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【聴きどころ】

アジアの雄 チョーリャン・リンのいまを聴く
-響感のアジア I (6/11)-
-室内楽公開マスタークラス (6/12)-

山田治生(音楽評論家)

20世紀後半から、アジア出身で真にインターナショナルな名声を博しているヴァイオリニストといえば、韓国出身のチョン・キョンファ(鄭京和)、台湾出身のチョーリャン・リン(林昭亮)、日本出身の五嶋みどりの3人に違いない。
メジャー・レーベルにメンデルスゾーン、ブルッフ、シベリウス、ニールセン、ストラヴィンスキー、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲を録音するなど、ソリストとして華々しい活躍をするリンは、室内楽プレーヤーとしても高い評価を受けている。

サントリーホールに初登場したのは、1986年11月の「アイザック・スターンと仲間たち」。スターン、ヨーヨー・マ、アックスら綺羅星のようなアーティストとともに室内楽曲や協奏曲を奏でた。私はこのときの演奏会を聴くことはできなかったが、その3年後の1989年12月にカーネギーホールでひらかれたスターン、ヨーヨー・マ、アックスらとのブラームスの室内楽の夕べは聴いた。ブラームスの弦楽六重奏曲第1,2番とピアノ四重奏曲第1,2番を2晩で演奏したこのコンサートにおいて特に印象に残ったのは、六重奏曲の第2ヴァイオリンを弾いたリンだった。

第1ヴァイオリンのスターンを献身的にフォローする彼の姿は感動的でさえあったのである。この年、同じメンバーで同曲のレコーディングも行われた。

1999年には、サントリーホールのフェスティバル・ソロイスツにゲストとして参加。竹澤恭子、豊嶋泰嗣、清水直子、堤、工藤すみれとブラームスの弦楽六重奏曲第1番を演奏するほか、プロコフィエフの2つのヴァイオリンのためのソナタも弾いた。このときはリンらしい骨太で力強い音が聴けた。

今回のチェンバーミュージック・ガーデンの協奏曲と室内楽を組み合わせたプログラムは、そんなリンの音楽性を知るには最適のプログラムといえよう。ハイドンのヴァイオリン協奏曲第1番は、リンがデビュー・アルバム(マリナー指揮ミネソタ管弦楽団)で取り上げた作品である。バッハやヴィヴァルディでの、87年に中国人として初めてロン・ティボー国際コンクールに優勝したジョウ・チェンや堤剛との共演は和やかなものになるだろう。ヨン・シュー・トー音楽院やサントリーホール室内楽アカデミーの若い奏者たちからなるオーケストラとの交歓も楽しみ。
前半は、ピアノの佐藤卓史、チェロの横坂源という日本の若い音楽家たちと共演する。ドヴォルザークのソナチネからはリンのチャーミングな人柄が伝わってきそうであるし、アレンスキーのピアノ三重奏曲では哀愁のカンタービレを聴くことができるだろう。

また、公開マスタークラスがとても楽しみである。リンのマスタークラスは、受講生だけでなく、一般の聴衆にとっても面白くてためになるから。私は仙台国際音楽コンクールで彼のマスタークラスを聴講したことがある。受講生は中学3年生の三澤響果、曲はサラサーテの「カルメン幻想曲」だった。 さすがにジュリアード音楽院で長年教えているだけあり、彼の指導は、ユーモアを交えながら簡潔でわかりやすい。
リンの1時間のレッスンによって、シャイな受講生が自分の殻を破り、彼女が今までに経験したことのない表現にまで達したことが聴衆にもはっきりとわかった。リンは、初心者から上級者まであらゆるレベルの受講生に対して温かく誠実に接する。 サントリーホール室内楽アカデミーやヨン・シュー・トー音楽院の若い音楽家たちとどのようなマスタークラスを“作り上げる”のか、興味津々である。



公演情報詳細はこちら    響感のアジアI  6/11(土)19時開演     室内楽公開マスタークラス 6/12(日)19時開始

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