で、開演時間を19時半とちょっと遅らせた「ディスカバリーナイト」にも、ぜひご注目頂きたいと思います。また、結成15周年を迎えるヨーロッパの俊英が集まったアンサンブル・ラロは、常設のグループとしてはとても珍しくピアノ四重奏をずっとやって来られました。その演奏も楽しみです。こうした様々なプログラミングが出来るというのも、ずっとチェンバーミュージック・ガーデンを続けて来た成果のひとつでしょう。

室内楽アカデミーの意義

室内楽アカデミーは、第5期を迎えた今期は弦楽四重奏の団体としての参加が多く、しかもそれぞれの団体がすでに経験を持ち、全体としてレベルが非常に高くなっていると思います。それはチェンバーミュージック・ガーデンの中の「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」でもお聴き頂けると思います。そしてファカルティ(講師)も素晴らしいメンバーが揃っています。原田幸一郎、池田菊衛、磯村和英の各氏は東京クヮルテットの元メンバー、それに加え毛利伯郎さん、練木繁夫さん。全員が現役の演奏家でもあり、フィナーレでもフェローと一緒に演奏してくださる。実際に、室内楽は客観的にサジェスチョンを受けるだけでなく、教える側と教わる側が一緒に演奏することで大きく成長するものです。室内楽アカデミーの中でもファカルティが演奏することで、ハッと気が付くことがたくさんあります。一緒に演奏すると、一緒に呼吸する、そうすることで気付くことが多くなります。だからこそ、一緒に演奏する機会を設けることも大事な要素となります。室内楽アカデミーのファカルティとフェローが一緒に室内楽を作り上げること。それが経験を伝えて行くことにもつながります。私が「堤剛プロデュース」のアンサンブルで期待するのも、一緒に演奏することで、何かフェローの中に残せないだろうかということです。
今年もたくさんの花が咲くチェンバーミュージック・ガーデンにぜひお越しください。

(インタビュー・構成:片桐卓也/音楽ライター)

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