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09 『ふるさとをつくる -アマチュア文化最前線』(小島 多恵子・著)を読む 山崎 正和

山崎:まずは、初めての単行本の発刊、おめでとうございます。
読みやすいうえに面白かった。あなたがとても自分を出しているのが、この本の魅力のひとつになっている。地域文化に惚れこんでいる小島さんが、旺盛な好奇心で各地に出かけ、どんどん現場に入り込んで行く。虫もぱくぱく食べる。読んでいると、私も一緒にその場にいるような気分になって楽しかったです。北海道大学の赤フンのエピソードには思わず噴き出してしまいました。ある意味では、私にはとても書けない本ですね(笑)。

惚れこみながらも客観的に

小島:ありがとうございます。今回、あまりにも素の自分をさらけ出してしまい、お恥ずかしい限りなのですが、私が非常に心を惹かれた地域ばかりを紹介していて、読んで下さる方はどう思われるのかやや不安でした。

山崎:一般論として、著者が書く対象に惚れこんでいないと、本は全く面白くないと思っています。私が森鴎外を書いたのも、鴎外が好きだからなんです。高いところから見下ろして、批評・批判ばかりの本は、生産性がないし、心に残りません。
一方で、べた惚れの本も面白くない。でも、あなたは30年にもわたって全国の地域文化活動を見ているから、多くの活動を比較し、相対化して、普遍性や問題点のあぶり出しもできている。惚れこみながら客観性を保つ、そのバランスがとてもいい。

生れたところだけがふるさとではない

山崎:「はじめに」で、自分にはふるさとアイデンティティがないと書いていましたが、私も全く同じなので、驚きました。私の場合は、時代のせいでふるさとを奪われた、言ってみれば、粉砕されてしまった。でも、たまたま生れたところだけがふるさとではないのです。
サントリー地域文化賞は、そういう意味での「ふるさと文化賞」ではありません。一般的に、伝統的な地域というのは、よそ者が入り込みづらい。ところが、サントリー地域文化賞の受賞活動は、多くのよそ者を呼び込んでいます。

小島:いわゆる、よそ者がリーダーになっているところも、けっこうたくさんあります。

山崎:地域に生れ育った人たちだけでなく、地域の外の人たちもいっしょになって、全日本的、あるいは少し誇張して言えば、グローバルな活動をしているのが地域文化賞受賞者の皆さんなのです。そして、文化活動を通じて、人々の間に絆が生まれ、地域への愛着が育っている。絆と愛着を持てる地域がふるさとなのだと思います。

社交が地域文化を育てる

山崎:私は『社交する人間 -ホモ・ソシアビリス』(中央公論新社、2003年)で、社交の復権を説いたけれど、地域文化活動はその社交の場なのです。知らない人同士が集まり、社交を通じて、人々が絆とふるさとへの愛着を育んでいるのだと思います。
贈呈式でお会いする地域文化賞受賞活動のリーダーたちは、皆さん、スピーチがとても上手です。彼らは、地元で生まれ育ったわけではない、多くの人たちをも説得し、言葉の力で活動に巻き込んできた人たちです。
文化活動というのは、上から命令するわけにはいきません。様々な人たちに対してメッセージを発信し、人を集め、自発的に動いてもらうように仕向けないといけない。何百人、何千人もの人を動かしているリーダーたちは、いわば、社交の達人ばかりなのです。

お稽古事文化の伝統

小島:長年、事務局として、候補活動も含めた様々な地域文化活動を見ていると、その数の多さ、多彩さに驚くばかりです。調べたところ、伝統文化が3万以上、アマチュア合唱団は数万はあると言われていて、合唱連盟によると、世界的にも例を見ない多さだそうです。

山崎:それは驚くべき数字です。
日本には昔からお稽古事文化というのがあり、武士や町民、農村でも芸事が盛んだった。小島さんが本の中でも書いているように、日本人は自分で何かの文化活動をすることが非常に好きなのだと思います。何らかの芸事を身につけていることが、コミュニティに入る条件となっている場合もありました。
だから、これほど日本全国で地域文化活動が活発なのでしょう。サントリー地域文化賞をつくった時には、何年かしたら種がつきるのではないかという不安を抱いていたものですが、それは全くの杞憂に終わりました。なにしろ、この賞ができた後で誕生した活動も、次々に受賞しているのですから。

地方は苦難の時代に

小島:これからの地域と文化について、山崎先生はどのようにお考えでしょうか。

山崎:おそらくはこれから、地方は苦難の時代を迎えると思います。安倍内閣は、「地方創生」を打ち出し、地方を守ると言っているけれど、彼らには文化の視点が全く欠けています。地域を支えるのは産業だと、いまだに思っている。すでにハードな産業の時代は終わっているのだから、産業移転をしたところで、東南アジアへの工場進出の流れには勝てません。
むしろ、その土地の文化に根ざした地域特産の創出に力を入れるべきなのです。また、すでに政府や行政が力を入れ始めている観光も、地域文化を活かしたものが注目される時代になっていると思います。文化というのは、思わぬところに思わぬものが生れてくるものだし、そこから思わぬ産業が生れてくる可能性があると思います。
これからの地域は、高齢化とエネルギー不足に対応するため、コンパクトシティー、スモールタウン化することは避けられないでしょう。一方で、文化には多様性が必要で、ある程度の人口がないとその多様性を維持できません。そのためには、各地に多極集中型の都市が生れることも不可欠でしょう。相反する二つの現象が進み、人口集中型の都市の周辺にスモールタウンが点在する形が生まれると思います。このとき、都市の文化とスモールタウンの文化をどのようにつなぎ、隙間を埋めていくかが課題になるでしょう。

写真

ふるさとをつくる ―アマチュア文化最前線

著者 小島 多恵子
発行 筑摩書房
発行日 2014年9月18日(木)

目次

はじめに

第1章 地域文化の開拓者たち
  • 進化し続ける祭り -北海道札幌市「YOSAKOIソーラン祭り」
  • 小さな町の大きな挑戦 -北海道江差町「江差追分会」
  • 雪合戦で世界を目指す -北海道壮瞥町「昭和新山国際雪合戦」
第2章 アマチュア文化大国・日本
  • 日本型ボランティア -長野県飯田市「いいだ人形劇フェスタ」
  • 目指すは日本一のアマチュア -大阪府能勢町「能勢 浄瑠璃の里」
  • 感動体験こそ教育だ -沖縄県うるま市「現代版組踊『肝高の阿麻和利』」
第3章 ふるさとを継ぐ
  • 町並みから村並みへ -愛媛県内子町 岡田文淑さん
  • 文化の力で復興を -福島県川俣町「コスキン・エン・ハポン」
  • 祭りが地域を守る -高知県仁淀川町「秋葉神社祭礼練り保存会」

山崎 正和(やまざき まさかず)

大阪大学名誉教授

小島 多恵子(こじま たえこ)

公益財団法人サントリー文化財団上席研究員

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