室内楽アカデミーとチェンバーミュージック・ガーデン2017

山田治生(音楽評論家)

  • 開講式

    室内楽 アカデミー・ディレクター堤剛の挨拶(第4期開講式)

サントリーホール室内楽アカデミー第4期は、2016年9月、サントリーホール・リハーサル室での開講式でスタートした。第4期では、堤剛アカデミー・ディレクター、花田和加子、第3期にアソシエイト・ディレクターを務めた池田菊衛磯村和英に加え、新たに原田幸一郎毛利伯郎練木繁夫がファカルティ(講師)として参加することになった。元東京クヮルテットの3名が指導者として揃うとは、室内楽を学ぶ場としてはこれ以上にない環境である。フェロー(受講生)は、アンサンブル参加のアミクス弦楽四重奏団、アルネア・カルテット、トリオ デルアルテ、レイア・トリオの4団体と、個人参加の7名。東京藝術大学附属高校3年生から現役のオーケストラ団員まで、若くて優秀な奏者たちが集まった。ワークショップ(マスタークラス)は毎月2日間ひらかれる。
今期のワークショップの特徴は、フェローの演奏に対して、経験豊かなファカルティたちが意見を出し合って進めていくこと。練木もピアニストの立場から、弦楽器奏者たちにも積極的に発言する。ファカルティからはすごい情報量のアドバイスが提供される。最初の頃は、ファカルティからかなり厳しい言葉が発せられることもあった。

  • 開講式

    ワークショップ風景 ピアノ:練木繁夫(ファカルティ)

第3期までのワークショップよりも張り詰めた雰囲気があった。
12月13日には、ヴァイオリニストの桐山健志氏を講師に招き、「原典版の扱い方」についての講習が行われた。原典版とは原典史料(自筆譜と初版譜)に基づく版であり、自筆譜と初版譜のどちらを尊重したかでも変わってくる。桐山氏は、作曲者の意図を正確に読み取り、書かれてあることを納得して演奏することが大事だと強調した。
2017年2月から8月までサントリーホールの改修が行われたため、室内楽アカデミーもワークショップの会場を赤坂区民センターや幡ヶ谷のアスピアホールに移して開催された。
そして、例年6月に開催されるチェンバーミュージック・ガーデン(以下CMGと略す)も、当年は9月にひらかれることになっていた。それゆえに、CMGでの出演者を決める選抜演奏会は例年よりも遅く6月になった。

  • 選抜レイア・トリオ

    選抜公開演奏会 レイア・トリオ(ヴァイオリン:小川響子 チェロ:加藤陽子 ピアノ:稲生亜沙紀)

選抜演奏会は6月7日と8日に行われた。この2日間の演奏に対するファカルティの審査で、9月のCMGの「フィナーレ」に出演する団体、「マルシェ ワンコイン・コンサート」でヘーデンボルク・トリオとブラームスのピアノ五重奏曲で共演するヴァイオリンとヴィオラの奏者が決められる。7日は赤坂区民センターで一般公開の形で開催され、8日はアスピアホールで行われた。
8日の講評で、ラヴェルのピアノ三重奏曲を演奏したレイア・トリオを「三人で音楽と一体となっていて、素晴らしかった」と堤は褒めた。トリオ デルアルテによるシューマンのピアノ三重奏曲第3番に練木は「とても楽しく聴かせていただきました」と述べた。年度途中から組まれた、個人参加の石倉、竹本、樹神、北垣のカルテットによるドビュッシーの弦楽四重奏曲に、原田は「この難しいドビュッシーの曲をよくまとめた」と感心する。4月に第1ヴァイオリンが交替したアルネア・カルテットのベートーヴェンの弦楽四重奏曲第4番に毛利は「まとまってきた」とコメント。モーツァルトの弦楽四重奏曲第23番「プロシア王第3番」を弾いたアミクス弦楽四重奏団に磯村は「モーツァルトの斬新さをもっと楽しんで聴かせてください」とアドバイスした。

  • 選抜公開演奏会

    選抜公開演奏会 ヴァイオリン:石倉瑶子 竹本百合子 ヴィオラ:樹神有紀 チェロ:北垣彩

  • 選抜公開演奏会

    選抜公開演奏会 アミクス弦楽四重奏団(ヴァイオリン:宮川奈々、宮本有里 ヴィオラ:山本周 チェロ:松本亜優)

6月11日には調布国際音楽祭に「チェンバーミュージック・ガラ・コンサート」としてサントリーホール室内楽アカデミーが参加した。原田幸一郎、磯村和英、毛利伯郎とフェローたちが、ブラームスの弦楽六重奏曲やメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲第1楽章などを演奏。

  • 「堤剛プロデュース」

    「堤剛プロデュース」ヴァイオリン:原田幸一郎、池田菊衛 ヴィオラ:磯村和英 チェロ:堤剛 ピアノ:練木繁夫

2017年のチェンバーミュージック・ガーデンは、9月15日に始まった。例年、約半月間にわたって開催されるが、今回は、10日間に短縮されたゆえに、CMGの恒例となっている一つのクァルテットによるベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏は行われなかった。
オープニングは、サントリーホール館長・堤剛プロデュースする室内楽コンサートである。ブラームス・プログラムで、弦楽六重奏曲第1番とピアノ五重奏曲。アカデミー・ディレクターの堤のほか、原田幸一郎池田菊衛磯村和英毛利伯郎練木繁夫ら、室内楽アカデミーのファカルティ陣が総出演した。豊嶋泰嗣が加わった弦楽六重奏曲第1番では、それぞれの奏者の個性やヒストリーが合わさった、ブラームスへの熱い思いを聴くことができた。原田はとてもロマンティックに歌い、池田は正確なアンサンブルで応える。堤が濃厚なカンタービレを披露。若い頃の作品ではあるが、演奏はまさに円熟のブラームス。ピアノ五重奏曲は、弦楽器陣が原田、池田、磯村、堤であり、東京クヮルテットを支えた3人が揃った。練木はバランスにも配慮した明晰なピアノ演奏。スケールの大きさもあった。

  • 「三重奏の愉しみⅡ」クラリネット

    「三重奏の愉しみⅡ」クラリネット:リチャード・ストルツマン ヴィオラ:磯村和英 ピアノ:小菅優

2017年はファカルティによるコンサートが2つ企画され、原田、池田、磯村、毛利がクァルテットを組んで、ウェーベルンやベルクを演奏し、練木がフェデリコ・アゴスティーニらとともにR.シュトラウスのピアノ四重奏曲やヴァイオリン・ソナタを奏でた。
また、「三重奏の愉しみ」と題して、オーストリア出身の3兄弟によるヘーデンボルク・トリオの日本デビュー・リサイタルがひらかれ、リチャード・ストルツマン磯村和英小菅優によるクラリネット、ヴィオラ、ピアノの三重奏もあった。
アカデミーのフェローたちによる「マルシェ ワンコイン・コンサート」は、16日と23日に開催された。第4期のフェローである、トリオ デルアルテ(内野佑佳子、金子遥亮、久保山菜摘)、レイア・トリオ(小川響子、加藤陽子、稲生亜沙紀)、アミクス弦楽四重奏曲(宮川奈々、宮本有里、山本周、松本亜優)、アルネア・カルテット(山縣郁音、今高友香、川上拓人、清水唯史)、そのほか個人参加の石倉瑤子、白井麻友、竹本百合子、樹神有紀、秋津瑞貴、北垣彩、高橋里奈らが総出演して、日ごろの研鑚の成果を披露した。

  • 「マルシェ ワンコイン・コンサート」アルネア・カルテット

    「マルシェ ワンコイン・コンサート」アルネア・カルテット(ヴァイオリン:山縣郁音、今高友香 ヴィオラ:川上拓人 チェロ:清水唯史)

  • 「マルシェ ワンコイン・コンサート」

    「マルシェ ワンコイン・コンサート」ヘーデンボルク・トリオ ヴァイオリン:内野佑佳子 ヴィオラ:川上拓人

  • 「フィナーレ2017」

    「フィナーレ2017」フルート:上野由恵 オーボエ:荒絵理子 クラリネット:亀井良信 ファゴット:福士マリ子 ホルン:福川伸陽 ピアノ:三浦友理枝

16日のコンサートで印象に残ったのは、アミクス弦楽四重奏団によるラヴェルの弦楽四重奏曲第1楽章。洗練された美しい演奏。各パートが充実していた。
23日のコンサートでは、最後にヘーデンボルク・トリオが特別参加し、ヴァイオリンの内野佑佳子、ヴィオラの川上拓人とともに、ブラームスのピアノ五重奏曲第1楽章を演奏した。ヘーデンボルク・トリオはウィーン風の柔らかな響きを披露。特に第1ヴァイオリンを務めたヘーデンボルク・和樹の力むことのない自然な演奏に魅了された。ピアノのヘーデンボルク・洋も優しい音。第2ヴァイオリンの内野が他の奏者と積極的にアンサンブルを取ろうとする。二人のフェローにとってはとても貴重な経験となったに違いない。そのほか、アミクス弦楽四重奏団は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第23番「プロイセン王四重奏曲第3番」第1楽章で、宮川を中心に精度の高いアンサンブルを奏でた。アルネア・カルテットは、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置でシューベルトの弦楽四重奏曲第13番「ロザムンデ」第2楽章を弾く。慎重で丁寧な演奏。トリオ デルアルテによるメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番第1楽章では、内野が情熱的な力演。石倉、竹本、樹神、北垣による四重奏は、ドビュッシーの弦楽四重奏曲第1、2楽章を演奏。一人ひとりがよく弾けている。レイア・トリオによるラヴェルのピアノ三重奏曲第2、4楽章は迫力があり、スケールも大きかった。鮮やかな色彩。白井、秋津、高橋のトリオは、ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番第4楽章を演奏。ピアノの高橋がパワフルに弾いた。

  • 「フィナーレ2017」

    「フィナーレ2017」フルート:上野由恵 オーボエ:荒絵理子 クラリネット:亀井良信 ファゴット:福士マリ子 ホルン:福川伸陽 ピアノ:三浦友理枝

最終日の9月24日は、「フィナーレ2017」。堤剛、室内楽アカデミーのファカルティ、CMGの常連演奏家、ヘーデンボルク・トリオ、東京六人組、そして、室内楽アカデミーからレイア・トリオが出演した。ピアノの三浦友理枝上野由恵荒絵理子福士マリ子福川伸陽ら若手実力派の管楽器奏者が集う東京六人組(この日は、体調不良の金子平に代わって亀井良信が出演)がプーランクの六重奏曲第1楽章で名手揃いのアンサンブルを披露。ヘーデンボルク・トリオは、川本嘉子吉田秀とシューベルトの『ます』第4、5楽章。ヘーデンボルク・トリオが中心となって、まさに家庭的な音楽会話が展開された。アカデミー代表のレイア・トリオはショスタコーヴィチの若き日のピアノ三重奏曲第1番を弾いた。彼女たちは若々しい情熱と技巧の高さを示す。途中、チェロの弦が緩むアクシデントもあったが、最後まで完奏。先輩たちのアンサンブルに劣ることのない演奏で大健闘した。メインのベートーヴェンの七重奏曲には、竹澤恭子、川本、堤、吉田、亀井、福士、福川が出演。竹澤がアグレッシヴに全体をリード。
紆余曲折はあったものの、丸1年かけて作られたフェローたちのアンサンブルは、CMGで著しい進歩を示した。また、ファカルティたちの円熟の芸をCMGで間近に聴くことができたこともフェローたちには大きな刺激となったに違いない。

  • 「フィナーレ2017」

    「フィナーレ2017」オーボエ:荒絵理子 ヴァイオリン:渡辺玲子 ヴィオラ:川本嘉子 チェロ:毛利伯郎

  • 「フィナーレ2017」

    「フィナーレ2017」ヴァイオリン:竹澤恭子 ヴィオラ:川本嘉子 チェロ:堤剛 コントラバス:吉田秀 クラリネット:亀井良信 ファゴット:福士マリ子 ホルン:福川伸陽

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