プレシャス 1pm Vol. 1 室内楽の達人(マスター)たち

プログラム・ノート

室田尚子


 このプログラムは、室内楽のエッセンスが凝縮されている。ドヴォルジャーク(1841~1904)の弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」は、1892年から2年ほど滞在したニューヨークで、黒人霊歌やネイティヴ・アメリカンの音楽に触れたことから生み出された作品。第1楽章は5音音階による民謡風のテーマが醸し出す、素朴で親しげな雰囲気が印象的だ。

 モーツァルト(1756~91)の通称「ハイドン・セット」と呼ばれる6曲の弦楽四重奏曲集は、ハイドンの「ロシア四重奏曲」に感動して生み出された。速筆で知られたモーツァルトにしては長い2年という歳月をかけ1785年に完成、ハイドンに捧げられた。弦楽四重奏曲第15番はこの「ハイドン・セット」の2曲目に当たる。全体的に悲しげな雰囲気が漂っているが、それは4楽章のうち実に3つの楽章がニ短調で書かれていることと無縁ではない。第3楽章のメヌエットは重々しく悲痛だが、トリオ部分は全曲の中でも唯一明るく屈託のない表情を持っている。

 チャイコフスキー(1840~93)の弦楽四重奏曲第1番の第2楽章は、「アンダンテ・カンタービレ」として単独でもよく演奏される曲。チャイコフスキーがウクライナ地方で聴いた民謡のメロディが使われており、この曲の初演を聴いたトルストイがあまりの美しさに涙を流した、というエピソードが伝えられている。

 弦楽四重奏曲というジャンルにおいて、ベートーヴェンと並んで重要なのがバルトーク(1881~1945)の6曲である。その中でも第4番は特に規模が大きく、また演奏の難度が高いことで知られている。すべてピッツィカートで演奏される曲で、特に通常のピッツィカートよりも強く弦を引っ張って指板に打ち付ける「バルトーク・ピッツィカート」が使われている。

 古今のピアノ五重奏曲の中で、シューベルトの「ます」やブラームスの作品と並んで名曲の誉れ高いのがドヴォルジャークのピアノ五重奏曲第2番だ。豊かなメロディや明快な構成を持ち、哀愁を帯びた雰囲気や素朴な幸福感といったドヴォルジャークの音楽の美点がふんだんに盛り込まれた名曲である。第1楽章はスケール感の大きい音楽で、ドヴォルジャークらしいロマンティックな旋律美が印象的だ。第4楽章は力強くドラマティックなフィナーレの音楽である。

(むろた なおこ・音楽ライター)

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