巻頭言

 
ASTEION vol.082 Current Issue vol.082 特集 世界言語としての英語

 

事実上の世界言語としての英語の地位は、アメリカの覇権よりもずっと長持ちしそうだ。 ちょうどローマ帝国が滅びた後も、ラテン語が長らくヨーロッパの共通言語であったように。 言語の覇権は、キーボードの配列と同様、一度確立すると簡単には揺るがない。 外交もビジネスも学芸も国際報道も、今や英語を使わなければ国際社会では成立しない。 母語より英語での発信を重視する知識人も少なくないほどだ。 一つの世界言語があれば多数の言語があるよりも確実に「便利」だ。英語は多様な母語を持つ国々を結びつける し、インドのような多言語社会では国内統合にすら欠かせない。 英語はもはやアメリカ人やイギリス人の専有物ではない。

だが、その英語で日本人は苦戦の連続だ。国際交渉でも知的発信でも、いつも悔しい思いをしている。あれほど学校で英語学習に精を出したあげく、これは一体どうしたわけなのだろう。 教育の英語化を一層推進するのが良いのだろうか。 文部科学省はそう考えているようだし、親たちも子どもに早くから英語を教えて、自分たちの敗者復活戦に懸命だ。

反面、それは母語の言語空間の貧困化を招き、文化的多様性をそこないはしないだろうか。 明治以来の先人の努力によって築いた母語で学べる知的環境で、日本人の教師が日本人の学生にわざわざ下手な英語で教えて二重遭難を起こすのは、賢明ではなかろう。

それでも英語化は進むのかもしれない。実際地球上から多数の言語が消えつつある。 日本語も、スマホに駆逐されつつある「ガラケー」と同じ運命を辿るのだろうか。日本語のガラパゴス空間に住む日本人は、いったい英語とどうつきあうべきなのか? アステイオンは問いたい。

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