葵トリオがミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ三重奏部門第1位の快挙!

「サントリーホール室内楽アカデミー」第3期・4期で学んだ小川響子(ヴァイオリン)、伊東裕(チェロ)、秋元孝介(ピアノ)の葵トリオが、2018年9月ミュンヘン国際音楽コンクールで第1位の快挙を成し遂げました。室内楽の分野における優勝は東京クヮルテット以来48年ぶりです。

室内楽アカデミーでは、2014~16年の第4期も密度の濃い活動が行われました。2年間のワークショップ、チェンバーミュージック・ガーデンの公演を取材した片桐卓也氏、山田治生氏のレポートをフェローへのインタビューも交えてご紹介します。

室内楽アカデミー 2017年度の活動

山田治生(音楽評論家)

2017-2018年度は、サントリーホール室内楽アカデミー第4期にとっては2年目(最終年度)となる。昨年度に引き続き、堤剛アカデミー・ディレクターのもと、ヴァイオリンの原田幸一郎池田菊衛花田和加子、ヴィオラの磯村和英、チェロの毛利伯郎、ピアノの練木繁夫がファカルティ(講師)を務め、アミクス弦楽四重奏団(宮川奈々、宮本有里、山本周、松本亜優)、アルネア・カルテット(山縣郁音、今高友香、川上拓人、清水唯史)、トリオ デルアルテ(内野佑佳子、金子遥亮、久保山菜摘)、レイア・トリオ(小川響子、加藤陽子、稲生亜沙紀)の4団体と、7名の個人(石倉瑶子、竹本百合子、井上祐吾、北垣彩の弦楽四重奏と白井麻友、秋津瑞貴、高橋里奈のピアノ三重奏に分かれる)が、フェロー(受講生)として参加した。
ワークショップ(=マスタークラス)は、1か月に2日間、主にサントリーホールのリハーサル室でひらかれ、そのほかブルーローズ、赤坂区民センター区民ホール、幡ヶ谷のアスピアホールなどでも行われた。6つの団体がそれぞれ練習してきた曲をみんなの前で演奏し、ファカルティたちが意見を出し合って、指導していくというスタイル。昨年度のチェンバーミュージック・ガーデン(以下、CMGと略す)が9月開催であったため、新年度は10月から始まった。そして10月12日には、メナヘム・プレスラーの特別ワークショップがひらかれた(注:昨年のレポートを参照

  • 左から毛利、磯村、練木、堤、原田、池田、花田

    左から毛利、磯村、練木、堤、原田、池田、花田

ファカルティとして元東京クヮルテットのメンバー3人が指導に当たっていることは現在の室内楽アカデミーの大きな特長といえるだろう。彼らの言葉には長い演奏経験に基づく重みが感じられる。また、5人のファカルティがアメリカで学んだことも、このアカデミーの特色にあげられよう。
原田幸一郎の指導は、具体的かつ実践的である。常に高いレベルの演奏が要求される。いつも冷静で、ときに厳しいことも語られるが、その言葉の端々に音楽への情熱が感じられる。
池田菊衛は明確に演奏を分析し、はっきりとした判断を下す。一度、フェローたちがワークショップで詰めの甘い演奏をしたときには、「すべての部分で準備不足。君たち、もっと練習しないと。お互いにとっての時間の無駄。もっと高いレベルで弾いてほしい」ときっぱりと熱く語った。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番のカヴァティーナをフェローたちが演奏したときには、「(東京クヮルテットの)スカラ座でのベートーヴェン・ツィクルスのアンコールでこのカヴァティーナを弾いたときは、終わって20秒くらいシーンとして拍手もなかった。クァルテットの全員が泣いていた」という特別な思い出話も披露した。彼の言葉はいつも興味深い。
磯村和英はしばしばワークショップの進行役を務める。その率直で自由で情熱的な言葉にはいつも若い音楽家たちへの愛情が感じられる。
毛利伯郎も経験に裏打ちされた的確な指導を行う。とりわけチェロ奏者にとって、そのアドバイスは非常に有益であったに違いない。
練木繁夫も、豊富な室内楽経験から、積極的にアドバイスする。もちろん、ピアノ三重奏での、ピアニストへの細微にわたる指導は他の誰にもできないものであろうが、弦楽四重奏でのコメントも、非常に示唆に富む。
花田和加子は、いつも理論的かつ細やかな助言でフェローたちをサポートする。この室内楽アカデミーで長く指導にあたっている彼女を、フェローたちはとても頼りにしている。
そして、堤剛の膨大な演奏経験と幅広い教養から語られる言葉には、深みと重みがある。そして一人ひとりのフェローに対するディレクターとしての心遣いも感じられる。

  • 左から毛利、磯村、練木、堤、原田、池田、花田

    左から毛利、磯村、練木、堤、原田、池田、花田

12月18、19日のワークショップには、ヴァイオリンの竹澤恭子がゲストファカルティとして参加した。6月のCMGでデビュー30周年記念の室内楽を演奏する彼女が、そのコンサートでの共演者を見つけるためでもあった。竹澤はフェローたちに「第1ヴァイオリンがヴィブラートをかけたり、かけなかったりだけど、もっとコントロールしてかけて」、「身体を硬くせず、ffを出す」、「もっとインサイドで歌って」などの言葉をかけた。

3月には、サントリーホールと提携関係にあるヨン・シュー・トー音楽院(シンガポール国立大学音楽学部)との協働企画として、シンガポールで2つのコンサートがひらかれ、サントリーホール室内楽アカデミーから7人のフェローが参加した。3月20日に、音楽院のコンサートホールで、室内楽アカデミーのフェローたちのコンサートがあり、前半に石倉、竹本、井上、北垣がモーツァルトの弦楽四重奏曲第22番「プロイセン王第2番」とベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番を、後半にトリオ デルアルテがドヴォルジャークのピアノ三重奏曲第3番を演奏した。3月24日には、ヴィクトリア・コンサートホールで、ヨン・シュー・トー音楽院主催による、ドビュッシー没後100周年を記念するコンサートがひらかれ、室内楽アカデミーからの7人は、ドビュッシーのピアノ三重奏曲第1楽章、弦楽四重奏曲第3楽章、「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタの第1楽章で、音楽院の学生たちと共演した。このコンサートでは、ファカルティの池田と花田もアンサンブルの指導に当たった。

  • チェンバーミュージック・ガーデン「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」(2018年6月)

    アミクス弦楽四重奏団

    アミクス弦楽四重奏団

  • 白井麻友、秋津瑞貴、高橋里奈

    白井麻友、秋津瑞貴、高橋里奈

  • アルネア・カルテット

    アルネア・カルテット

4月17、18日のブルーローズ(小ホール)でのワークショップは、6月に開催されるCMGでの出演のオーディションを兼ねた、選抜演奏会となった。各団体が1曲を通して演奏し、終了後、ファカルティたちが意見や感想を述べる。2年間の研鑚の集大成といえる場であり、それぞれの団体がレベルの高い演奏を披露した。
アミクス弦楽四重奏団はバルトークの弦楽四重奏曲第4番を演奏。バルトークといえば、かつて東京クヮルテットがドイツ・グラモフォンに録音を残したレパートリーである。磯村は「よく頑張った。アンサンブルがたいへんな曲。弾力のあるリズムがほしい。拍が全部同じように聞こえる。もっと思い切って。凝縮されたエネルギーほしい」とコメント。原田は「ややこしい曲を頑張った。でも、バルトークはもっと緻密でないと、効果が薄い」という。
石倉・竹本・井上・北垣組は、シンガポールで弾いた「プロイセン王第2番」。堤は「素晴らしい。翳があるとより素晴らしくなる」という。磯村は「ブラボーでした」と褒める。原田は「とても上手なヴァイオリン。素晴らしい。ピアノにもっと神経を使うとよくなる」とアドバイス。毛利は「冗談っぽいところが真面目すぎるかな」とコメント。花田は「シンガポールのときよりもバランスがよくなった」と述べた。
トリオ デルアルテもシンガポールで弾いたドヴォルジャークのピアノ三重奏曲第3番を披露。堤は「ハイレベルの演奏」と高く評価する。練木は「歯車が合っていた。集中力があった」と述べる。原田は「ベートーヴェンやシューベルトではない、ドヴォルザークの旋律をもっと魅力的に」とアドバイス。
白井・秋津・高橋組は、シューベルトのピアノ三重奏曲第1番。堤は「この難しい曲をよく弾いていた」と褒める。原田も「一番難しいトリオをよく勉強した」と評する。練木は「高橋さんはとても成長した。第3楽章にもう少しユーモアがほしかった」とコメント。
アルネア・カルテットはスメタナの弦楽四重奏曲第1番「わが生涯より」を弾いた。毛利が「すごく良くなっている。音もパワーアップした。ただ、音程をもっと良くしないと」とコメント。原田も「音程が気になる。もっとパッションがほしい」とアドバイス。練木は「楽しんで聴かせてもらった」と感想を述べた。花田は「4人のヴィブラートの速度が違う」と指摘。
レイア・トリオは、ブラームスのピアノ三重奏曲第3番を演奏した。練木は「ブラボー」と称賛。原田も「今日の演奏をそのままCDにしてもいい」と高い評価。磯村は「バランスがすごく良かった」という。

  • チェンバーミュージック・ガーデン「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」(2018年6月)

    アミクス弦楽四重奏団

    アミクス弦楽四重奏団

  • 白井麻友、秋津瑞貴、高橋里奈

    白井麻友、秋津瑞貴、高橋里奈

  • アルネア・カルテット

    アルネア・カルテット

6月2日から17日まで、サントリーホール ブルーローズ(小ホール)でチェンバーミュージック・ガーデンが開催された。室内楽アカデミーのフェローたちは全員、3日と16日の「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」に出演。なかでもレイア・トリオの一体感のある演奏が印象に残った。しばしばアイコンタクトがあり、3人の息が合っている。実際、3人の距離がとても近く感じられた。また、石倉・竹本・井上・北垣組の「プロイセン王第2番」での、石倉の柔らかく美しい音色がまさにモーツァルトにふさわしかった。

  • 「竹澤恭子の室内楽」での演奏

    「竹澤恭子の室内楽」での演奏

13日の「竹澤恭子の室内楽」では、アミクス弦楽四重奏団がベートーヴェンの「大フーガ」を演奏し、内野佑佳子と川上拓人が竹澤恭子、川本嘉子、横坂源と、メンデルスゾーンの弦楽五重奏曲第2番を共演した。難曲「大フーガ」でのアミクス弦楽四重奏団の熱演は大健闘といえよう。メンデルスゾーンでは、竹澤の渾身のリードに、フェローたちも影響を受けたに違いない。
そのほか6日の「プレシャス1pm Vol.1」では、原田、池田、磯村、毛利、練木のファカルティ5人がアンサンブルを組み、室内楽の名曲を演奏した。
17日の「フィナーレ」では、小川響子や山本周が渡辺玲子らのアンサンブルに参加し、レイア・トリオがブラームスのピアノ三重奏曲第3番第1楽章を弾いた。レイア・トリオのブラームスはアカデミーでの2年間の成果を示す名演だったと思う。3人が音を合わせるだけでなく、心を通わせているのが感じられた。そして最後に、フェローたちによってCMGアンサンブルが編成され、吉野直子、ライナー・キュッヒル、堤剛らと協奏曲的な小品を楽しんだ。

  • 「フィナーレ」吉野直子(ハープ)とCMGアンサンブル

    「フィナーレ」吉野直子(ハープ)とCMGアンサンブル

  • 「フィナーレ」ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)らとCMGアンサンブル

    「フィナーレ」ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)らとCMGアンサンブル

第4期が終わり、フェローたちは、あらたなスタートを切ることになる。活動を継続するグループもあれば、個人として留学する者もいる。早速7月にレイア・トリオの小川響子が出身校の東京藝術大学からベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーに派遣されることが発表され、10月からベルリンで学んでいる。それぞれがサントリーホール室内楽アカデミーでの経験を活かして、大きく羽ばたいていくことを期待したい。

  • 「竹澤恭子の室内楽」での演奏

    「竹澤恭子の室内楽」での演奏

  • 「フィナーレ」吉野直子(ハープ)とCMGアンサンブル

    「フィナーレ」吉野直子(ハープ)とCMGアンサンブル

  • 「フィナーレ」ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)らとCMGアンサンブル

    「フィナーレ」ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)らとCMGアンサンブル

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