カザルス弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクルⅠ~Ⅳ

聴きどころ

片桐卓也


 ベートーヴェン(1770~1827)の第1番から第16番までを、あるいは作曲家自身の編曲によるピアノ・ソナタの弦楽四重奏版を加えた17曲をひとつのサイクルとして演奏するのは、もちろんどんなベテラン・クァルテットにとっても挑戦である。カザルス弦楽四重奏団(クァルテート・カザルス)は結成から20年を経過したが、まさにその円熟の時期に満を持してベートーヴェン・サイクルに挑戦する。

 ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の個性をヴィオラのジョナサン・ブラウンはこんな風に語る。「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に見られる『驚き』と『滑稽さ』の組み合わせ、この非常に人間らしい経験というものはベートーヴェンの作品ならでは、ではないでしょうか」と。彼らが今回、4日間で6回という濃密なサイクルの中で、どのような順番でベートーヴェンを演奏するのかは、彼らの現在の時点でのベートーヴェン解釈を知る上で、とても興味深いものだし、それぞれの回の持つ特色も意外性があって面白い。そこには、カザルス弦楽四重奏団の20年の解釈と演奏の熟成が深く関わっている。

 「弦楽四重奏団はまさにベートーヴェンが求めていた音楽を奏でるのに最適な楽器の組み合わせなのです」とブラウンは続ける。「これらの作品はいつでも私たちよりも偉大な存在であり、常に私たちの学びや体験を超えるものがあるのです。演奏するたびに違う仕上がりになりますし、その都度、奏でる音楽の中に、私たち自身の中に、また私たちの掛け合いの中にも新しい発見があります」と。さらに、「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は21世紀にあっても未だに、今の時代にふさわしい音楽なのだと思います」と彼は語る。

 それぞれの奏者が持っている個性、そして4人の一致した弦楽四重奏団としての個性。全曲演奏の中で、ベートーヴェンを生きるカザルス弦楽四重奏団の「今」が感じられるサイクルとなるだろう。

(かたぎり たくや・音楽ライター)

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