熱中症警戒アラートと暑さ指数(WBGT)とは?職場での熱中症を防ぐための活用ポイント
熱中症による救急搬送数は総務省の調査によると2024年5~9月は9万7,578人で昨年同期より6,111人も増えています。
職場における熱中症の発生も増えており、職場での熱中症対策に課題を抱え改善に取り組んでいる担当者の方もいるのではないでしょうか。
この記事では、環境省が情報提供している熱中症警戒アラートと暑さ指数(WBGT)に着目し、職場における対策で重要なこと、熱中症警戒アラートと暑さ指数の活用ポイントについて解説します。
目次
熱中症警戒アラートとは?
酷暑が続く近年、7月~9月には日本各地で連日のように「熱中症警戒アラート」が発表されています。2024年からは新たに「熱中症特別警戒アラート」が創設され、運用が始まりました。それぞれどのような状況のときに発表されるのか解説します。
熱中症警戒アラート(熱中症警戒情報)は2021年から
近年、熱中症搬送者数が著しく増加していることを背景に環境省と気象庁の連携により、2021年に運用が開始されました。熱中症の危険性が高まると予測されるときに、熱中症リスクへの「気づき」を促すものとして発表されます。
天気予報などで使用される「府県予報区等内において、いずれかの暑さ指数情報提供地点における、翌日・当日の日最高暑さ指数(WBGT)が33(予測値)に達する場合に発表」されます。
熱中症警戒アラートが発表された場合、管理者がいる場所やイベントなどでは適切な熱中症対策がとれているかの確認が促されています。
熱中症特別警戒アラート(熱中症特別警戒情報)は2024年から
2023年に気候変動適応法が改正され、「熱中症警戒アラート」が「熱中症警戒情報」として法律に位置付けられました。同時に、これまで以上に深刻な熱中症による健康被害に備えるために創設されたのが「熱中症特別警戒情報(通称:熱中症特別警戒アラート)」です。環境省により2024年4月に運用が開始されています。
「都道府県内において、全ての暑さ指数情報提供地点における、翌日の日最高暑さ指数(WBGT)が35(予測値)に達する場合等に発表」されます。発表された場合は、過去に例のない危険な暑さが予測されており重大な被害が生じるおそれがあります。校長や経営者、イベント主催者などの管理者に対して、場合によっては、運動、外出、イベントの中止、延期、変更(リモートワークを含む)といった判断を求めるものでもあります。
暑さ指数(WBGT)とは?
熱中症警戒アラートなどで指標とされる「暑さ指数(WBGT)」とは何なのか、ここで詳しく解説します。
熱中症の予防目的で気温・湿度・輻射熱を取り入れた指標
暑さ指数(WBGT)とは、熱中症予防を目的に1954年にアメリカで提案された「熱中症の危険度を判断する指標」です。「WBGT」はWet Bulb Globe Temperatureの略称で日本語では「湿球黒球温度」と訳されています。
熱中症の発症には気温の高さだけでなく、湿度や輻射熱も関係しています。そのため、暑さ指数(WBGT)は「気温」「湿度」「輻射熱」の3つを取り入れた指標となっています。ちなみに輻射熱とは、日差しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出ている熱のことで、温度が高いものからはたくさん出るとされています。
暑さ指数(WBGT)は乾球温度、湿球温度、黒球温度が測定できる装置を使って、以下の3種類の計測値をもとに算出されます。
暑さ指数(WBGT)=気温1(乾球温度計):湿度7(湿球温度計):輻射熱(黒球温度計)2
熱中症というと気温の高さにばかり目が行きがちですが、湿度が大きな要素を占めていることがわかります。なお、暑さ指数(WBGT)の単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。気温との混同を避けるため、単位の摂氏度(℃)を省略して記載されるのが一般的です。
日常生活・運動時・労働時の指針として有効
日常生活や運動環境、労働環境の指針として暑さ指数(WBGT)はさまざまな場面で活用されています。暑さ指数(WBGT)が28を超えると熱中症患者が著しく増加するとされていますが、28以下でも活動の強度によっては熱中症を発症する場合もあります。
例えば、日本生気象学会では「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」(2022)を公表し、すべての生活活動で暑さ指数(WBGT)が「28以上31未満」を厳重警戒、「31以上」を危険、中等度以上の生活活動では「25以上28未満」を警戒、強い生活活動では「25未満」を注意としています。
また、公益財団法人日本スポーツ協会では「熱中症予防運動指針」で、暑さ指数31以上は「運動は原則中止」、28以上31未満は「厳重警戒(激しい運動は中止)」、25以上28未満は「警戒(積極的に休息)」、21以上25未満は「注意(積極的に水分補給)」としています。
労働時の指針については、日常生活や運動とはまた別の観点が重要となるため次で詳しく紹介します。
暑さ指数(WBGT)の基準値は職場での作業強度により変わる!
暑さ指数(WBGT)を活用する際、労働環境下においては作業の内容が軽いか激しいか、体が暑さになれているかどうかによっても熱中症のリスクが変わってきます。作業強度による基準値の変動と着用衣服による基準値の補正について解説します。
作業強度によって変わる基準値
働く人が担う作業にはさまざまな強度のものが混在しています。また、職場には長年働いているベテランもいれば、今日が初日という新人もいます。測定された暑さ指数(WBGT)が低い数値だったとしても、全ての人に当てはまるわけではありません。作業の強度が激しい場合、かつ暑さに慣れていない人の場合はWBGT値が20でも熱中症のリスクは高まります。以下に、体にかかる負荷によって熱中症のリスクはどのように高まるのか、変動するWBGTの基準値を紹介します。
〈作業の強度により変わるWBGTの基準値〉
| 熱失神 | WBGT基準値(℃) | |
|---|---|---|
| 暑熱に順化している人 | 暑熱に順化していない人 | |
| 安静 | 33 | 32 |
| 低代謝率:軽い手作業 | 30 | 29 |
| 中程度代謝率:継続的な手および腕の作業 | 28 | 26 |
| 高代謝率:強度の腕および胴体の作業 | 26 | 23 |
| 極高代謝率:最大速度の速さでのとても激しい活動 | 25 | 20 |
衣服による暑さ指数(WBGT)の補正
職場でつなぎ服や防護服などを着用して作業する場合はさらに注意が必要です。作業時に着ている衣服の種類によっても熱中症のリスクは変わるからです。先ほど紹介した作業強度ごとの基準値に衣服ごとの補正値をプラスして、熱中症の危険性を考慮する必要があります。計測によるWGBT値がたとえ低い値でも、衣服によっては、熱中症のリスクが急上昇する可能性があります。
〈衣服による暑さ指数(WBGT)の補正〉
| 組み合わせ | WBGTに加える着衣補正値 |
|---|---|
| 作業服 | 0 |
| つなぎ服 | 0 |
| 単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服 | 2 |
| 単層の SMS 不織布製のつなぎ服 | 0 |
| 織物の衣服を二重に着用した場合 | 3 |
| つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用した場合 | 4 |
| フードなしの単層の不透湿つなぎ服 | 10 |
| フードつき単層の不透湿つなぎ服 | 11 |
| 服の上に着たフードなし不透湿性のつなぎ服 | 12 |
| フード | 1 |
職場における熱中症対策
職場における熱中症を防ぐためには個々人の自覚だけに任せるのではなく、職場ごとの管理者をはじめとする企業全体での取り組みが大切になります。
暑さ指数をどのように活用するか!3つのポイント
暑さ指数が基準値を超える恐れがある場合は「冷房などによりWBGT値の低減を図る」「作業強度の低い作業に変更する」「作業時間の短縮を図る」など具体的な対策を行うことが重要です。また、暑さ指数(WBGT)の活用ポイントとしては以下の3点が挙げられます。
〈暑さ指数(WBGT)3つの活用ポイント〉
1.注意喚起…作業者自身が環境を確認する際に活用
2.評価…WBGTの低減対策の効果があったかを評価する際に活用
3.見直し…作業負担や作業時間の見直しや、作業中止の基準とする際に活用
職場対策で重要な6つのこと
熱中症による災害を職場で防ぐためには多角的な視点で対策を講じる必要があります。以下に職場における対策で重要な6点を紹介します。
1.作業管理者、従事者への情報提供
気象情報、暑さ指数(WBGT値)の計測と周知。熱中症事例などを職場全体で共有する
2.WBGT値低減のための施策
職場に大型扇風機、ドライミスト、日よけを設置したり散水による気温低下を行ったりなど具体的に対策する
3.休憩所を整備する
作業所が屋外であってもエアコン、給水器/冷蔵庫などを整備した休憩所を設ける。また、作業場所の近くに自販機の設置、休憩所代わりの車両などを設置する
4.作業管理
作業時間の短縮、熱への順化、水分/塩分の供給、通気性の良い服装など熱中症のリスクを下げる観点での管理を行う
5.体調管理
朝礼での注意喚起、チェックシートでの自己管理、相互の声掛けなどを徹底し会社全体で従業員の体調に配慮する体制を整える
6.労働衛生教育
応急処置の方法も含め熱中症に関する事前講座、救急時のマニュアルを整備する
【法人専用熱中症対策サービス】企業の導入事例を紹介
猛暑の影響で熱中症による救急搬送数は年々増え、職場における救急搬送や死亡災害も発生しています。作業環境が適切に把握されないまま強度の強い作業が行われたり十分な水分補給が行われなかったりする状況では、短期間で熱中症による意識不明に陥ってしまう場合もあります。
当社では、企業の熱中症対策に寄与するため自販機を活用した「法人専用熱中症対策サービス」を実施しています。
〈サービス内容〉
01. プロ仕様の熱中症対策飲料「DAKARA PRO」
・法人専用の熱中症対策飲料
・発汗時に失われる塩分と鉄分を補給できる仕様に設計
・ゼロカロリーで無果汁
02. 飲料配布をソリューション
・自販機を活用した熱中症対策サービス
・従業員が専用カードで飲料を取り出せる
・利用状況をデータで確認できる
03. 従業員への安全教育をサポート
・従業員への安全教育を全面サポート
・セミナーのコース、所要時間、開催形式、開催場所はカスタマイズが可能
導入事例鴻池運輸株式会社様
このサービスを導入する前は現場ごとの担当者が飲料を調達していたため、手間と労力が掛かっていました。それが、電話一本で必要な数の飲料を複数箇所へ配達してもらえるところにメリットを感じています。現場からも「重いものを運ぶ負担がなくなって良くなった」と声が届いています。
導入事例エプソンアトミックス株式会社様
導入前は自分たちで「飲料の発注」から「在庫・期限管理」「冷蔵庫への補充」までを行っていました。現場への負担が大きいため解決策を探していた時に知ったのが、「DAKARA給水所」です。常に冷えた飲料を取り出せる点、従業員が好きなタイミングで自由に飲料を取り出せる点が導入の決め手となりました。
まとめ
熱中症は気温の高さだけで発症するのではなく、湿度と輻射熱も関係しています。また、労働環境下で熱中症を防ぐためには、作業の強度や、暑さに慣れているかどうか、防護服の着用によりさらにリスクが上がっていないかといった観点も重要になります。仕事に従事している本人への注意喚起だけでなく経営者や管理者など企業全体で取り組むことが大切だといえます。