カザルス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル
IV『変奏楽章に魅せられて』

プログラム・ノート

柴田克彦


第5番 イ長調 作品18-5

 作品18(初期の全6曲)の中でも、古典的な形式美が前面に出された作品。しかしながら力強さや緊迫感も随所にみられ、後半楽章に重心が置かれている点も特徴をなす。また内容自体は、同じイ長調のモーツァルトのK. 464(弦楽四重奏曲第18番)との類似性も指摘されている。第1楽章は典雅な曲調。第2楽章はこの時期のベートーヴェンには珍しい典型的なメヌエットで、第3楽章は彼の弦楽四重奏曲では初の変奏曲(主題と5つの変奏)。第4楽章では「運命動機」風のリズムを元に4楽器対等の鮮やかな展開がなされる。


第10番 変ホ長調 作品74「ハープ」

 「ラズモフスキー四重奏曲」の3年後、「運命」「田園」両交響曲初演の翌年にあたる1809年の作。作曲の正確な動機は不明だが、作品18と同じくロプコヴィッツ侯爵に献呈されている。「ハープ」は、第1楽章に登場するピッツィカートがハープの響きを連想させることに拠る愛称。その名が物語る流暢さや柔らかみが、本作の特徴ともなっている。第1楽章は荘重な序奏と晴朗な主部で構成され、前記のピッツィカートが随所に登場する。第2楽章は4つの楽器が緻密に綾なす後期風の音楽。「運命動機」を用いた実質的なスケルツォの第3楽章はトリオが2回現れる。切れ目なく続く第4楽章はなごやかな主題と、強弱が対比された6つの変奏。これは16曲中、終楽章に変奏曲が置かれた唯一の例となっている。


第12番 変ホ長調 作品127

 後期5曲の第1作。1822年春、久々に弦楽四重奏曲の創作を企図したベートーヴェンは、同年末に折良くロシアの貴族ガリツィン侯爵から「1~3曲の新たな弦楽四重奏曲」を依頼された。しかし『ミサ・ソレムニス』「第九」交響曲の創作や初演に追われ、1824年になって本格的に着手。1825年に完成され、この後に第15番、13番が続くことになる。本作は形こそ通常の4楽章構成だが、内容は内省的かつ幻想的な後期の世界。全体に柔らかみと対位法的な書法が際立っている。第1楽章は重厚な序奏が主部に2度登場する点がユニーク。第2楽章は自由な変奏曲で、「第九」の緩徐楽章に似た天国的な叙情が支配する。第3楽章は躍動的なリズムとトリオの緻密さ、第4楽章は流動性が耳を奪う。

(しばた かつひこ・音楽評論)

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