カザルス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル
Ⅰ『濃密と拡がりの極致』

プログラム・ノート

柴田克彦


第11番 へ短調 作品95「セリオーソ」

 1810~11年に作曲されたとみられる中期最後の弦楽四重奏曲。ハンガリー大使館の高官でチェロを弾く親友ズメスカルに捧げられ、草稿には彼への献呈と共に「セリオーソ」の名称が記されている(ただし出版の際に削除)。曲は重厚で緊張感が漂う、まさに「セリオーソ(厳粛、真面目)」な音楽。凝縮された構成がなされ、16曲の弦楽四重奏曲の中ではもっとも短い。第1楽章は冒頭から強いインパクトを与える厳しい音楽。第2楽章は抒情的で美しく、続けて演奏される第3楽章(ここにも「セリオーソ」の表示がある)はロマン派風の暗い情熱が漂う。第4楽章は劇的に進行し、意外にも明るく終結する。後期へ繋がる内省的な趣をもつ作品だが、ベートーヴェンはこの後しばらく弦楽四重奏曲から離れることになる。


第13番 変ロ長調 作品130「大フーガ付」

 第11番「セリオーソ」を完成後、約10年間このジャンルから遠ざかっていたベートーヴェンは、『ミサ・ソレムニス』「第九」交響曲の両大作を作曲中の1823年、ロシアの貴族ガリツィン侯爵から弦楽四重奏作曲の依頼を受けて創作を再開。これを機に後期の5曲(第12番~第16番)が誕生し、生涯最後の傑作群を形成することになる。

 第13番は、ガリツィン侯爵からの依頼で生まれた3曲(他は12番と15番。番号は出版順)中の最後の作として、「第九」初演の翌年=1825年に作曲された。構成は全6楽章の組曲風。抒情的な5つの楽章に巨大なフーガが続く形で完成されたものの、終楽章が晦渋だと批判されたベートーヴェンは、1826年に明快な楽章を書いて差し替え、元々の終楽章は『大フーガ』作品133として出版された。しかし最近は、本来の姿に戻すケースが多く、今回もその形で演奏される。第1楽章は荘重な序奏をもつ幻想曲風の音楽。第2楽章は間奏曲風の快速楽章でごく短い。第3楽章は「ややおどけて」と記された諧謔的な音楽。第4楽章は「ドイツ舞曲風に」と記された素朴なレントラー。第5楽章は作曲者自身も感嘆した美しいカヴァティーナで、この楽章はよく知られている。第6楽章は、序奏と5部分のフーガ、コーダで構成された「大フーガ」。精緻な構築と畳み込むような迫力で圧倒する。

(しばた かつひこ・音楽評論)

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