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アイザック・アシモフと子供たちの「未来予想図」 アイザック・アシモフと子供たちの「未来予想図」

“2012年、わたしたちの子孫は、どんなふうに暮らしているだろう。ボンジュール、我が子よ。ショコラ・ロンバールをインドの航空機で送るから”
En l'an 2000, BnF

玉川 透(たまかわ とおる)

朝日新聞GLOBE編集部・編集長代理

アステイオンVol.91

『アステイオン91』
サントリー文化財団・アステイオン編集委員会 編、CCCメディアハウス 発行
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アイザック・アシモフと子供たちの「未来予想図」

玉川 透
Toru Tamakawa

アステイオン

アイザック・アシモフと子供たちの「未来予想図」

玉川 透 Toru Tamakawa

 100年後の日本を予測する――。今回そんな壮大なテーマを『アステイオン』の企画で取り上げると聞いて、私がまず思い浮かべたのは今年5歳になる娘のことだった。「人生100年」といわれる時代。老い先短い五十路手前の私よりも、実際に生きて目の当たりにするかもしれない彼女は、今どんな100年後を思い描くのだろう?

 朝日新聞が毎月第1日曜に発行している別刷り「GLOBE」(ウェブ版『GLOBE+』:https://globe.asahi.com/)は、昨年10月号で「未来予測」を特集した。その中で紹介した『昭和ちびっこ未来画報~ぼくらの21世紀』(2012年、青幻舎)という本は、1950~70年代、子供向け学習雑誌に掲載された「未来予想図」を数多く収録している。たとえば、『事故0(ゼロ)のハイウェー』(1969年、小松崎茂氏)という作品では、巨大ロボットが高速道路でスピード超過や重量制限オーバーの車を見つけると、超音波を浴びせてエンジンを停止。UFOキャッチャーのようなアームが伸びて、違反車を強制排除する。「交通戦争」と呼ばれた当時の時代背景が色濃く投影されていた。

事故0のフハイウェー

『事故0(ゼロ)のハイウェー』(1969年、小松崎茂氏)=「昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀」より

 『コンピューター学校出現!!』(1969年、小松崎茂氏)という作品では、教室のスクリーンに映った先生が問題を出し、生徒が机の上のコンピューターで答える。現代の予備校にも似たイメージ……と思ったら、教室にへんてこな箱形のロボットが! よそ見をしている子にげんこつを食らわし、アームで生徒を捕まえて教室の隅に立たせている。うーん、どうやら未来の教育現場では「体罰」に厳しい目が向けられるとは予想できなかったみたいだ。

コンピューター学校出現

『コンピューター学校出現!!』(1969年、小松崎茂氏)=「昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀」より

 ■「すごい!」から「終末」「便利」へ
 こうした「未来予想図」が学習雑誌にお目見えしたのは、日本が戦後の焼け野原から奇跡の復活を果たした50年代。『未来画報』の著者で、昭和のレトロ文化専門のフリーライター、初見健一さん(52)によれば、成長の時代だった50~60年代は、とにかく『すごい!』が大前提で、今なら非現実的に思えるものでも当時はリアリティーを持って受け取られていたという。

 ところが70年代になると、「世界の終わり」「終末」「ディストピア」を扱った作品が目立つようになる。「経済成長が頭打ちになり、未来予想図も『反省モード』になるなか、子供たちの好奇心は心霊、超能力などオカルト的なものに向けられたのです」と初見さん。そういえば、当時小学生の私も、『ノストラダムスの大予言』(1973年、五島勉著、祥伝社)を手に汗握って読んだ。人生は今を楽しまなくちゃ損かも……そんな風に考えたっけ。

世界の終わり

『世界大終末7 地球大脱出』(1968年、小松崎茂氏)=「昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀」より

 初見さんは言う。「オカルトブームの反動でしょうか、80年代の子供たちは、存在がはっきりしないものを追い求めるのに疲れ、確かに存在する『今』を楽しむのに忙しくなりました。実用的で、すぐに商品化できるテクノロジーがあこがれの対象になり、未来予想図からも『すごい!』は薄れ、『便利さ』がクローズアップされるようになったのです」

 そして、「冷戦」と「昭和」の終焉とともに、日本の子供たちはかつてのように「非現実的な未来」を夢見ることはなくなった、と初見さんは考えている。

 「令和」の子供たちは、どんな未来を思い描くのか。子供たちが描く未来の世界の絵を見た初見さんは言う。「50~60年代に比べると、荒唐無稽なばかばかしさはないのですが、未来への好奇心や興味も消極的なものになっているのかな、そんな風に感じました」

 ■100年前の人々が描く「100年後の世界」
 現代社会に生きる私たちは、未来を知りたいという「欲望」が減退しているのだろうか。その問いに向き合う上で、大いにヒントを与えてくれそうな文献を見つけた。

 アメリカのSF作家、アイザック・アシモフ(1920~1992)が、1986年に出版した『フューチャーデイズ』(邦題『過去カラ来タ未来』、石ノ森章太郎監訳)というエッセー集。その前書きでアシモフは、こう記している。「自分の運命を知りたいという欲求は、人類全体に何が起きるかを予測したいという欲求と密接に絡み合ってきた」――。

 この本は今から100年以上前、19世紀末のフランスの商業画家ジャン・マルク・コテが描いたとされる「未来予想図」を数多く収載している。たとえば、「新流儀の仕立屋」と題したイラスト。機械のアームがお客を素早く採寸し、好みの布地を本体に突っ込めば、あっという間にオーダーメードの服ができあがり! あれあれ? これって、どこかで見たことあるぞ。話題を呼んだ水玉模様の採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」とそっくり。

新流儀の仕立屋

新流儀の仕立屋 Un Tailleur dernier Genre/En l'an 2000, BnF(En l’an 2000/[illustrations de Jean Marc Côté];Lithographie Villemard et fils,1910, BnF, département des Estampes et de la photographie.)

 味わい深いイラストの数々は、20世紀への節目を祝う祭典の一環として、紙たばこのおまけ「シガレット・カード」のためにデザインされたようだが、つくっていた会社が廃業してしまい、日の目を見ることはなかった。ところが、80年近くたったある日、パリの骨董品店に埋もれていた作品が見いだされ、アシモフが『フューチャーデイズ』で紹介、世に知られることになった。現在、イラスト原画のシリーズは、フランス国立図書館(BnF)に所蔵されている。

 数奇な運命を経た作品の中には、「電気床磨き機」のようにほぼ実現したものもあれば、これはちょっと無理かなと首をかしげてしまうものも少なくない。「学校にて」と題した作品を見ると、教室で生徒たちがヘッドフォンのような器具を頭に付け、回線でつながった機械に先生が分厚い本をじゃんじゃん投入している。どうやら、本の中身を子供たちの脳に直接インストールしているようだ。教育問題は今も昔も切実だったようだ。

電気床磨き機

電気床磨き機 Un Frotteur électrique/En l'an 2000, BnF

学校にて

学校にて A l’École/En l'an 2000, BnF

 現代SFの基礎を築いたと言われるアシモフは、こうした作品をときにはユーモラスに、そして皮肉たっぷりに紹介している。そして、前書きをこう結んでいる。「もちろん、1899年に想像されたことを笑い飛ばしたり、からかったりすることはたやすいことだろう。しかし、今、2085年の生活はどうなっているだろうか、と聞かれたら、いったいどうであろう。冷笑したり、ばかにしたりしないで、この滅多にない好機を利用して、一人の未来主義者の作品をみていこうではないか。そして、彼の間違った点を理解し、また、一方では、これほど愉快で、楽しい空想を描いたイラストレーターを大いに讃えようではないか」――。

 そうなのだ。100年後の未来をあれこれ論じる以前に、今ある常識や悲観的な考えに凝り固まって、創造力の翼がぴくりとも動かない、そんな大人になっていないだろうか。子供の頃を思い出して、娘と一緒に「未来予想図」を描いてみようかな。アシモフの言葉にふと、そんな気持ちにさせられた。

(タイトル画像より)
“2012年、わたしたちの子孫は、どんなふうに暮らしているだろう。ボンジュール、我が子よ。ショコラ・ロンバールをインドの航空機で送るから”
En l'an 2000, BnF

玉川 透(たまかわ とおる)

朝日新聞GLOBE編集部・編集長代理

アステイオンVol.91

『アステイオン91』
サントリー文化財団・アステイオン編集委員会 編、CCCメディアハウス 発行
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