カザルス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル
II『ポピュラーな音楽素材の変容』

プログラム・ノート

柴田克彦


第4番 ハ短調 作品18-4

 第1番~第6番(作品18)は、早期からの後援者ロプコヴィッツ侯爵の依頼で、1798年から1800年にかけて作曲されたとみられている。これらはハイドンやモーツァルトを模範としながらも、自身の個性と実験的な試みが随所に打ち出されている。

 第4番は、作品18の全6曲中唯一の短調作品で、ベートーヴェンのハ短調ならではの情感の深さや迫力と、第2楽章に緩徐楽章風のスケルツォ、第3楽章にスケルツォ風のメヌエットを置いた構成が特徴。第1楽章の哀感漂う美しさはとりわけ印象深く、第4楽章の短調主題を軸にした疾走感も魅力十分だ。


第9番 ハ長調 作品59-3「ラズモフスキー第3番」

 作品18から約5年を経た1805~06年に、ウィーン駐在のロシア大使ラズモフスキー伯爵の依頼で書かれたのが、3曲の「ラズモフスキー四重奏曲」。伯爵は名手シュパンツィヒ率いる四重奏団を抱え、自らも第2ヴァイオリンを担当していた。ベートーヴェンはこの3曲で独自の語法を確立。しかも中期特有の明快さを併せもつ名作に仕上げた。

 第9番は、ラズモフスキー第1番の壮大さと第2番の内向性を融合させたシンフォニックな音楽。第1楽章の序奏の和声は後期を予感させ、溌剌とした主部を引き立てる。第2楽章はリリカルな美感が横溢。第3楽章はメヌエットだが、叙情性とスケルツォ的な要素が含まれている。切れ目なく入る第4楽章はフーガの技法を駆使したエキサイティングな音楽で、技巧的なアンサンブルが聴きもの。


第14番 嬰ハ短調 作品131

 ガリツィン侯爵のための3曲(作曲順に第12、15、13番)の直後に、おそらく自発的に作曲され、1826年8月に完成された作品。第15番で5楽章、第13番で6楽章に拡大された構成は、本作で7楽章になり、しかも全体が切れ目なく続けられる。様々な形式を経ながら、思索的かつ自在に流動していく音楽は、まさに至高の世界だ。第1楽章は自由なフーガで瞑想的な趣をもつ。第2楽章は軽快にして清澄な音楽。序奏的な第3楽章に続く第4楽章は晴明な主題と精緻をきわめた6つの変奏曲で、全曲の核をなす。第5楽章は躍動的なスケルツォ。第6楽章は終曲への美しい序奏。第7楽章は唯一ソナタ形式で書かれた、情熱的で力強い終曲。

(しばた かつひこ・音楽評論)

閉じる