プレシャス 1pm Vol. 3 親密な至極のデュオ

プログラム・ノート

上田泰史


ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタ ニ短調 作品40

 ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~75)といえば交響曲作曲家のイメージが強いが、卓越したピアニストでもあり、演奏・作曲の両面で室内楽にも早くから身を投じている。本作は、1934年にショスタコーヴィチが書いた最初の大規模な室内楽で、それまで見せた前衛的作風への傾斜から、堅実な古典的様式へと転じている。友人のチェリストのヴィクトル・クバツキー (1891~1970)に捧げられ、同年のクリスマスに初演された。この年、ショスタコーヴィチは妻との関係が悪化、結婚生活が破綻する(のちに修復)。原因は、20歳の女性との恋であった。
 第1楽章:幸福感あふれる息の長い主題を基調とするが、展開部でシューベルト風の長短リズムに乗せて険しい運命の扉が開かれる。第2楽章:土俗的な舞踏。途中、チェロのフラジオレットとピアノの高音域でメルヘンチックな響きが挿入される。第3楽章:陰翳と憂愁に満ちた旋律の合間に悩ましい半音階的和声が現れる。第4楽章:民謡風の主題に続いて熱狂的なタランテラが登場、ピアノが華々しく活躍する一幕もあり、聴きどころ満載である。


プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 作品119

 セルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)は、晩年の1949年に、生涯唯一のチェロ・ソナタを作曲している。当時、彼はスターリン政権下のソヴィエトで厳しい状況に置かれていた。前年、共産党当局による芸術作品の検閲が強化され、彼の作品も上演制限の対象となった。加えて、妻がスパイ容疑で逮捕されるという極度の精神的重圧にも晒された。苦境の中、彼の創意に火をつけたのは、名チェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927~2007)との出会いである。二人は相互の敬意で結ばれ、作曲家はこの名手のために数作を手掛けている。公開初演は、スヴャトスラフ・リヒテル(1915~97)とロストロポーヴィチにより1950年3月1日、モスクワ音楽院で行われた。
 第1楽章:穏やかで息の長い旋律が支配的なソナタ楽章。途中、バロック的諧謔、英雄的威容、波瀾が交代し、祈祷的静寂に閉じられる。第2楽章:複合三部形式。素早い運弓が生み出す軽快さと歌唱的旋律が、鮮やかな対照を生む。第3楽章:祝祭的な雰囲気を基調として展開されるが、静けさに充ちた緩徐部分が挟まり、堂々と聳(そび)えるコーダがソナタ全体を支える。

(うえだ やすし・音楽学)


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